六話 春との休日Ⅱ
朝、日差しが眼に入り、落ちきっている意識が浮上する。
体を起こすと何度か目を擦り、屈伸をする。
日差しに顔を向けると眩しくて手で顔を覆ってしまう。
意識もはっきりとしてくると今着ている寝間着を脱ぎ、部屋のタンスから適当な服を身繕いそれに着替える。
着替え終わると、リビングへ行き冷蔵庫からパン、卵、レタスを出し、棚から塩を出す。
パンをトースターに入れて焼いている間にフライパンに油をひき、ぱちぱちと跳ねだしたところに卵を入れ数分間焼き目玉焼きを作る。
トースターから焼き終わる音がしたら、中のパンを皿に置き、上にレタス、先ほど作った目玉焼き、適当な塩の順に盛り付けていく。
その皿を机に置き、僕は椅子に座りそれに噛り付く。
これが僕の休日の朝食だ。
今日は春と出かける日になっているので、目をそらすためか日常的な行動に対しても意識が介入してしまう。
「はぁ」
ため息が出てしまう。
先日、正しさをどうの言われたせいか緊張というか、危険信号というかよくわからなくなるぐらい頭の中でグルグル思考が回ってる。
今まで、人と接さず死を連想して生きてきたのに、まだ崩れるわけにはいかないのに...。
いろいろ空気がぶち壊されるというかなんというか。
時間を見るとちょうどいい時間になっていたので外に出るために玄関に向かう。
いつ集合とかはまだメッセージが来ていないが、休日家にいないのはいつものことだ。
家庭という空間に嫌気がさしていつもどこかをほっつき歩いている。
連絡が来るまでそうしてだべっていればいいだろう。
靴を履き替え終わり、玄関のノブを握り、それを捻る。
あいたドアから家を出て、数歩、家の敷地外に出ると突然声をかけられた。
「おはよ、優君」
「!、ああ、おはよう」
突然のことに驚き二三歩引いて返事をする。
声をかけてきたのは春だった。
家を教えたことはないが春ならば知っていてもおかしくないのではないか?と頭をよぎる。
学校での一軒のせいでコイツに対しての人間の普通が通じなくなっている。
このくらいやっててもおかしくないという考えばかりが思い浮かぶ。
「実はね、今日はサプライズで当然来ちゃいました」
考えすぎで思考が停止している脳を何とかリセットし、「驚いたよ」と苦笑いで春に言葉を返す。
「今日は何をするんだ?」
「今日はね適当にいろいろ見て回って、その感想を聞こうかな」
「適当に回って感想ね、何か意味があるのか?」
「適当に回りつつ、私はその行動一つ一つを楽しませるように頑張る、それで心変わりとかあったか聞きたいな」
「正しい人間にするため...か」
「そうだね。身近な人はやっぱり気になるもん。間違ってるなら正してあげたい、悪い心理ではないと思うよ」
「ああ、多分ね。まぁ気張らずに行こう。別に僕自身は変わらなくていいんだ」
「変えてみせるよ、今回は無理でもいつかはきっと...ね」
「そうか」とつぶやくと春は僕の手を引き、ショッピングモールなどある方向へ向かう。
春の駆け足に引きずられていたが途中から横を一緒に駆けていた。
ショッピングモールに入る。
春は迷わず僕を引き、有名なところあまり聞かないような名前の服飾店を連れまわす。
僕を鏡の前に立たすといろんな服をとってきてそれを僕の体に重ね「こうじゃない」「この色との組み合わせはこうかなぁ」「アクセとかもつけて、あんま目立たない感じのがいいかもね」といろいろ考えていることを口に出しながら僕をコーディネートする。
服はいつも変わらない、相手からも不快でも好印象でも見られない適当な服をいつも着ているが、それとはまったく違うものをいろいろ試している。
気持ち的には落ち着かないが悪い気はしない。
自分で選ばなくてもいいんだと何故か安堵さえしてしまう。
実は自分で買う時は少しおしゃれを気にしていたのだろうか。
2時間ほど店を見ているとやっと納得いくものができたようで、これ着てと試着室に連れていかれ、着替えさせられる。
拒否権がないのは...まぁ仕方ないだろう。
着替えると「おお、違うよ。いつもの陰鬱な雰囲気がなくなってる!」と言ってくる。
別にそこらへんは気にしてないしどうでもいいが、本人が気に入っているのならいいだろう。
その服は、選んでもらったものなのでとりあえず購入しとくかと思いレジへ行くと、金を払おうとしたところで先に春が万札を数枚出し、おごられてしまった。
そのあとは、一緒にイタリアンで昼食をとりゲームセンターや100円均一、雑貨店などを回ったりして一日の時間は刻々と過ぎていき、太陽は隠れてしまっていた。
「遊んだねぇ」
「ああ、いろいろ歩き回ったな」
「私のあ~んはどうだったかな?」
「さあね」
「もう酷いなぁ、それならあの2千円入れても取れなかったぬいぐるみの事とか」
「あれは、財布的には辛かったよ」
「ふふんそっか、で、どうだった?今日の感想といたしましては」
「悪くはなかったよ。落ち着きはしなかったけど」
「そっか、まぁ上々かな」
僕はそういって頭をうねる春を見つめる。
悪い一日にはならなかった、しかし生きる希望を見いだせる、恐怖の代りになる物、僕自身を否定する素材は見つかりはしなかった。
まぁ、こんなもんだろうと思う。
「また学校で会おうね」
余計な会話はなく、春はそう告げその場を去っていく。
春が見えなくなるのを見届けると家に向かい足を進める。
今日は夢なんて見ずにぐっすり睡眠がとれそうな気がする。
寝る少し前に春から『月曜も一緒に学校行こうねと』メッセージがくる。
適当に『おk』と送って寝どこについた。
そして春との休日は終わった。
そしてココが境目だったのかもしれない。
こんな短い関係の間なのにあんな最低で下劣極まりないものが送られてくるなんて思いもしなかった。
その出来事が起きたのは来週の日曜日のことだった。
そして、それが僕と春の関係を砕かれるときになる。
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