十一話 休日の気まぐれ

 学園が休校になり僕は街を歩いていた。

 珍しく歩くだけではなく、いろいろな店に入ったりしている。

 物を買ったりというのはないが物色して気になる物があったら手に取ってみる。

 懐かしさを感じてしまう。

 きっとこれは春の時のものだろう。

 決別しても忘れわられないものだなとすこし感慨だろうか浸ってしまう。

 少し胸が痛む。

 ついこの前まではあんなに冷めていたのに少しは感情が豊かにでもなったのだろうか。

 口元が吊り上がっている気がする。

 周りに僕のことを見ている人がいたら気味悪がるだろう。

 それでも懐かしいという感情には抗えない。

 春と決別してから1か月たった。


 こうして街を歩いているのは長期休校がいまだに続いているからだ。

 全ての発端となったあの日の、2つの出来事が原因だ。

 市長生首発見事件、市長の生首が学園内で発見されたらしい。

 最初に見つけたのは教師でそれがあったのは校門から下駄箱まで続いている一本道の真ん中だという。

 ちなみにこの事件生首発見とはなっているが実際はバラバラ殺人だ。

 学園に生首、市長宅に手足が切り取られた胴体、手足はミンチにされ市長御用達のレストランに寄付という名目で送られていたらしい。

 きっと春達がやったんだろうと容易に想像がついた。

 あの日の「明日ね」の意味が分かった気がする。

 そしてもう一つ。

 生徒の一斉休学もとい失踪事件だ。

 約50名にも及ぶ生徒が行方をくらまし、100名の生徒が無断欠席の上夜中に出歩いているという。

 学園側も運行するのが難しくなったのかこうやって休校が続いている。

 問題を解決へ向かわせているとは言っていたものの実際説得などは難航していて、失踪した生徒たちの行方は分かっていないという。

 しかし不自然なこともある。

 警察が通常業務での見回りはしているんだろうが、それ以上をしていないと感じる。

 ビラなども特になく、いつもの街という代り映えのないものになっている。

 失踪生徒たちの親らしきものたちは捜索活動はしているものの公共機関系のものはこの件に関しては全く見当たらない。

 何か変わり始めているのだろうか?

 ニュースなど確認したりしているものの進捗具合は悪いの一言に限る。

 新市長に関してはなぜか話が何一つ上がっていないのもおかしさを感じてしまう。

 この不自然さに関して言及するものも少なくない。

 しかし、いつの間にか沈静される。

 どうするかなんてことは考えない。

 一つあるとすればきっと春達か...頭に浮かぶのみ。

 

 正午を過ぎたころ腹の虫が鳴ってしまう。

 ちょうどいい時間かと思いスーパーに行く適当に総菜でも買って家で食べようかと思った。

 どこのスーパーにしようかと考え、街に出ているから街のでもと思ったが少し距離が離れているので家の近くにある所に行くことにした。

 自動ドアが開きスーパーに入ろうとして足を進めるとスーパーを出ようとしていた女性とぶつかり押し倒される形で倒れてしまった。

 その時ベチャッという音も同時に聞こえる。

 胸元を見ると卵まみれの女性の頭と僕の服が目に入った。

「あの?大丈夫ですか、お顔のほうとか」

 そう声をかけると女性はバッと顔を上げ

「すいません、ボーっとしてて。あ~服がべちょべちょじゃないですか。申し訳ありません。本当にすいません」

 突然の謝罪、事故だから気にしなくていいのになぁと思いつつ「大丈夫です大丈夫です」と女性をなだめる。

 あと僕の声をくみ取ってほしいです。

「あっそうだ私の家で服を洗濯しましょう」

 女性はそう言い出すと僕の手をつかみおそらく自宅があるのだろう、その方向へ僕を連れて走っていく。

 何故だろうか、最近女にかかわると振り回されているような気がする。


 女性に連れられるまま森に入り、数分ほどしたところで家らしきものが見える。

 間取り的に20畳~30畳くらいだろうか。

 女性は粗い手でカギを開け僕を家に連れ込む。

 僕に許可とか取ることなく服を脱がして洗濯機に放り込んでいった。

 まぁそれは置いといてそろそろ言いたいことがある。

「あの~」

「はい、なんでしょうか?あっすいません先ほどは...」

「あっそれは大丈夫なんでそれより」

「それより?」

「頭についてる卵どうにかしたらどうですか?ぶつかった側が言うことかはちょっとわかんないですけど...」

 女性は頭に手を当てる。

 すると手は頭についていた卵がネチョリとついていた。

「あっ!すいませんお見苦しいところを...」

「あのそういうのは大丈夫なんで、僕も悪いですし。それよりシャワーだけでも浴びてきたらどうですか?洗濯終わるまでどうせ僕このままですし」

「あっそうですよね。お言葉に甘えて。はい。ちょっと浴びてきます...」

 会話しているだけで何故だろうか気疲れしつつ、少し笑いがこみ上げてきてしまう。

 女性がシャワーを浴びに行くと一人になる。

 そう言えば女の人の家に入るのはいつ振りだろうか。

 昔は女友達の家に行ったりしていた気がするが最近というかここ数年はなかったような気がする。

 春の時はそこまで仲良くなる前に決別してしまったしなぁ。

 少しあたりを見渡してみる。

 生活感はあるがとても丁寧に掃除などがされている。

 レイヤーさんなのだろうか?軍服らしきものが飾られてある。

 その近くには小さい本棚があり50冊ほどの本がつめられている。

 気になってしまい本棚のほうへふら~っと向かっていく。

 手に取りはせず題だけ見ていく。

 気になる本はないが、何冊か自分も読んだことのあるものは見つかった。

 そんな発見に浸っていると後ろから声をかけられた。

「あの、何か気になる物でもありましたか?」

「え?ああ本があって気になったの...。勝手に物色してすいません」

「いえ、別にいいんですよ。何か気になる本はありましたか?」

「ああ、いや昔読んだ本とかがあって」

「そうなんですか。お好きなものとって読んでくれて構いませんよ。あっそうだお茶いります?先ほど入れたんですけど」

 笑顔でそう声をかけられるが少々不安になってしまう。

 こうは言ってもらえているがやってることは意外と不審者か何かだったと自分の事なのに思ってしまい寛容すぎる女性に申し訳がなかった。

 とりあえず、「ありがとうございます。お茶いただきます」と答えてお茶が置いてある席に着いた。

 卵のせいで気づかなかったが女性は顔立ちがとてもよく綺麗な青髪、青というよりは水色に近い髪色をした綺麗な人だった。


「あっ洗濯していただいてありがとうございます。こちらにも非があるのに」

「いえいえこちらにも非があるので、これでなかったことにしときましょう」

 会話が上手く続かない。

 前は春が投げてきたからそれに答えていく感じだったがいざこうなると会話ができない。

 何か手がないかと考えるが特に思いつかない。

 ...そうだ自己紹介からしよう。

 相手の事は知っておくのがいいだろう...多分。

「そういえば自己紹介をしていませんでした。僕は崎代優です。今のところは学生してます」

「あぁそうですね。私アリサっていいます。今は無職してます」

 無職かぁ、こんなとき何聞けばいいんだ?前職何してましたか?と聞いて、会社で虐められ~だとか自宅警備員してましたとか言われたら答えづらい...。

「あっ前職は殺し屋っぽいことしてました」

「へっ?」

 素っ頓狂な声が出てしまう。

 自分が想定していたものより重いというか反応に困るものが前職だった。

 本当なのかはわからないが...。

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