第39話 神の子

 【神の子】

 神が天井より地上に遣わせし存在、神の子・・・に転生できるようになる。   

 神の子・・・は誕生時地上にその証明となるものが発現し、その世界で圧倒的な宗教的影響力を得ることができる。

 またその世界に存在する信仰的ちからを最大限に行使することができる。


 これがベル達の言っていた僕達の【転生マスター】と同じく隠しスキルのページにあった【神の子】の転生スキルの概要だ。


 神の子・・・と聞くとその意味合いとしてはファンタジー世界の勇者・・に近い存在に思えるが転生スキルとしての【神の子】と【勇者】にはちゃんとした違いがある。


 共に世界を救う存在として転生できる点は同じなのだが、【勇者】の場合は相反する存在である【魔王】等世界に君臨する悪を討ち滅ぼして世界を救うという存在であり、その為転生先の器に大幅なステータスの上昇補正を受けることができる。


 対して【神の子】は【魔王】や他の悪に等しい存在の存在にはあまり関係なく、転生スキルの概要にもあるように宗教的影響力を駆使、人々の精神的指導者となってより良い方向へと導くことで世界を救済する存在となっている。


 その為ステータスへの上昇補正は同じ隠しスキルの転生スキルである【勇者】と比べると大分抑えられているのだが、信仰的ちから


 ファンタジー系のゲームで謂うところの光属性や聖属性にあたる能力を最も高いレベルで得ることができるようだ。


 そしてどうやら【神の子】の転生スキルの概要にあるもう1つの内容。


 神の子・・・は誕生時地上にその証明となるものが発現するとあるがメノス・センテレオ教団のブランカによるとまさにその現象が僕達の家で起きたということらしい。


 つまりは僕達家族の中にその【神の子】の転生スキルを持つ魂が転生している可能性が高いわけなのだが……。


 既に隠しスキルの1つである【転生マスター】の転生スキルを取得している僕とアイシア、それにベル達はまず除外される。


 隠しスキルのページにある転生スキルは1つの魂に付き1種類しか取得することができないからだ。


 ソウルメイトであるPINK-87さんとRE5-87君、MN8-26さんからはそのような転生スキルを取得しているという話は聞いていない。


 隠しスキルのページの存在は他の魂に明かすことができない為僕達に打ち明けることができていないだけかもしれないが、これまで共に家族に転生して来てそのような現象に遭遇したことは一度もなかった。


 っということはつまり……。


 「つまりブランカさんはヴェントのことを調べにいらっしゃった……っということでよろしいかしら?」


 「その神の子・・・の誕生の現象の時にあなた方の家に生まれたのがヴェントという名の人物ならば」


 やはりその神の子・・・の誕生の現象を引き起こしたとされる人物は今回初めてソウルメイト以外で僕達の家族となったヴェントだった。


 PINK-87さんもブランカの話を聞きすぐに察した様子でその後の話を進めていく。


 もしかしたら村の住民達の対応もヴェントがその神の子・・・は誕生の現象に関係していることを知っていてのことだったのかもしれない。


 「これが神の子・・・は誕生の証明が刻まれたという石碑ですか……」


 ブランカに調査の協力を依頼されPINK-87さんは家の裏にある神の子・・・は誕生の現象が起きた大きめの岩のところへと僕達を抱いたまま一緒に案内してくれた。


 その大岩には確かにこの世界で神の子・・・を意味する文字とその下にヴェントの名が刻まれていたのだが……。


 「石碑っていうか……。元々只の大きい岩だったものがいつの間にか綺麗に削られてその表面に『神の子・ヴェント』という文字が刻まれていたんです。村の住民達によると何でも私がヴェントを出産した日に天から光の柱がこの大岩の場所に舞い下りてきて、気になった住民達が見にきたらこの文字が刻まれていたと……。私達家族は皆病院にいて光の柱については直接見たわけではないので本当にブランカさんが言うような現象が起きたのかは何とも……。生まれて来る子の名前を“ヴェント”にするというのは村の人達にも話していたし誰かの悪戯によるものかとも思っていたんですけど……。光の柱を見たという住民達はすっかりヴェントのことを神の子・・・だと信じ込んでもてはやすようになってしまったんです」


 「いえ……これぞまさに神の子・・・の誕生を証明するものに違いありませんっ!」


 「まぁ……。ブランカさんも私達と同様で住民達の謂う光の柱を見たわけではないのでどうしてそこまで言い切れるんです?」


 「これでも私はこの世界を創造したとされるシャナ神を信仰するメノス・センテレオ教団の聖職者なのですよ。この石碑からはまさに神がこの地に齎した力が宿っているのをヒシヒシと感じます」


 「まぁ……。それではヴェントは本当に……」


 「ええ……。そこにいらっしゃるヴェント様こそシャナ神が地上にいる我らを天上へと導く為に遣わされたまさに神の子・・・と呼べる存在なのですっ!」


 僕達の兄さんであるヴェントのことを神の子・・・であると完全に断言しまくし立てるブランカ。


 確かに目の前の大岩にはヴェントが神の子・・・であることを示す文字が刻まれているし、ブランカの言う通り僕達にも神聖な雰囲気が漂っているように感じられる。


 けれどPINK-87さんの言う通り直接光の柱を見ていない以上はどれだけ神聖な印象を受けようと只の石碑だ。


 誰にも気付かれずにヴェントが生まれるまでの間に岩に人の手でこのような文字を刻み込むのは難しいかもしれないけど不可能じゃない。


 なんせこの世界には魔法というものが存在しているのだ。


 そもそも住民達が見たという光の柱だって何者かがヴェントを神の子・・・と思わせようとして魔法を発動させたのかもしれないし……。


 そのような推測や検証を何も行いもせず断定的な言動を行うブランカのことが僕には宗教を隠れみのにして人々を騙す詐欺師や只の怪しげな狂信者であるように思えたのだけれど……。


