第38話 来客
晴れ渡る空に輝く太陽の光が照らし、山の谷間から吹き込む爽やかで涼しげな風が草原の草木と共に家へと帰る僕達の体を揺らす。
僕達が生まれた日と違って退院するこの日はとても良い
この辺りは割と高台となっているようで丘から見下ろす山の麓、そしてその先に連なる巨大な山々の景色はとても優雅で壮大だ。
東の山の麓の方に大きくて綺麗な色の湖があるのも見える。
ちょっとだけど僕の天国の部屋の景色にも雰囲気が似てるかな。
「はぁ~今日はとっても良い天気であなた達が家に帰るのに絶好の日和になったわね~。ここが私達の暮らす村のあるウィンドベル高原よ~。高台から見下ろす山の麓の景色がとっても美しいでしょ~」
家へと辿り着く前に今回転生した僕達家族のことをちゃんと紹介しておこう。
まず僕達の母さんであるPINK-87さんが転生したパーラ・サンクカルト
次に父さんであるMN8-26さんが転生したジンス・サンクカルト。
その次に僕達の兄弟姉妹の一番上の兄さんであるRE5-87君が転生したヴィンス・サンクカルトに僕ことヴァン・サンクカルトにアイシアことアイシア・サンクカルト。
このソウルメイト達一向は普段の転生と容姿も性格もほとんど変わりがない。
「ヴァンとアイシアは僕達の家を気に入ってくれるかな?、母さん」
「そうね~。ヴァンとアイシアの為にヴィンスとヴェントが頑張ってあんな素敵な赤ちゃん部屋を用意してくれたんだもの~。きっと2人も気に入ってくれると思うわ~」
そして最後に僕達家族の中で唯一ソウルメイトでない僕達兄弟姉妹の2番目の兄さんとなるヴェント・サンクカルト。
家へと向かう道中の会話によるとどうやらRE5-87君とヴェントの2人で僕達の為の赤ちゃん部屋を用意してくれたらしい。
その話を聞いて一体どんな部屋なのかと僕はPINK-87さんに抱き抱えられた腕の中で胸を躍らせる。
アイシアやベル達はソウルメイトでないヴェントには注意を払うべきだと言っていたけどとてもそんな悪い魂が転生しているようには見えない。
アイシアやベル達と違って僕は既にヴェントのことを家族として受け入れ始めていた。
「(RE5-87君と一緒に僕達の赤ちゃん部屋を用意してくれたなんてヴェントはとってもいい子みたいじゃないか。もう余計な疑問を抱いたりしてないで皆家族として仲良くやっていこうよ)」
「(いえ。確かにここまでの我々に対する接し方は至って普通の子供の反応をしているように思えますがまだ油断はできません。【転生マスター】としてソウルメイトでないことが分かっている以上ある程度の警戒は保つべきです)」
「(アイシアの言う通りなの~。仮にこの子に転生しているのが至って普通の魂だったとしてもソウルメイトでないことは確かなんだからPINK-87やRE5-87に対して以上に信頼を寄せるべきではないなの~。僕達が完成を目的としているLA7-93の『
「(するべきなの~)」
「(3人共それはちょっと冷たすぎるんじゃないっ!。ソウルメイトじゃないからって他の家族と差をつけて接しろだなんて
アイシアがベル達が言っていることは尤もなことだと頭の中では理解していたのだが、僕の魂としての感情がソウルメイトでないヴェントを除け者扱いするようなことを許せなかった。
3人に対して怒りを感じているというより【転生マスター】の力を手に入れたことでどんな転生の時も打算的な考えをしてしまう自分自身に腹が立っているという感じだ。
【転生マスター】としての力を最大限に活かす為にはアイシアやベル達のように多少心が冷たくなっているように感じられようと常に冷静さを保つべきなのは分かってる。
けれどそのせいで本来家族に対して持つべき愛情や尊敬の念、何より魂に対する尊厳を失ってしまっていっているような感じがして心の奥に引っ掛かるどうにもならない歯がゆさを取り除くことができなかったのだ。
常に魂の記憶と思考を有することができるのが【転生マスター】としての力。
思考とは考えや思いを巡らせる行動であり、考えは理性、思いは感情に置き替えることができる。
常に正しい結論を導き出す為には僕の魂自身が理性と感情をしっかりとコントロールできるようにならなければならないだろう。
「さぁ~、ついに我が家が見えて来たわよ~。あの小高い丘の上に見えるのが私達の屋敷よ~、ヴァン~、アイシア~」
産院から村の中を道なりに進んで行くと、村の集落から少し離れた高台から更に小高い丘の上に綺麗なシンメトリーの立派な屋敷が建っているのが見えた。
