第28話 ハーディンからの誘い

 「えっ……ハーディンさんの引き受けてる依頼を僕達も一緒に受けてみないかってっ!」


 「ああ。君達は正式に冒険者ライセンス取得する為にギルドからの依頼をこなさなければならないのだろう。君達にとって初めての依頼になるわけだし誰かしらの協力を得た方が良いと考えていたんじゃないのかな。僕達としても無事次の依頼を達成する為にも是非アル君の力を貸して貰いたいと思っているし……どうかな?」


 会場から僕達の後をつけて来たハーディンから次の依頼を受けるに当たり自分達のパーティに参加しないかとの提案を受けた。


 だけど僕達の依頼にハーディン達が助けに加わってくれるのならともかく僕達がハーディン達の受けている依頼に参加するなんて本来あるべき立場が完全に逆になってしまっている。


 これではまだ正式に冒険者ライセンスの取得すらできていない僕達が現役の冒険者でしかも冒険者試験の試験官を務める程の実力を持ったパーティ達と同レベルの依頼を受けなければならないことになってしまう。


 只冒険者ライセンスを取得するだけなら最低難易度の依頼であっても構わないにも関わらずにだ。


 ハーディン達の協力を得られるのは嬉しいがこれでは反対に僕達にとってのリスクが増してしまうことになるのではないだろうか。


 返事を出す前にそれらのことについて色々とハーディンに問い質してみることにした。


 「確かに君達にとってはリスクが大きい話になってしまうだろう。だけど依頼の難易度が高くなればその分報酬も上がるし、冒険者としての地位と名声も得られる。僕達と共に依頼をこなせば一気にCランクくらいの冒険者への昇進も不可能じゃない」


 「メリットも大きいのは分かったけどそんな難易度の高い依頼に僕達が挑んで本当に大丈夫なのかな……」


 「心配しなくてもアル君とアイシアさんの身の安全は僕や他のパーティの仲間達が絶対に保証する。アル君に至ってはそもそも僕達と同レベルの依頼を受けても全く問題がないくらいの実力を持ってるしね」


 「だけどどうして足手纏いになる可能性の高い僕達をハーディンさんのパーティに……」


 「さっきも言ったけど次の依頼を達成するのに錬金術師であるアル君の力を貸して貰えると僕達としても凄く助かるんだ。次の依頼はこの中継拠点から5つも下のダンジョンの階層まで向かわなければならなくてね。ここを出てから再び帰って来るのに最低でも2週間は掛かるだろうし道中で霊薬ポーションなんかのアイテムを補給する必要がある。錬金術師で冒険に出られる程の実力を持った者はこの中継拠点に数人しかいない上に生憎と今は皆他の依頼に出払ってしまっていてね。パーティへの参加を頼めるのがアル君しかいないんだよ」


 なる程。


 どうやらハーディンは錬金術師のジョブに就きながら戦闘においてもある程度の実力を持つ僕の力を必要としているらしい。


 そういうことなら足手纏いになる可能性も考慮した上で僕達をパーティに誘った理由にも納得だ。


 先程の試験で試験官を務めたことで直に僕の実力を見ることができていたということもあったのだろう。


 しかし僕はともかくアイシアについてはどうなのだろうか。


 試験でのアイシアの様子を直に見たわけではないにしろパーティへの参加を促す以上は担当の試験官から話を聞いて成績の確認ぐらいはしているはずだろう。


 恐らくは僕達が兄妹であることに気を遣ってアイシアもパーティに誘ってくれているのだろうが、ベル達のパワーアップを受けていないアイシアでは僕以上に実力不足であることを承知しているはずだ。


 ハーディン達がアイシアの面倒を見ながら依頼をこなすことになっても構わないと考えているとしても僕としてはアイシアを危険な依頼に巻き込むのは気が引けてしまうのだが……。


 「ハーディンさんの言い分は分かったけど僕としてはやっぱりアイシアまで危険な依頼に付き合わせるわけには……」


 「そうかい……。ならアイシアさんは抜きでアル君にだけパーティに加わって貰うわけにはいかないかな……」


 「それは……」


 「マス……兄さんが承諾するなら私もハーディンさん方のパーティに参加させて頂きますっ!。危険と分かっていても魂の従……ではなく妹として兄さんの傍を離れるわけにはいきませんっ!」


 「そ……そうかい……。心配せずとも僕達もちゃんとアイシアさんの身を守れることを考慮してパーティに誘っているわけだから安心して良いよ。それにしてもそこまでして兄さんの傍を離れたくないなんて素晴らしい兄妹愛だね。僕にも5つ離れた兄がいるんだけど今はほとんど会うことがないくらい疎遠になってて感心させられるよ」


 僕達の主人と従者として関係を目覚ましい兄妹愛だと勘違いして若干ハーディンが引いてしまっている。


 色々と話し合った結果結局僕とアイシアもハーディンのパーティに参加することになった。


 危険を承知で僕に付き合うことを決めてくれたアイシアだが本当にこれで良かったのだろうか。


 「(本当にアイシアも一緒にハーディンさんのパーティに参加して構わなかったの。僕と離れたくないなら別にハーディンさん達の提案を断ってもっと難易度の低い依頼を受けることにしても良かったんだよ)」


 「(いえ。確かに危険ではありますが今のマスターの実力に相応しい成果を得られる機会を潰したくありません。本来なら足手纏いになる可能性の高い私が身を引いたことが良いのは承知していますがどうか魂の従者としてマスターに同行することを許してください)」


 「(分かった。そういうことなら僕もこれ以上余計なことは言わないよ。冒険者として成功を収める折角のチャンスだし2人共頑張ろう)」


 「(はい)」


 「あっ!、そうそうっ!。因みに僕達のパーティメンバーには君達の兄さんであるドン・アルティスもいるから。Aランクの冒険者の兄さんが一緒なら君達も心強いだろう」


 「ドン兄さんもハーディンさんのパーティにっ!。そりゃもう心強いことこの上ないよ。なんたって……」


 そう。


 なんたってドン兄さんは僕達の兄さんやAランクの冒険者であるだけでなく転生前にソウルメイトを組んで共に転生したRE5-87君だ。


 アイシアと違って【転生マスター】としての力は持っていないけど僕達魂にとってソウルメイトと行動を共にできること程頼もしいことはない。


 RE5-87君が一緒ならどんな依頼だって絶対に達成できるはずだ。

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