十五話 一幕 あの日の景色・幼き頃の回想

 初めて見たものは白い白い孤児院の天井でした。

 初めて見た...というのは正しくないかもしれません。

 私の意識、人格というのが記憶をできるという段階まで来た時に最初に見た景色でしょうか。

 今でもはっきり覚えています。

 なんせそれが覚えていられるくらい酷いことがこの後待っていたのですから。

 そこからの生活はとても今の生活を人の生活というのならそれはもう汚い生活でした。

 最初の二年ほどはなにもされませんでした。

 ですが、いつも年上のルームメイトたちはいつもボロボロで痣や切り傷は当たり前、体の一部が欠損しているなんてこともありましたし股間の部分を抑えて「痛い、痛いよ」と涙と血を流している女の子も見かけました。

 涙が流れない子たちもいました。

 その子たちはみんな眼に色がなく、ただそこにいるだけ、人格が壊れていたんでしょう。

 死ねと言われれば死んでしまうような子たちの集まりでした。

 他の子達から聞いたことですがそんな孤児院でも入って一定期間は普通の生活というものを何故か送らせてもらえたようです。

 それでも、時が来たらとんでもないほどの利子をのせたかのような借金を背負わせるかの如く酷い人生を送らせられる。

 その場所を独り立ちできる子も一年に1人程度いるらしいですけど、孤児院に戻って体を売る、元の生活に戻るそんな人が約8割くらいだそうです。

 そんな人たちは使われるだけ使われてゴミのように廃棄されるのが最後だそうです。

 私は普通の生活というのを与えられていましたがずっと一人で外の、庭の木陰にポツンといつも座っていました。

 一人が好きだったのでしょうかね、今になってはわかりませんが自由な時は一人を好んでいました。

 野外で裸で抱き合ってるおじさんと孤児院の娘もいたりしました。

 とても下品な声で「混ざらないかい?」と聞いてくる人もいましたが断っていました。

 そんな生活が日常化している中、孤児院の職員さんが私を呼び出しました。

 あぁ、私も酷いことをされるんだなと幼い私はなんとなく悟っていました。

 しかし行ってみると全然違う展開が私を待っていました。

 別の施設への移動のお話でした。

 どこからか別の施設の人が私を買い取ったとのことで。

 高額だったのか私に感謝を述べる職員さんさえいました。

 その話をされてから数日たったころでした。

 一人でいつも通り外で一人でいたら、ナイフや拳銃を携帯した軍服姿の男性が現れました。

 その人は私の目の前に来ると「ここよりキツいだろうが楽しみのある世界に連れて行ってやる」そう言って私の手を握って施設の一番偉い人のもとへ私を連れていきました。

 施設の偉い人は終始腰が低い状態で、何度も頭を下げ軍服の人と握手をしていました。

 二人の会話が終わると、初めて孤児院の外への門をくぐりました。

 その先には軍服の人の車があり、私はその車に乗りそのまま新しい施設へと連れていかれました。

 新しい施設に着くとそこは少し小汚いながらも前の孤児院よりは遥かにいいところでした。

 でしたが、その代償というのでしょか、そこでも地獄が待っていました。


「と。とりあえずこんなところでいいですかね。重いところが多かったですね」

「いや...。まあ結構ハードというか予想できないような人生ですね」

「確かにそうですね。こちらに来て初めて自分の生活はまるでフィクション作品かのようなものだったと思いました」

「そうですね」

「では、次は優さんの番ですね」

「そうですね、最近やっと思い出してきた幼少期のお話でもしますかね」


 僕は幼い時いつも一人でした。

 何しても一人何があっても一人、そんな感じでした。

 暇な人間だったので本の虫でした。

 成績はそのせいかいつも優秀な部類にいましたね。

 虐められもしましたかね。

 でも、なんやかんやあって数年後にはなんとなく一緒にいてなんとなく一緒に遊んでみたいな仲の相手も現れました。

 一緒に遊びました一緒にバカしたりもしました。

 でも、そいつは転校しました。

 もうどこかもわかりませんがどこかに消えました。

 そんなこんなでまた一人に戻りました。

 孤独というものになれたのはこの時期だったからでしょうか。

 泣き虫だったのでよく泣いてもいましたけど。

 それからは人と深くかかわることをやめました。

 浅くかかわることだけを考えました。

 きっと、また同じことが起きればまた泣いてしまう。

 持ってないと思っていた男のプライドの様なもです。

 だから、そこからは人との関係は自分から踏み出さず、踏み込まれれば少し下がる、そんな生活でした。

 そんな生活を数年ほど続けました。

 いつの間にか慣れてしまいそれが自然にできる、そんな人間になっていました。

 そして、そのまま中学生になりました。


「と、結構短いけどそんなものですね」

「ほう、そんな過去があまり踏みださないのはその時から、なんか達観してますね」

「そんなものじゃないですよ、ただいらないプライドが働いただけです」

「そうですか、そういえば話し込んで気が付きませんでしたけどもう14時になりますね」

「そうですね、お昼にしますか」

「はい、そうしましょう」

 昼食をとる。

 アリサさんがハンバーグを用意してくれ、それを食べた。

 何故それにしたのか聞くと、「上司がとりあえず男は肉食わしとけば喜ぶから肉出しとけと教えられました」と言われた。

 昼食がすむと、再びアリサさんと対面し話の続きを始めた。

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