第29話 メンバー紹介

 「まだ正式なライセンスを取得してないのにいきなりCランクの依頼を受けるだなんて……。ドンが一緒とはいえ十分に気を付けて行ってくるのよ、アル、アイシア」


 冒険者ライセンスを取得する為第3試験までを終えてから3日が経ち、いよいよハーディンさんと約束した依頼をこなす為出立する日がやって来た。


 父さんと母さんに見送られアイシアと共に集合場所へと向かうがドン兄さんことRE5-87君の姿はない。


 既に立派に自立しているドン兄さんは僕達と共に暮らしているわけではなく落ち合うのは現地についてからになっていた。


 「お……おはようございます」


 「ああっ!、アル君にアイシアちゃんっ!。おはようっ!。約束通り来てくれてありがとう。ささっ、早速他のメンバーの紹介をするから君達もこっちに来て席に座ってっ!」


 集合場所であるギルドの建物へと到着した僕とアイシアはその内部に用意されたハーディンさん達のパーティ専用の待合室へと向かって行った。


 ハーディンさんのように冒険者として高い実績を持つ場合少しの金銭を支払うことでギルドに設けられた待合室を利用できるようだ。


 僕とアイシアは緊張した様子で扉を開け挨拶をしながら待合室の中へと入って行くと僕達を誘った張本人であるハーディンさんが明るく出迎えてくれた。


 こうして実際にパーティに加わったおかげか僕達への話し方に更に親しみが込められているように感じる。


 ハーディンさんに促されて部屋の中央に置かれたテーブルの席へと着いていくが、そこには他のパーティメンバーだと思われる人物達の姿があった。


 事前に聞かされていた通り僕達の兄さんにしてソウルメイトのRE5-87君でもあるドン兄さんの姿も……。


 「は……はい……ってあっ!。ド……ドン兄さん」


 「よっ。ハーディンから話を聞かされた時は耳を疑ったがまさか本当にお前達がやって来るとは思わなかったぜ。大分緊張してるようだが本当に俺達と一緒の依頼に参加して大丈夫なのか?。言っとくがこれから俺達が向かうのはBランク相当の依頼なんだぞ。まだ正式にライセンスも取得していないお前達が受けるのは普通ならそれより5つも下のGランクの依頼だ。それでも一緒について来るつもりなのかよ」


 「ちゃ……ちゃんとハーディンさんともよく相談して決めたことだし大丈夫だよ。勿論兄さん達の迷惑になるっていうならついて行くのを止めるけど……」


 「迷惑だなんてとんでもないっ!。アル君達の力を借りるのは僕達が次の依頼にあたるにあたって必要なことだってちゃんと説明しただろ、ドン」


 「分かってるよ。只一応仕事に出る前にこいつ等の覚悟を確かめておきたかっただけだ。なんせ俺に何の相談もせずにお前とアル達だけで今回の話を勝手に進めちまったんだ。アルとアイシアは俺の実の弟と妹なんだから心配になるのも無理ないだろ」


 「そうだね……。確かにドンの気持ちを何の考えもしないで独断で決めた僕の方が悪い、謝るよ」


 「もういいよ。試験の成績を見ればお前がアルの力を必要とするのにも納得がいった。そしてアイシアのことだからアルが参加するなら自分も一緒に参加すると言って聞かなかったんだろう。俺もお前達が参加することに文句を言うつもりはないから早く座れって、アル、アイシア」


 「うん……ありがとう、ドン兄さん」


 ドン兄さんの許しを得てようやく僕とアイシアも他のメンバー達と一緒の席に着く。

 

 色々と言いたいことがあるようだけどどうやらドン兄さんも僕達がパーティに参加することには納得してくれているみたいだ。


 僕達が席に着いたところでハーディンさんが自身とドン兄さんも含めた他の5人のパーティメンバーについて紹介してくれた。


 皆現役の冒険者らしくどっしりとした構えで席に座っていてこの部屋の中に独特の雰囲気を創り出している。


 緊張感がありながらも抱擁感がある……。


 新参者の僕達を撥ね退けるというより仲間として受け入れた以上は決して裏切りや脱退など許さない……。


 そんな重い感じが席についた僕とアイシアにドッと覆いかぶさってきた。


 「僕とドンについては今更紹介するまでもないよね。まずアル君の隣に座っているゴツイ男が僕達のパーティ唯一の前衛……っと。今回からアイシアちゃんが加わってくれる唯一じゃないね。とにかくその男が剣士と戦斧士のジョブを持つノーマン・ヒルズだ」


 「お前等がドンの弟と妹だって。兄貴もそうだったがその若さで冒険者になるとは大したもんだ。今ハーディンから紹介があった通り俺がこのパーティで前衛を務めるノーマンだ。よろしくな」


 最初に紹介されたのはノーマン・ヒルズという色白で筋肉質の巨体を持ち、口元を覆い隠す程の髭を生やした『地球』の世界で北欧神話を信仰していたとされる有名な海賊、ヴァイキングを連想させるような男だった。


