二話 屋上の出会い

 顔を伏せて学園の教室と自分という世界を断絶した気になる。

 ここにいないというのが一番いい選択肢なのだろうが、その選択肢がないので少しでもそういう気持ちになれるようにただ目をつぶり顔を伏せる。

 僕が鬱気味という形でクラスへは伝わっているのでクラスメイト達も最低限のこと以外では僕とはかかわらない、僕から何かなんてことはあるわけがない。

 こうなる前は普通に生きるのを楽しんでいたしこの空間というのを楽しんでいた。

 友達がいて、教師たちともよく話したり、わからないことを聞いたりとうまく過ごせていたと個人的には思う。

 最後まで僕のことを気がかりにして話しかけてきた奴もいたが結局僕に話しかけることなんてなくなった。

  顔を伏せていても頭というのは動いているものだ、考えたくないと思っていても何か辛いこと苦しい事のもしもを永遠と考え込んでしまう。

 本当にこんな苦しいのなら死んでしまいたいと思う。

 しかし死ぬのは怖い...いつものループだ。

 自分自身のことがアホらしくため息が出てしまう。  

 チャイムの音が鳴ると、クラスの賑やかさは消え失せ勉学に勤しむ学生の世界と切り替わる。

 僕も周りが動くのと同時に体を起こす。

 いつもどうり目の前に映るのは病院とはまた違うウザさを持った空間が広がっている。

 胸の内でため息がまた出る。

 人が大勢いて、目の前で教師という指導者が授業を行う。

 最低極まりない構図の世界だ。

 淡々と黒板に書かれることをノートに書きこんでいく。

 教師の説明なんてものは聞きやしない。

 聞いていたら頭が狂って暴れてしまいそうだ。

 今日も昼食は屋上で食べるか...

 いつも陰鬱な僕は一人になれる屋上で昼食をとる、昔はトイレで食べたりしていた時期があったり、クラスで食べている時もあったが、トイレではいじめられているヤツにかかる予定の水が僕に降りかかってきたり、クラスは僕の心がいたたまれないという身勝手な理由だ。

 その後幾度かの授業の始まりと終わりのチャイムが鳴り響く。

 その後待ちに待った昼休みになった。


 ギィィィと少し錆びているところか耳障りな音が戸を開くと耳に入る。

 好きどころか嫌いな部類な音ではあるが慣れというのもあるしこの後の一人の時間を考えるとこらえることは容易なものだ。

 日の当たらない暗い場所に行き、登校中にコンビニで買ったパンに噛り付く。

 味は感じる、旨いという部類には僕の中では入るが、ただ食べているという作業という考えからは抜け出せない。

 平らげるとちょうど腹のへりはおさまった。

 満腹という感覚ではないが別にそれを感じる必要はない。

 ただ生きれる程度に食べれればいいし、僕はここで誰にもかかわらず何も考えず過ごしたいだけだ。

 こだわる必要はないだろう。

 空を眺める。

 ただ一面に青い空を雲という白がかき消すかのように塗りたくっている。

 頭を空っぽにしようとする。

 壁が崩れて、ここから落下し顔面から潰れながら死んでいく様、階段を降りるときに踏み外し角にちょうど目が直撃し眼球が表面だけ抉れたかのような跡がつき失明する様、くだらないものがさまざまに思い浮かんでくる。

 それをゼロにしようとただ脳内の無を目指す。

 そんな時、バンッと突然戸が開いた。

 不覚にも驚いてしまったがさっきまで考えていた死が吹き飛んだ。

「あれ~。何で君こんなところにいるの?ねえねぇ」

 ドアを開けたやつは僕に会話を持ち掛けてくる。

 はた迷惑な話だ。

 今度からここに来るのをやめようかという案が思い浮かぶが、それを妨害するがのごとく質問を投げかけてくる。

 うっとおしい顔でも見せて、さっさとここから立ち去ってもらうかと思い顔を上げる。

 そして相手と目を合わせる。

 そこには赤髪の可愛いタイプの綺麗な顔の女が僕を見下すような状態で立っていた。

 僕は間違いだとは知らなかった。

 顔を見せたことが間違いでこいつと関わらなければならない羽目になるなんて...値と。

「あっ君あれだね。その顔見たことある!自殺願望変態だ」

「は?」

 まさかの言葉に素っ頓狂な声が出てしまう。

「もしかして知らなかったの?本人が一番自覚あるはずだと思っていたけどそういう呼び方は知らなかったんだね。まぁ君人とは話さないとはよく聞くしそうなのも当然なのかな?」

 おしゃべりな奴だなというのが第一印象だ。

 そしてウザイ。

 僕の嫌いな典型なタイプの人間だ。

 平気で僕の心を乱してくる存在。

 しかし、自分に自殺願望変態なんて呼び方があったのは驚きだ、まぁ自分から隔絶しているのが悪いのだが。


「でね、私はねこう言ってやったの...」

 さて、自分語りや僕への質問をされ続け結構疲弊してしまった。

 自分からここで何かしら言ってここを去ってもらいたいが、コイツはまだしゃべる。

 知りたくもないがこいつの情報を本人がペラペラしゃべるもんだから勝手に覚えてしまう。

 こいつは沢城さわしろはる同学年ではあるがクラスは違う。

 父親は警察官だったが他界、母は一人で二人の生活を切り盛りしている。

 そのせいか母は家にいるのは月に一度くらいらしい。

 好きな食べ物はたこ焼き、嫌いな食べ物はトマト(ただしパスタは例外)、好きなことはみんなが楽しいこと、嫌いなことは間違ったこと、という感じだ。

 無駄なことに頭を使わされる。

「あっ、そういえば君の名前は?自殺願望変態が本名なんてないでしょ?」

 めんどくさいと正直思った、答えずに立ち去ろうと考えたがなぜだろうか?僕はここでコイツに名前を教え約束をした。

「崎代優だ」

「そっか、優君か。じゃあね私のことは春って呼んでね。明日もまたここに来るからさまた会おうね」

「・・・・ああ」

 変わろうと思ったのだろうか、陰鬱な世界から抜け出そうと考えたのだろうか。

 もう、わからないことだし後悔するのも遅い。

 こうなってしまった以上コイツ、春に付き合わなきゃいけないだろう。

 たまには誰かと生に勤しむとするか。

 歩いていこう、陰鬱な世界の中を。

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