PINK-87さんがその屋敷を指差していることからあそこが僕達の家族の暮らす家なのだろう。
周りに見える他の村の建物より明らかに立派で大きい造りになっている。
どうやら今回もPINK-87さん達はかなり裕福な家庭を築いてくれていたようだ。
因みに僕達の村はウィンドベル高原にあることからそのままウィンドベル村と謂うらしい。
「こんにちは~、サンクカルトさん。可愛い赤ちゃんを2人も抱えて今日が退院日だったのね~。出産おめでとう。後でお祝いの品を贈りにお宅に寄らせて貰うわ~」
「ありがとうございます、メーナさん。この子達はヴァンとアイシアといいます。新しい家族共々今後ともどうぞよろしくお願い致します」
「ヴァン君とアイシアちゃんか~。ヴェント君もこんな可愛い弟と妹が一気に2人もできて良かったわね~。あなたような立派な人物が兄さんでヴァン君とアイシアちゃんの方もきっと喜んでると思うわ」
少し立ち止まったPINK-87さん達と共に我が家の風景を眺めていると同じ村の住民と思われる女性が声を掛けて来た。
ここまで歩いて来る道中も多くの住民達が僕達の出産を祝う声を掛けてくれていたし、同じ村に暮らす住民達とも良好な関係が築けているみたいだ。
しかし心なしか家族の中でヴェントに対してだけ住民達の人当たりが特別良いように感じてしまう。
まだ3歳程度の子供を
確かに物静かでありながら礼儀正しくとても気品があるようで、日差しのように明るい黄金の煌めきとも言えるような鮮やかで美しい金髪は神々しさまでも感じさせるものだが……。
他にも何かしらの理由があるのだろうか。
「あっ……そうそう。さっき何だか品の良さそうな若々しい青年がお宅を探して訪ねていらっしゃったわよ。お宅の家の場所を教えたら向かって行ってたから今頃家の前で待ってるんじゃないかしら」
「品の良さそうな男性のお客様?。メーナさんが知らない人物ということは……」
「どうやら村の外からやって来たみたいよ。こんな辺境の村をわざわざ訪ねて来る人がいるなんて珍しいわよね」
「そうですよね~。一体我が家に何の用があっていらっしゃったのかしら~」
声を掛けて来た女性の住民によるとどうやら村の外から僕達の家を訪ねて来た人物がいるらしい。
周りを険しい山に囲まれたこの村に外からの来客は珍しいらしく、話しを聞いたPINK-87さん達は少し困惑した様子で再び我が家を目指して歩いて行った。
「あら……あの人がさっきメーナさんが言ってたお客様かしら」
「こんにちは、サンクカルトさん。私はメノス・センテレオ教団から遣わされてやって来たブランカ・ティーグレと謂う者です」
我が家の前へと着いた僕達を待っていたのはブランカ・ティーグレと謂う金髪で色白の品の良い青年だった。
教団からやって来たと言う通り、白の十字架の刺繍を施した黒の衣装に身を包み如何にも神父らしい格好をしていたが一体何の目的で家を訪ねて来たのだろうか。
「メノス・センテレオ教団……。外界から閉ざされたこんな村では聞いたことない名前ですけど一体どのようなご用件で家を訪ねてらっしゃったのかしら?、ブランカさん」
「はい。私はこの村に住むサンクカルトさんの元に
「(か……神の子の誕生の現象だって……。一体それって何のことだろう)」
「(さぁ……恐らく何かしらの超自然的な現象のことを差し示しているのでしょうか具体的にどのようなものかまでは……)」
「(も……もしかしてまさかなの……)」
「(まさかなの……)」
「(んん?。ベル達には何か心当たりがあるの?)」
「(LA7-93達こそ【転生マスター】の癖にもう隠しスキルのページにあった他の転生スキルのことを忘れちゃったなのっ!。【転生マスター】以外の隠しスキル以外に正しくその現象と全く同じ名前の転生スキルがあったじゃないなのっ!)」
「(あったじゃないなのっ!)」
「(な……何だってっ!)」
我が家へと入る前にメノス・センテレオ教団からやって来たブランカという訪問者から聞かされた奇妙な言葉。
ベル達によれば僕達が取得した【転生マスター】と同じく隠しスキルのページにあった他の転生スキル。
その中にまさに【神の子】という名称の転生スキルがあったとのことだがっということはつまり僕達家族の家の誰かがその転生スキルを……。
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