八話 動き出す春Ⅱ

 土曜日、僕は一人で街中を散歩していた。

 いつも通りの日常が過ぎ去っていく。

 春と出会う前の日常が。

 ただ、一人考えながら歩いている。

 一人で歩くというのが久々に感じてしまう。

 先日の春の付き合いが記憶に深く残っているからだろうか、久々に人と出かけたからだろうかわからないがそういう日もあるのだろう。

 死を連想する、日常的なまでの動きで。

 脳がただ反射的にそうしている。

 そんな中ただひたすら街の中を歩いている。

 発見も何もなくただ歩く。

 飽きもなく、興味もわかない散歩。

 疲れたらベンチに座り、のどが乾いたら近場の何かで飲み物を買う。

 街中をそんな感じで散歩していたところで手島を見つけた。

 一緒にいるのは友達だろうか?仲良さげにしているわけではないが悪そうなわけでもない。

 協力している感じが強い気がする。

 何かの義務感、仕事をしていると生まれてくる協力関係みたいなものか?

 わからないが、何かをしてるのは間違いない。

 少し観察することにした。

 普段なら特に気にすることもないが体が動いてしまう。

 二人はいろいろな店に入っては会話しつつ同じ何かに視線を向けている。

 尾行か何かをしているのだろうか。

 怪しさというのは不自然ながらない。

 うまいというのかなんというのかそんな才能があったのか程度のことを感じている。

 二人が店を移動することにバレないように僕もあとをつけてみる。

 5店舗ほど回ったあたりからだろうか。

 視線の先にいた人物が誰なのかだいたいわかってきた。

 見るからに危ない人間だとわかる風貌をした男だった。

 見方によっては少しぐれた感じの一般人にも見えなくはないが僕の主観ではよくドラマとかで見かけるヤバいものの密売人に出てきそうな感じだ。

 二人がどうするのか気になるのでその尾行を終えるまで尾行してみることにした。


 尾行相手が店などが並んでいる地区を外れると二人は別の道へ行きそのままどこかへ消えてしまった。

 相手に気づかれないためだろうか。

 深追いしすぎないためといったところだろう。

 何故あんなヤツを追いかけていたのかわからないが、いくつか心当たりはあった。

 しかしその心当たりの真ん中にいるのは春だった。

 月曜に行っていたことを実行に移しているのだろうか?

 深くは考えずにおこうと思う。

 僕はこの件に関しては断ったんだ。

 ここでこのことについて考えるのはやめておこう。

「んん~」

 軽くあくびが出てしまい、一緒に屈伸もしてしまう。

 思いのほか歩いたからか、体が疲れてしまったようだ。

 今日は家に帰って休むとしよう。


 帰宅し夕食と入浴を終えて自室に戻りケータイを見ると春からメッセージがきていた。

『ねぇねぇ、実は明日黒い部分の組織に攻撃を仕掛けようと思うんだ』

『黒い部分?市長さんのあれかパイプになってるとこ』

『そうだよ、ここを潰せれたら結構大きな一歩になるんだ』

『へぇ、でも攻撃ってどうするんだ?拳とかでは敵わないだろ?』

『そこは田中の時と同じようにあんな感じで』

『通じるのかそれ?相手は多分大規模だとするとヤクザかそれに近い組織になるだろ?そんなのに臆するようには見えないんだが』

『大丈夫、先手を打ってから...ね』

『危険そうだな。正義を突き通すのもいいがそんなところに突っ込むのはどうかと思うぞ』

『失敗したら新しい案でもまた考えるよ。私はね、変えるの...』

『そっか、まあ頑張りなよ。冷静にな』

『ありがと。ここで躓くようじゃ世界は変えられないからね、頑張るよ』

 そうして会話は終わった。

 何故だろうか縁起でもない話だが失敗しそうな気がする。

 春から焦りだろうか?理由はわからないがさきさき急いで進もうとする感覚がある。

 冷静さを欠くとは思わないが万が一失敗したらちゃんと帰ってこれるのだろうか。

 明日にならないとわからないが僕はどうもする気がない。

 関わらないと決めたし、それ以上踏み込む、リスクを担うことはしてはいけないと体が言っているような気がする。

 何故だか胸がチクチクするような痛みがする。

 他人のことを心配するような感情が僕の中にあったのだろうか?

 わからない、わからないが僕は答えを出さずにそこでとどめる。

 頭の中を何故かこんな言葉がよぎった

「また、会おうね............」

 最初のほうしかわからなかったが、なんだったのか僕はそれについての思考すら自然と放棄した。

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