第43話 暗躍
まだ日が高いにも暗闇に閉ざされた空間。
冷たくも分厚い
そんな人気のない場所で3人の人物。
それもその内の1人はまだ幼児期も脱していないような子供。
ヴェントとブランカ、そして先日僕達の赤ちゃん部屋に突如として姿を現したSALE-99が秘密の会話を行っていた。
「ようこそ、VS8-44。今日も家の者達に怪しまれずに来ることができましたか?」
「ああ。これでも周囲から
先日僕達の赤ちゃん部屋でヴェントやブランカ達について衝撃の事実が明らかになってから約2か月が経過。
その後間もなくブランカと同じメノス・センテレオ教団の一員。
アズール・コンティノアールとしてやって来たSALE-99とその他の教団員達と共に僕達の住むウィンド・ベル村に現在は使われていなかった建物を改築し、簡易的なものではあるが礼拝堂が建設された。
SALE-99達が建てた礼拝堂はその神聖さも相まって大いに受け入れれ、今では多くの人達が礼拝に訪れるようになっているようだ。
メノス・センテレオ教団が建てた以上はその教団の崇める神に祈りを捧げることになるのだが、これまで特定の神を信仰してこなかったこともあり村の住民達もあまり抵抗を感じることはなかったようだ。
自然とメノス・センテレオ教団へと入団する住民達もちらほらと出てきている。
そんな礼拝堂にある地下室でソウルギルド『味噌焼きおにぎり』のメンバー同士であるヴェント達は密会を行っていたようだ。
ブランカやSALE-99が管理するこの場所ならこの前のように赤ん坊の僕達に話を盗み聞きされている可能性を危惧する必要もない。
「しかしわざわざ密会場所を確保する為にこのような小さな村に礼拝堂を建設するとは……。お前達の管理するメノス・センテレオ教団というのはかなりの資財と労力を持て余しているようだな」
「我々のように魂の隠しスキルを持つわけではありませんが、資財と権力を確保できるよう調整した魂達も共に転生させていますからね。【転生マスター】である我々が上手く資産家や権力者に転生したそいつ等に接触すれば瞬く間に組織の力を強大に高めることができるというわけですよ。それに元々あなたが
「本拠地……。
「村の規模が小さいとはいえこの地は我々がこれまでに至るまでの転生で着々と準備を整えてきた人々の信仰のエネルギーを集めるには最適な場所となっていましてね。あなたが
「計画の内か……。それについて聞きたいことがある。俺がこの地に転生するのも計画の内とするならば何故俺は自分の束ねる組織である『味噌焼きおにぎり』の魂達と何ら関わりのない家に生まれた。資産家や権力者に転生する奴まで用意しておきながら俺の家族となる魂はいなかったのか?」
「そういうわけではありませんがそう全てが計画通りに行かないというのが世界への転生の常でしてね。事前の転生の行動である程度はコントロールすることができるのですが他のメンバーは我々のように【転生マスター】ではありませんしね。計画に多少の誤差が生じてしまうのは致し方無いことです」
「両親に兄弟姉妹……。肉親となる者達に1人のソウルメイトもいないことが多少の誤差だというのか……」
「一応若くして病に伏したことで既に亡くなっておいでですがあなたの母方の祖母のパーテナ・サンクカルトはあなたを出産することが専門となっている我々の仲間の魂。隠しスキルの1つである【聖母】の転生スキルを取得したXX3-34が転生した人物です」
「【聖母】だと……」
SALE-99に代わってブランカが【聖母】についての説明を行っていく。
先日ヴェントとの接触を任されたと言っていたが、接触を行う前にヴェントの家系図や身辺調査を行うのもブランカの役目となっていたようだ。
【聖母】
有性生殖が可能な
また
「本来ならその【聖母】の転生スキルを取得したXX3-34があなたの母親となるのが我々の理想でしたが、どうやら転生に若干のズレが生じ1世代隔ててしまう形となってしまったようです。とはいえ直系の親族ではあるのでそれなりに能力の補正を受けられているでしょう。あなた以外の親族……。我々『味噌焼きおにぎり』のメンバー以外にも恩恵を与えてしまうのが【聖母】の転生スキルのネックではありますが……」
「本来俺が賜るべきだった【聖母】の直接の能力補正を母親であるパーナ・サンクカルトが受け、俺の兄弟姉妹であるヴィンスやヴァンにも俺と同等の補正を授けてしまったということか」
「ええ。XX3-34が直接出産した子孫はパーナ・サンクカルトのみですので今のところXX3-34の【聖母】の恩恵を受けているのはあなたの母親とその兄弟姉妹のみです。流石に我々『味噌焼きおにぎり』のメンバーの子孫があなただけというのは計算外でしたが……。それについては上手くあなたの家族を我々の側に取り込めば問題は解決します。この村におけるメノス・センテレオ教団の布教活動は順調に事が進んでいるようですし、直にあなたの家族達もあなたを
「それは彼等の中に【転生マスター】の転生スキルを取得している者がいなかったらの話だけどね……」
「………」
「まだ先日我々の話を聞かれた赤ん坊達のことを疑っておいでなのですか、SALE-99」
「赤ん坊だけでなくVS8-44の両親と兄、それにこの村の住民達や他の教団に所属しているメンバー全員だよ。例え
「情報戦において最も有利に立ち回れるのがお前達【転生マスター】の強みだが、それは同時に敵グループの【転生マスター】にも最大の警戒をしなければならないことを意味しているというわけか……」
「そういうことです」
「それで……結局俺はこの村で具体的にどのような行動をすればいいんだ。暫くはこのまま3歳の子供を演じていればいいのか?」
「いえ……それが思ったより今話した他の宗教系のソウルギルド達の活動が活発でしてね。そろそろあなたにも我々の教主として表舞台に立って頂こうと考えております。それに伴いこの村の住民……そしてあなたの家族にも少々犠牲を払って頂くことになるのですが構いませんよね?」
「何だと……。それは一体どういう意味だ、SALE-99」
「なぁに。人々の
教会の地下室に鳴り響くSALE-99の怪しい笑い声がウィンドベル村、そしてその村に暮らす僕とアイシア、そして家族であるPINK-87さん達にこれから災いが齎されるであろうことを暗示する。
赤ん坊の僕達では立ち入りようがないこのような場所で密会されてはもう僕達にヴェントやSALE-99達の動向を察知する術はない。
彼等の計画の魔の手が差し迫ろうとしているのも知らず僕とアイシア、ベル達はベビーベットの上で只天井を見上げていることしかできなかった。
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