十話 決別
目が覚めるとただただ虚しいものだった。
何も感じず何も考えず、ひたすらに空虚。
そんな中、ケータイに通知がくる。
開くと春から『話がある』と一言だけ語られていた。
何も考えず僕は『わかった昼に屋上でな』と反射で返信する。
重い体を動かし、学園へ向かう。
今日はこの体以上に重いものが待っているような気がする。
学園へ着くといつも通りの日常が描かれていた。
あの映像のことを知った手島たちが何かしら暴動でもしてるんじゃないかと思ったりしたがそんなことはなくただただ平凡な日常がそこにはあった。
春にエンカウントすることなく教室に着く。
出会う前通りの顔を伏せての生活。
僕の日常がそこにあった。
昼休みが始まり5分後には屋上にいた。
今日は珍しく死を連想しない。
心の空虚がそれを許容しないからだろう。
空を見上げても、グラウンドを見つめても何を見つめてもただ空虚。
考えられない。
考えれない。
いつもこんなとき何してたんだっけ?と言わんばかりの思考停止。
そんな中屋上の扉が開く。
「やぁ優君。来てくれたんだね」
扉を開いた主、春の声は、落ち込んでいるとかそんなものではなく、何かに執着している、それに近い声をしていた。
何があったんだろうと空虚な心から言葉が生まれてくる。
好奇心なのか心配なのかわからないが何も考えられないよりかはましだろう。
「昨日動画は届いた?」
春は事務的な口調で何の感情もなく告げてくる。
「ああ」
「そうなんだ。見たんだね失敗した私の姿」
「失敗したんだな...やっぱり」
「エエ、失敗したよでもねでもね!ある意味成功したの」
突然狂ったような口調で春が語りだした...。
僕はそれに驚いてしまい気後れしてしまうが春は告げていく。
「あの時にね私は汚らしい人間どもに犯されたわでもね、わかったのもう汚れてしまったこんな体どう扱ってもいいやって自棄に見えるでしょう?でもねこれが成功だったの。汚い獣たちは何もかもが汚いのその汚れに私の正しさをしみこませることで獣から犬へとなるのよ。こんな成功はじめてだったの。そうそうそうそう。立派な成功の印もあるのでもねそれはまた明日...ね!それでねそれでねあのパイプ組織も手に入れてね。頑張ればいやこのまま行動すればまずはこの街この国が正常化されるんだよ!」
圧倒されている僕は何も答えられない。
壊れてしまっている。
そんな風に見えるが自分の掲げた正義は未だに抱えている。
気味の悪さすら感じてしまう。
口調は壊れ、目の色はない、ただただ教信者かのように語るそれは春とは思えない。
しかし事実はいつも残酷だ。
死にたいと思うのに死ねない、いざしても死がこびりついて手が止まる、信じたくなくても目の前にいるのは春だ。
心拍数が上がっているような気がする。
心が静まらず、涙が流れそうだ。
み...ぁ...ぃ。
誰かの名前を呼びたくなる。
心の奥底にある名を。
でも呼べない、体が心がそれを許容しない。
何とか抑え込む心の波。
抑え込んだころには涙を流しながら膝をついていた。
「優君?どうしたの?辛いの?辛いの?いいよいいよ私が癒してあげる。正しい私があなたの間違いを飲み込んであげる受け止めてあげる、だから私の手を取って?ね?ね?ね?」
春は僕に手を伸ばしてくる。
辛くて逃げたいなら、この手を取るのが良作だろう。
でもそれは僕が許さなかった。
どんなにつらくても、どんなに悲しくてもどんなに嫌なことがあっても手を伸ばして助けを乞うのは彼女にだけだから...。
こんな壊れた相手の手は取らない。
バシィィィィッ!
ビンタの様な音が鳴り響く。
春の手をはじいた音だ。
僕は乞わず、伸ばさず、ただ歪な救いの手をはねのけた。
「なんで?わたしなら助けられ...」
「僕は、その手は取らない!今の自分は間違っているそう春は僕に指摘してくれた。わかってんだよこのやろぉ!でもなぁ、これが正解なんだよ。これしかないんだよ。辛いんだ苦しんだ悲しいんだ!でもな死ぬことしかできないんだ考えられねぇんだよ」
何を言っているかわからない。
多分ここでいったことは覚えていないし、記憶に残らないだろう。
ただ心のダムが決壊し、心の内を叫んだ。
嘘偽りない気持ちを。
「何で?何で?何で?私の正しさが!」
「正しさ?んなものどうでもいい」
「優君ならわかってくれるとわかってくれてると思ったのに!」
「最高にくだらないことだな」
僕はそう吐き捨てる。
そしてその日僕は春と決別した。
最後に春はメッセージで『ばいばい、またね』と送ってきた。
それに対して返信はしなかった。
ただそれが一番いい気がした。
次の日の朝、学園へ行くと校門の前の先生に休校だと告げられた。
理由は二つだった。
大半の生徒の一斉の休学と...
校内で市長の生首が見つかったからだ...。
―1章 夢見る少女 完-
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