第2話 グラビアアイドルって今もいますよね?

(……広いな!)

 店舗は2階建てで、入店する前から大きいことは分かっていたが、実際に中に入ってみるとその広さ・商品の多さは目を見張るものがあった。


 以前は立ち読みし放題だったマンガも、しっかりとビニールがかけられ最近ではそうはいかないようだ。

 営業の合間に時々マンガ週刊誌を立ち読みするのだが、時々なので面白そうなマンガがあってもストーリーをあまり把握出来ていなかったりする。まあ俺も一応は社会人なので大人買いするくらいの金はあるのだが、買ってみてあまり面白くなかったらどうしようと思うと、中々そうする気にはなれなかった。

 もし以前のように立ち読みが出来れば気になっていた作品の続きを読み、感触が良ければ買おうかと思っていたので少々残念ではあった。まあ店側の事情も当然あるわけだし仕方のないことだ。


 CDの500円コーナーには懐かしい音楽が沢山あった。買い漏らしていたイギリスのバンドのアルバムと、当時あまりにヒットし過ぎていて気恥ずかしくて買えなかった日本の女性ポップシンガーのアルバム、計2枚を購入することにした。

 CDのコーナーを過ぎ、今度はDVDのコーナーだ。いつか見てみようと思っていた名作映画を何本も見つけたが、購入する気にはならなかった。2時間集中して映画を観るということは今の俺には出来そうになかったからだ。

 中途半端に観てイマイチ面白くなかった、と判断してしまうのは怠慢だし、自分がそうなっていってしまうことが怖くもあった。

 DVDにも500円コーナーがあった。大きな店舗なので500円コーナーでも洋画・邦画・バラエティー……と各コーナーに分けられていた。


(……うん、最初からこっちだけ見とけば良かったかもな)

 映画のコーナーでは洋画・邦画を問わず、何年か前にテレビCMがバンバン流れていた(恐らくは)大ヒット作がいくつもあった。

 趣味・教養のコーナーは俺が思っていたよりも様々なジャンルに溢れており、興味をそそられた。ギターだとか楽器の教則のDVD、世界遺産だとかの風景を楽しむDVDなどは、俺のあまり想像していなかったジャンルだった。


(……にしてもこれも謎だよな!)

 500円コーナーの一番端あったのが、グラビアアイドルのイメージDVDだ。

 グラビアアイドル。その存在とは何なのだろうか?と真面目に考えてしまう。

 ネットの発達によりほとんど無料でエロ動画が見放題、と言ってもいい状況に今はなっている。エロが簡単に手に入る時代だ。

 俺らが中学生だった頃とは大きく時代が変わってきているのだ。俺らの時代には、マンガ雑誌のグラビアがまだエロとしての需要があったと思うが、最近の思春期男子はグラビアでことを起こしたりはしないだろう。

 ましてそのイメージDVDなのだ。過激なエロは無いだろう。それでもこれだけの数の作品がリリースされているということは、採算が取れるということなのだろうか?秋葉原なんかではよくそうしたリリースイベントが行われていると聞く。どんなマイナーなグラビアアイドルにも多少は追っかけ的なファンが居るのだろうし、そうしたファンが集中して金を落とすことによって、業界は成り立っているのだろうか?


(……今日はあえて何か買ってみる、か?)

 普段シラフではまず手を出さないであろうこのジャンルに目が行ったのも、何か運命なのかもしれない。そう考えて俺は、出演者名と作品名を端から順番に眺めだした。


(ああ、こんな子いたな……)

 ほとんどの青少年向けのマンガ雑誌は、巻頭や巻末にグラビアを掲載している。

 メジャーな雑誌に、人気の若手女優のグラビアが掲載されることも時々あるが、そうでない無名の新人の子が掲載されることもあるし、グラビアばかりをずっとやっている子もいる。

 グラビアを真剣に見てきたわけではないが、マンガ雑誌をなんだかんだずっと追っている俺は、そこに出てきたグラビアアイドルの名前を結構覚えてしまっていることに気付いた。

 棚は500円コーナーというだけあって少し前の作品が多いようだ。今は国民的女優と言える子の作品もあった。なんだかんだバラエティ番組なんかで今もテレビで時々見かける子の作品も多かった。だが中には全く名前を聞いたことがない子もいたし、ほんの一時期雑誌なんかで名前を見かけた子の作品もあった。

 不思議なもので、この絶妙に名前だけ覚えている!という子のほうが興味をそそられ、パッケージを手に取り眺めてしまっているのだった。……この感覚はなんだろうな?ピンポイントで微妙な記憶をくすぐられることが、懐かしさを呼び戻させるような……でもそれがどこまでも広がっていきそうで少し怖くもあるような、そんな感覚だった。


(……さて、この中で一本買うのか?)

 自分で決めたことだったが、この中から一本選ぶというのはしんどいことだった。

 パッケージを見て改めて思い知ったのは、一口にイメージビデオと言ってもその内容は様々だということだ。

 現在国民的女優となっている子の作品なんかは、服装も普通の私服で、単に休憩の様子を映しているだけじゃないか!というツッコミが入りそうなものだったり、あるいは何かのシチュエーションでお芝居をしている、といった内容のものがほとんどだ。

 一方セクシー系のイメージの強い子の作品だと、かなりきわどい衣装を着て、もろにセックスを連想させるものも多い。

 俺はそのどちらでも無い作品が見たかった。露骨なエロが見たいんだったらネットで動画を探すし、テレビで毎日見るような眩しい存在を今の俺は見たくなかった。



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