 重厚な鎧に角の付いた兜をして背中には剣と斧を×印を描くように交差させて背負っている。


 剣と斧のサイズからして恐らく同時に両手に持つのではなく状況に応じ武器を切り替えて扱うのだろう。


 「そしてアイシアちゃんの向かい側、僕の隣に座っている美しい女性が治癒術師のジョブを持つコズミッキ・コニス。美人なだけじゃなくてとても優しい性格のお姉さんだからもし依頼に当たっている最中に傷を負ったりしたら遠慮なく回復魔法を掛けて貰うといい」


 「あらあら。美人で優しいだなんていつからそんなに口が上手くなったのかしら、ハーディン。都合よくおだてたところで私の取り分UPの要求を取り下げたりしないわよ。場合によってはあなたのパーティを抜けることも考えてるんだから覚悟しといてね」


 「わ……分かってるよ。只今回はアル君とアイシアちゃんの報酬についても考えないといけないからコズミちゃんの件の考えるのはまた次の依頼からってことで……」


 「私が今紹介にあったコズミッキ・コニスよ。いきなりパーティ内の見苦しいところを見せちゃってごめんなさいね。でもあなた達も仲間とパーティと組む時は報酬の取り分についてはキチンと話をつけておいた方がいいわよ。あんまり安請負ばかりしてるとハーディンみたいな口の上手い奴に都合よく利用されちゃうからね~」


 「うぅっ……。最近のコズミちゃんのパーティへの貢献度の高さはちゃんと分かってるんからあんまり新人達の前で恥を欠かせないでくれよ~」

 

 次に紹介されたのはコズミッキ・コニスという淡いベージュ色の長髪をした若い女性だった。


 若いといっても当然まだ子供である僕達よりは断然年上なのだが、見た目からすれば20代前半ぐらいのように思える。


 清楚な雰囲気の漂う純白のローブに身を包み如何にも治癒術師らしい格好をしていたが、そんな見た目から受ける印象とは裏腹にハーディンとの会話の内容は少し下賎だなと思えてしまった。


 どうやらハーディンさんはこのパーティのリーダーを務めているようだが皆を纏める為に色々と苦労していそうだ。


 「最後にそっちに座っているのが僕やドンと魔術師のジョブを持つバージニア・メンソールだ。3人も魔術師がいるなんてちょっとパーティのバランスが悪いように思うかもしれないけど皆それぞれ役割の違う魔法を扱えるから心配しないで」


 「………」


 「お~い、バージー。僕に言わせるだけじゃなく君からもちゃんとアル君達に自己紹介してやってくれよ~」


 「………」


 最後に紹介されたのはバージニア・メンソールというボサッと長い金髪をした女性だった。


 魔術師のジョブに就いていると言ってたがあまりそれらしい格好はしていない。


 ベージュっぽいジャケットに薄い青色のジーンズを履いていて冒険者っていうより街中を歩いてる普通の女性っぽい印象を受けた。


 只気になるのは肩肘をついた手に顎を乗っけたままずっとそっぽを向いて何だか険しい顔を浮かべていること。


 散々ハーディさんが自己紹介するよう促しているのに無言のまま完全に無視を決め込んでしまっている。


 これはもしや僕達がパーティに参加することを快く思っていないのでは……。


 「もうぉ~……バージー……。折角新しいメンバーが来てくれたんだからもう少し歓迎してやってくれよ~……」


 「そ……そんなに気を遣って貰わなくても大丈夫だよ、ハーディンさん。えーっと……バージニアさんと仰いましたよね。今日から……っていうか多分今回の依頼だけですけど皆さんのパーティに参加させて貰うことになったアル・アルティスと妹のアイシア・アルティスです。どうぞよろしくお願いします」


 「………」


 「(むぅ~っ!。折角アル達が丁寧に挨拶してやってるのにこいつは何様のつもりなの~っ!)」


 「(何様のつもりなの~っ!)」


 「(ベル達の言う通りいくら先輩の冒険者とはいえこの者の態度はマスターに対して不躾過ぎますっ!。こうしてパーティを組むことになった以上最低限の礼儀を払わせるようハーディンさんに強く抗議すべきでは?)」


 「(そんなことして余計なトラブルになったらどうするんだよ。折角誘ってくれたハーディンさんやドン兄さんにも迷惑を掛けたくないしここは堪えることにしよう。もしかしたら単に無愛想ってだけの人なのかもしれないし……)」


 僕の方から気を遣って挨拶をしても返事をしてくれる様子はない。


 今のところ無視されているだけなので僕達に対してどのような感情を抱いているのか知る由もないが少なくとも好ましくは思われていないようだ。


 仕事に出る前から余計なトラブルを起こしたくないと思い表立って不満を口にすることはなかったがこんなことで共に戦う仲間としてやっていけるのだろうか。


 

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