 「(ベル達はこれまでの話を聞いてどう思う?。僕にはちょっとこのブランカって人の話っていうよりこの人自体が怪しく思えて仕方無いんだけど……)」


 「(う~ん……。確かにこいつ自体は僕達も怪しく感じるけど神の子・・・の現象が起きたっていうのは本当だと思うなの。ヴェントを神の子・・・と思わせる為にわざわざこんな手の込んだ真似をする奴がいるとも思えないし、やっぱりヴェントが【神の子】の転生スキルを取得している可能性の方が高いと思うなの)」


 「(高いと思うなの)」


 「(そっか……。でもベル達に続いて【神の子】の転生スキルを取得している魂にも出会うなんて意外と隠しスキルのページを見つけている魂って多いんだね)」


 「(可能性が高いだけでまだヴェントがそうだと決まったわけじゃないけどのなの。本当に【神の子】の転生スキルを取得しているかどうかを確かめるにはもう少し様子を見る必要があるなの。もし【神の子】の転生スキルを取得していて今回神の子・・・として転生しているなら神の子・・・だけが持つ信仰的な力をヴェントから垣間見ることができるはずなの)」


 「(できるはずなの)」


 ベル達にはやはりヴェントが【神の子】の転生スキルを取得していているものと考えているようだけど確証はないようだった。


 この大岩に起きたという現象が【神の子】の転生スキルによるものなのか、それとも何者かが作為的に行ったものなのか。


 どちらにせよこのブランカという奴にこそ注意を払わないと僕達家族を無茶苦茶にされかねない。


 『地球』の世界に転生していた頃から宗教というものが如何に危険な存在かということを僕はよく知っている。


 「それで……。仮にヴェントが本当に神の子・・・だとしてブランカさんはどうなさるおつもりなのかしら……」


 「無論ヴェント様を最高指導者、乃ち教皇として我が教団へと迎え入れ共に世界の人々を救済へと導く為尽力するのが私の使命であります。ですがヴェント様はまだお若く、あなた方ご家族にも我が教団のことを理解して頂く時間も必要だとは思いますので暫くはこの村に留まり他に神の子・・・誕生の現象が起きていないか調査を続けたいと思っています。ヴェント様のお近くにいればまた神からの啓示を受けられるやもしれませんし……」


 「そうですか……。そういうことでしたらもし良かったらですが調査の間我が家にお泊りになられませんか?」


 「えっ……よろしいのですかっ!」


 「お……おいおい……パーナ。この人はヴェントを家から連れ出すことを目的としているようなのにそんなことしていいのか。神の子・・・と謂ってもヴェントが家の子であることに変わりはないんだぞ」


 「けれど反対に私達の子が神の子・・・である可能性が高いことにも変わりはないんでしょう。だったら家の子は家の子だ・・・・・・・・なんて堅気かたぎなこと言ってないで、これからのヴェントの人生に関係するような事柄の知識をしっかりと頭に入れておくのが親としての責務なんじゃない。ブランカさんに家に泊まって頂ければその間に色々と私達が知っておくべきことについて教えて貰えるでしょうし」


 「それは……。確かにその通りだがそう簡単にこの人のことを信じて良いものか……」


 「私のことを不審に思われるのは当然のことですし宿泊先なら自分で探しますので気になさらないで下さい。只我々の教団はヴァリエンテ王国から正式な許可を得て活動を行っているものなので誤解を生まない為にもどうかその点だけはご確認下さい」


 「そうは言っても外からの来客なんてほとんどのないこの村には宿泊施設なんてありませんよ。どうか遠慮なさらず家に泊まって下さい。主人もヴァリアンテ王国からの確認が取れれば納得してくれると思いますから……ねぇ」


 「そうだな……。しかし万が一教団の活動許可の確認が取れなければこちらも然るべき対応を取らせて頂くなるのでその点はそちらもご了承下さい」


 「無論承知しております。最もそのようなことは決してあり得ない話ですが……。ではお言葉に甘えて調査の間あなた方の元に滞在させて頂くことに致しましょう。いきなり押し掛けた上にこのようなご迷惑までお掛けして申し訳ありませんがどうぞよろしくお願い致します」


 っということで話し合いの末ブランカは調査を終えるまでの間僕達の家に滞在することになった。


 僕達としてはブランカのことは信用できていなかったけど僕達が生まれた状況を正確に把握する為に近くで様子を窺えた方が都合が良い。


 赤ん坊の状態では話を盗み聞きする程度のことしかできないけど僕達としても少しでもヴェントと神の子・・・の情報を集めないと……。


 僕の固有オリジナル転生スキルである『注射器魔法シリンジ』の能力を完成させる為の転生だったけど余計な事態に遭遇してしまったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る