十六話 二幕 命の価値

 新しい施設の天井も白でした。

 ですが、前の場所みたいに人間の汚さが表れているなんてことはありませんでした。

 とても心地の良い場所でした。

 勉強をさせてくれました。

 自由に本を読ませてもらえました。

 みんな仲がとてもよかったです。

 差別なんてありませんでした。

 大人の人たちもいい人ばかりでした。

 喧嘩をする子も、けがをして涙を流す子もいましたが、みんなみんな不幸なところなんてありませんでした。

 とても、人がきれいな場所でした。

 でも、未来は早死にというのがわかっている施設でした。

 優しいのも、ちゃんと教育するのもすべてすべてこの後、軍人として送り出すためです。

 でも、不幸だとは誰も思いませんでした。

 送れないはずの生活を送らせてもらえるんです、考えればわかることです。

 価値のない人間が価値を与えてもらう上に生きる喜びを与えてもらえるんです。

 幸福以外の何物でもないと思います。

 当時の私は前の施設の時とは違い、一人で本を読んでいる時もありましたが、仲間たちと一緒に遊んだりもしていました。

 最初の数年間は肉体づくりと、基礎知識などの定着が主なので、比較的楽という部類に入るところでしたね。

 こちらでいう中学生?あたりの年齢から殺しの訓練を受けました。

 実践はありませんでしたが組手形式、マネキンへの模擬殺害などしました。

 そうですね、こんなことがありました。

「人の命っていうのはナイフ一本、何なら爪一つでなくなるほど弱いもんだ。お前らにはこれから殺しの訓練を行うが、相手を人だと思うな。相手は紙みたいな耐久しかないペラペラ野郎、まぁゴミとでも思え。世間体では人の命は大切だのなんだの語る偽善者はいるが価値がないやつだっている。いいか?命、これに視線を奪われるな、お前たちがするのはあくまで殺しという名のゴミ掃除だ」

「教官それは僕たちのやる殺しはあくまで悪人を絶つものということでしょうか」

「いや、命にはあ総じて価値がない」

「何故でしょうか?」

「命なんてものは勝手に歴史という重りと一緒に重りがのせられ続けたただの空虚だ。歴史という倫理観に縛られてる人生の何が正しい?」

「命の価値は正しい正しくないで決められるものじゃない、もっと高次元なものだと言われたどうしますか?」

「なんだそんなことか、そんなもの命の何が高次元的存在なのかを説明してからいってほしい」

「...。」

 そんな会話をある子と教官が繰り広げました。

 私もこのことについては少し興味を持ちました。

 だから、あの時の、私を前の孤児院から連れ出しくれた人に命の価値について聞いてみました。

 答えは教官とは全く違うものでした。

「倫理という言葉がある時点で人間は命というものをブランド化するように扱っているが、命なんて腐るほどある。でもね、命の中にある個というものはその人独自のブランドなんだ。価値をつけるという行為自体無意味なんだよ。現代では、鉄や製品、通貨で買えたりするものに対しては共通の価値観が存在するんだけどね、個というのは本人しかわからないし、価値というものがどういう基準でつけられるのかわからない。もし殺すことを悪い、怖いと思ってしまうなら、それはそれでいいと思う。でもね、今それでいいのかそれを考えるようにしたらいいと思う」

 ながながとそう語られました。

 当時の私には難しい内容でしたが今になってはなんとなく納得がいっています。

 戦場に出るといろんなことに気づかされました。

 正しさなんて馬鹿らしいと思いました。

 だから、生きることだけを重点に置いて生きるようになりました。

 

「と、こんなところですね」

「なら僕がいきますね。さ、じゃあ中学の頃に触れていきますかね...」

「はい、お願いします」

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