九話 泥に汚れた夢追い少女
日曜日...。
予定も何もない僕は近所の本屋にいた。
店主のじいさんはうたた寝しながらカウンターに座っている。
築50年くらいだろうか、そんなぼろ臭さが目立つ建物に大量の本が蔵書されている。
古い本の初版など残っていて、個人的には結構気に入っている。
長い時は閉店時間までここにいることすらある。
そこで僕は適当に開いた洋書や文学小説を適当に読んでいっている。
店内に入って4時間ほどたったころに少し趣向を変えた本を読もうかと思った。
何にしようかと悩むことなく足を進め、絵本を手に取る。
別段絵本というものに興味があるわけじゃない。
ここの書店は古い本が多い。
古い絵本を手に取ると昔の思想などが入り混じったものが読めたりする。
今とは違う歪な形で成り立っている物語。
自分と重ねているのかもしれないが、意外と嫌いではない。
10分もすれば一冊読めてしまうので、読み終わるごとに新しい絵本をとっていく。
5冊程度読み終わり次の本を手に取ると古めかしいか真新しいかよくわからない絵本が一つ出てくる。
本の裏などの見て出版社など見てみるが何も記載されていない。
軽く中を開いて流し読みをしてみるが出来としては絵はそこそこ出版されていてもまぁ気にはならないレベルだが、書いていることは子供向けとは思えないようなもの。
思想が入り混じっているというレベルのものなのか?
宗教思想とかそれに近いかもしれない。
最初のページを開き、作品名を見てみる。
「3色の子豚?」
内容は赤、青、白の子豚がいて、どの子豚が食用として売り出されないかという、なんとも子供向けとは思えない話が裏切り、騙しあい、意味の分からない言葉表現によって綴られている。
最後は、青色が赤を殺し、青はそのまま姿をくらまし、白い子豚はその場所で野垂れ死ぬ。
なんともまあ陰湿な話だ。
先ほど流し読みしたせいで気づかなかったが結構エグイ絵があったりした。
豚なのにナイフを持って首を斬り殺す...凄惨だなと思いながら本を閉じる。
不思議なことに僕はそれを手に取りカウンターのじいさんに会計をしてもらう。
値段はなかった。
興味程度に作者は誰かじいさんに聞いたら女の子としか言われなかった。
絵本を貰った時、時計を見るとまだ時間があったので2時間ほど文学あたりで本を読みさらに3冊ほど購入していった。
帰宅すると自室へ行き、買った本を本棚に詰めていく。
一時期この趣味はなくなると思ったことがあったがそんなことはなかった。
こんな状態になったからは友達を失い、家族との関係は壊れ、まぁいろいろ崩れた。
精神的には壊れているだろうと何度も自分に対して感じた。
そんな中でも、本は読んでいたような気がする。
でも、かれこれあそこに行ったのは2年ぶりだっただろうか?
自分の考えていることに差異をを感じる...。
気にしない、気にしない。
自然とそう体に思い込ませようとする。
なんだか気疲れしてしまう。
外の空気を吸うことにした僕は玄関から家の外に出て家の門あたりで足を止め空を見上げる。
雲がない空には光輝く星が無数に映り、新しい光もちらほら見え始めていたりする。
空は輝いているが僕の心は空虚になる。
ひたすら何も考えずに自動的に行われる呼吸の音だけ聞き取りながらただ見上げる。
死を考えない。
死がよぎらない。
死が...。
何もなくただただ星空という虚空を見上げ続ける。
20分ほどそうしていると肌寒くなってきた。
「帰る...か」
そういうと玄関側を向き家に向かって足を進めようとする。
その時、バイクの音が近づいてくる。
気にすることなくゆっくり足を進めていると僕の背中側でその音が止まり、ポストに何かが投函される音がする。
その後バイクはすぐにエンジン音を再び鳴らしその場を去っていく。
「はぁ」ため息をつくと回れ右で投函物を取りに行く。
それを手にとると珍しく目を見開いてしまう。
心の中で期待と何かが入り混じる不思議なものがグルグルする。
投函物の宛名は僕だった。
差出人の名前はなかった。
中を開いても出てきたのは何も記されていないDVD用の円盤。
今の時代USBにでもSDにでも入れて保存するほうがいいもののと感じながら自室にあるPCにそれを入れる。
中のデータを見ると無題01とだけ記された1時間超にも及ぶ動画が入っていた。
それを開く前に少し思い悩んでしまう。
なんかこんなものを送り付けられるようなことをしただろうかと。
心当たりを軽く推測してみるが特に思い浮かばない。
春の成功報告かと一瞬頭をよぎったりもしたがあいつならメッセージを送ってくるだろうと思いその推測は排除した。
考えても思い浮かばなかったのでファイルを開くことにした。
一応何が入っているかわからないからヘッドホンを装着しておく。
マウスを操作しファイルをクリックし動画が流れ始める。
目に映るのは椅子に座っている赤髪と私腹を着た女。
目にはアイマスクをつけられていて手足は縛られている。
『ここはどこよ!?クソ失敗した』
その娘が声を出すとこれは春だと完全に理解する。
失敗...したのか。
映像には椅子の後ろ側にはベッドが見えていて横から男が複数人見えてくる。
男たちは春に近づくと春に触れ、嫌がる中服を力づくで破っていき下着以外の肌色の部分が見えるようになる。
そのあとは、ああこうなるんだなと想像したとおりになっていった。
春の体は白濁に染まっていき、股間は血だろう、その赤と白濁が混じったものが流れ出しているベッド
最後はあられもない春がただ映されその動画は終わった。
僕はベッドに寝転ぶ。
何故だか無心になる。
自分のために春は短い期間だがいろいろしてくれた。
多分楽しいと感じたこともあっただろう。
それでも僕の感情、心、思考は、
―――ただただ空虚なものだった。
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