第54話 兄弟の絆

 「よし……それじゃあ今日はちょっと『注入インジェクト』の方の能力を試してみよう」


 RE5-87君やヴェント、それに活動に出ていた他のメノス・センテレオ教団の団員達が僕達の村へと帰還した翌日。


 僕は今日も霊体となったアイシアを引き連れて山の麓の湖まで修行をしに出て来ていた。


 しかし今日は湖の水を利用して修行を行うことはあまりないかもしれない。


 今日僕が修行を行おうとしているのは生物や物質に対しその組織や粒子といった非常にミクロな単位にまで外部からの成分を直接その内部にする『注入インジェクト』の能力だ。


 一応の使い道としては自身や相手に対し霊薬ポーションや毒物等を体に挿した注射器の針から直接体内にすることでその効果を高めるようなことを想定している。


 回復系の霊薬ポーションの体力の回復量が増したり、その毒物に抗体を持つ相手に対してもその抗体の働きを防ぐ形で体内へと送り込むといった感じだ。


 今のところ僕は『抽出エキストラクト』よりもこの『注入インジェクト』の方の能力が扱いが困難であるように感じている。


 『抽出エキストラクト』の方は対象から成分をするだけでいいが『注入インジェクト』に関しては対象に合わせてを行わなければ思うような効果を得ることができない。


 回復系の霊薬ポーションし自身の体力を回復しようとしたつもりが逆に肉体に不調を起こしダメージを負ってしまうこともある。


 そういったわけで『注入インジェクト』の能力に関しては修行でさえも十分慎重であることを心掛けて行っていた。


 「(それで『注入インジェクト』に関してはどのように修行を行うつもりなのですか、マスター)」


 「いきなり自分の体にを行うのは危険だから取り敢えずその辺に生えてる植物を使って修行しようと思う。取り敢えず今日の目標は家から見繕ってきたこれらの薬品をして植物に急激な成長を促す……ってところかな」


 「(なる程……。それでどのような植物を修行に使用するのですか?)」

 

 「別にその辺に野生で生えてる奴でいいよ。できれば完全に成長し切る前のような……。つぼみの開いていない花なんかだと修行の成果が確認しやすくて良いんだけど……」


 辺りを見回して『注入インジェクト』にちょうど良い感じの植物を探す。


 すると蕾の状態のブループライドという青い花を咲かせるこの世界の植物が僕の目に止まった。


 早速そのブループライドを使って修行を行うとしたのだけれど……。


 「(思ったのですがマスター。万が一そのマスターの『注入インジェクト』の能力によりこの植物に予期せぬ変異した場合、この場に根を生やした状態のままにしておいては変異した植物が広範囲に繁殖してしまう危険があるのではないですか)」


 「た……確かに……。そんなことになったら僕のせいでこの辺りの生態系を乱しちゃうことになっちゃうね。それなら採取して家に持ち帰ってから修行を行うことにしようか」


 アイシアの忠告を受けて僕は辺りに生えていたブループライドをいくつか採取して家へと帰還する。


 そして家のガレージで見つけた適当なケースに植え直してその場で修業を行っていた。


 「よし……それじゃあいくよ」


 まずは様子見がてら体力回復の霊薬ポーションを少量だけした『注射器魔法シリンジ』の注射器の針をブループライドの茎の中頃へと挿し『注入インジェクト』の能力でを行っていく。


 僕の『注射器魔法シリンジ』の魔法の『注入インジェクト』の能力は針を挿した対象の好きな部分に好きな形で物質をできる。


 要は注射器の針はどこに挿しても構わないということだが一応はそのに適した場所を選んで挿した方が良い。


 僕はブループライドの養分や水を全体へと行き渡らせる為の管へと通す感じで回復系の霊薬ポーションしていったのだが……。


 「あっ……」


 「(枯れてしまいましたね……)」


 「花を開かせるつもりでしたのに失敗しちゃったみたいだね」


 「(みたいだねじゃないなのーっ!。こんな調子じゃ危な過ぎてとても自分の肉体に薬品をするなんてできないなのーっ!。もっと気合を入れて修行するなのーっ!)」


 「(修行するなのーっ!)」


 「そう言われたって……。取り敢えず自体はできてるようだけど思ったような効果を発揮させる為にはどんな物質をどんな風にすればいいかが全然分からないんだよ」


 試しにやってみた『注入インジェクト』の能力は見事に失敗。


 体力回復の霊薬ポーションされたブループライドはその花を咲かせるはずが逆に枯れ果ててしまった。


 一体どのような形でを行えばいいか分からず僕はその場で途方にくれてしまっていたのだが……。


 「修行の調子はどうだい、ヴァン」


 「……っ!。ヴェント兄ちゃんっ!」


 僕が修行を行っていたガレージへと神の子・・・にして現在はメノス・センテレオ教団の教皇でもあるヴェントがやって来る。


 『注入インジェクト』の能力の修行に行き詰っていた僕は敵対的な関係と見ている『味噌焼きおにぎり』のリーダーではあるが、僕にとっては優しい兄でもあるヴェントに修行を見て貰うことにした。


 僕がを行う様子を見てヴェントは的確なアドバイスを授けてくれる。


 「なる程……。ヴァンは『注射器魔法シリンジ』の魔法の力でこの花のつぼみを開かせたいんだね」


 「うん……。だけど体力回復の霊薬ポーションをしても上手くいかないばかりか反対に花が枯れちゃって……」


 「思うような成果を得る為には魔法の技量だけでなくそのを行う対象に対して正確な知識も必要だ。まずは解析アナリシスの魔法で対象の構造や状態の情報を取得してどのような物質をどうすればいいのかを調べないと……」


 「だけど普通の解析アナリシスの魔法じゃあ僕の『注射器魔法シリンジ』の魔法に適応した解析を行うことなんてできないよ……」


 「それはヴァンの『注射器魔法シリンジ』の魔法専用の解析アナリシスの魔法を開発するしかないよ。教団で使ってる最新の解析アナリシスの魔法の術式を教えてあげるからそれをヴァンの『注射器魔法シリンジ』の魔法専用に調整すればいいよ」


 「でも調整するだけとはいえ今から術式を組み立てようと思ったらそれだけで1週間は掛かっちゃうよ。やっぱり僕の『注射器魔法シリンジ』の魔法の完成はまだまだ程遠いなぁ……」


 「そう腐らずに僕も術式の調整を手伝うから頑張ろう。それに解析アナリシスの魔法を活用すれば『注入インジェクト』じゃなくて実質的に『抽出エキストラクト』の能力の性能も高めることになるからね」


 「えっ……それって一体どういうこと?」


 「対象を解析すればだけじゃなくてもやりやすくなるのは当然のことだろう。それに実戦で対峙するような相手はそのほとんどが肉体に高い耐魔力を備えているだろうからね。を行うにしろを行うにしろ解析アナリシスの魔法が無ければ相手の肉体の抵抗力を突破することは不可能だよ。それによりミクロな単位で物質をすることも可能になるだろう。今ヴァンは『抽出エキストラクト』の能力を使ってを行っているのは水ばかりのようだけれどその水から水素の成分だけをして酸素に分解したり、風邪を引いた時にその原因となっているウィルスだけを肉体からしたりって感じにね」


 「なる程……。そう考えると僕の『注射器魔法シリンジ』の魔法の完成に解析アナリシスの魔法は必須と謂えるものだったのか。ありがとう、ヴェント兄ちゃん。おかげで魔法を完成させる為に重大なことに気付くことができたよ」


 「どういたしまして。さっ、それじゃあ早速術式の調整に取り掛かろう」


 「うんっ!」


 兄弟の微笑ましい絆を感じさせる雰囲気の中僕はヴェントと共に『注射器魔法シリンジ』の魔法専用の解析アナリシスの魔法の術式を組み立てていく。


 勿論ヴェントとこのような良好な関係を築けているのはヴェント達の側からは僕が【転生マスター】だという確証が得られていない為だ。


 もし僕が【転生マスター】だと知られたらヴェントとの関係はどうなってしまうのだろうか。


 SALE-99達のことは元々敵視してるし万が一僕が【転生マスター】だとバレて敵対してしまうようなことも覚悟しているけど僕のことを大事な家族の一員として扱ってくれているヴェントとはできればそのようなことになりたくない。


 楽しげに談笑しながら術式の構築を行う中で僕はこの先のヴェントとの関係がどうなるのかという不安を拭い切れずにいた。

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