第18話 BELL-55とBELL-56

 「えっ……。それじゃあ君達は他の生物の細胞に転生することを専門にしている魂なの」


 「(そうなの~。最初の内は体の内部から僕達の細胞の持ち主の行動を観察して、そいつが良い奴そうなら力を貸してあげて、逆に悪そうな奴なら体の内部から痛めつけてやるのが僕達の趣味なの~)」


 「(趣味なの~)」


 突然テレパシーで話し掛けてきた僕の体の中にある細胞の1つに転生しているという2つの魂。


 僕と同じ【転生マスター】の転生スキルを取得している彼等はそれぞれ名前をBELL-55とBELL-56というらしい。


 彼等は【転生マスター】以外にも高確率で他の魂が転生している生物の細胞に転生することが可能な【細胞転生】という転生スキルを高Lvで取得しているという。


 【細胞転生】

 転生先の世界において他の魂が転生している生物の細胞として転生することが可能となる。

 スキルのLvに応じて細胞に転生できる可能性が上昇し、また自身の転生した細胞の能力が上昇する。


 彼等はその他にも自分達の転生した細胞の能力を向上させたり、細胞に特殊な能力を持たせる転生スキルを数多く取得しており、それらの効果を活かして自分達の転生した細胞の持ち主を内部からサポート、もしくはその活動を阻害することを専門としている魂のようだ。


 しかし通常の場合如何に魂が転生したところで細胞は細胞であるに過ぎない。


 その活動は細胞の持ち主の生物の生命活動に従事するもので自分達の意志を反映させることなど不可能なはずだ。


 しかしながら彼等は僕達と同じ如何なる状態の生命に転生していようと魂の記憶と思考を有することのできる【転生マスター】の転生スキルを取得している。


 【転生マスター】の力で魂の記憶と思考を有してさえいれば例え他の生物の細胞として転生していようと自分達の意思で活動することが可能となるようだ。


 数ある隠しスキルの中から【転生マスター】の転生スキルを選んで取得した後で何かその力を活かせる転生の方法を模索している最中で2人は細胞に転生することを思い付いたらしい。


 確かに他の生物の細胞に転生した状態で自分の意志を反映させるというのは【転生マスター】でなければできない芸当だろうが。


 だからといって細胞に転生することを専門にまでしてしまうとは全く変わった魂達がいたものだ。


 しかし彼等がこうして僕達にテレパシーで話し掛けて来たのは一体どういうつもりなのだろうか。


 わざわざ話し掛けるような真似はせずそのまま黙って細胞としての活動を続けていれば向こうだけが一方的にこちらが【転生マスター】であることを知る状態を維持できていたというのに……。


 「そ……それで君達は僕の体の細胞に転生してどうするつもりなの……。今悪そうな奴なら内部から痛めつけてやるって言ってたけどまさか……」


 先程の彼等の言葉に僕は思わず背筋が氷付く程の恐怖を覚える。


 彼等は他人の細胞に転生することをとことん楽しんでいるようだけどその対象となってしまった僕からしてみれば自分の細胞が自分と同等の意思を持って勝手に行動するなんて危険度MAX以上の寄生虫にでも寄生されているようなものだ。


 僕の体の細胞に転生した彼等は一体僕の活動にどれ程の影響を及ぼすことが可能なのだろうか。


 もしや命まで握られてるなんてことは……。


 「(ふっふっふっ。どうやら君の方も段々と事態が飲み込めてきたみたいなの~。僕達が本気を出せば君の体を内部から破壊して瞬く間に死に至らしめることも可能だけど一体どうしようかななの~)」


 「(どうしようかなの~)」


 「そ……そんなっ!。折角PINK-87さん達に協力して貰って今の僕に転生できたっていうのにこんな若さで死にたくないよっ!。冒険者になるのは無理そうだけどそれでもMN8-26に店を継がせて貰ってどうにかやっていこうと考えてたところなのに……」


 「くっ……。まさかこのような形でマスターの命を握られてしまうとは……。あなた達の目的はマスターを脅して自分達の思い通りに動かすことですかっ!」

 

 「(その通りなの~。普通の魂が相手ならこの状況を伝えることはできないけど、君達【転生マスター】が相手なら自分達の置かれた状況をしっかりと把握して貰えるなの~。これから僕達の指示に逆らうようなことがあったらどうなるか分かってるなの~)」


 「(分かってるなの~)」


 「く……くそっ!。そっちが【転生マスター】であることをわざわざこっちにも伝えるような真似をしてきたのはその為だったのか……」


 「これでは我々は彼等の指示に従う他ありませんよっ!、マスターっ!」


 彼等が僕達に話し掛けて来たのは僕達も【転生マスター】であることを知り、事情を飲み込ませることで自分達が如何に優位な立場にあるかを示し僕達を指示に従わせることができると考えたからのようだ。


 普通の魂が相手ならば如何に内部から命を握っていたところでそれを明確に伝えることなどできはしない。


 精々体に不調を起こして相手に不安を与える程度のことしかできないだろう。


 ある程度は相手の行動を操ることができるだろうが完全ではない。


 しかし僕の場合は同じ【転生マスター】であるが故に彼等に自分の命を握られていることを完全に理解してしまっている。


 これではアイシアの言う通り僕はもうこれから彼等の指示に従って行動するしか選択肢がない。


 彼等を体から取り除く方法も現状では思い付かないし、仮にあったとしてもそのような動向を見せた時点で内部から体を破壊されてしまうだろうし一体どうすれば……。


 「(なんて今のは冗談なの~)」


 「(冗談なの~)」


 「えっ……」


 「(本当は君達に協力してあげようと思って話し掛けたなの~。これまでアルの体の中からずっと君達の様子を観察していたけどどうやら君達はとっても良い魂みたいなの~。だから細胞に転生した僕達の力を君達に貸してあげるなの~)」


 「(貸してあげるなの~)」


 「そ……それって本当っ!。本当に僕の体を中から壊したりするつもりはないのっ!」


 「(本当なの~。それに僕達は君の体の一部でもあるんだからそう簡単に自分の宿主を苦しめるような真似はしないなの~)」


 「(しないなの~)」


 「そ……そっか。なら良かった……」


 今の彼等の言葉を聞いて僕はホッと息を吐いて安堵した表情を浮かべる。


 しかしまだ完全に安心できたわけではない。


 依然として彼等に命を握られていることには変わりないし彼等の言葉がどこまで本当かも分からないからだ。


 いつ心変わりをして体の内部から僕のことを攻撃してくるとも限らない。


 しかし今の言葉が本当だとした場合どのような形で僕達に力を貸してくれるというのだろうか。


 細胞に転生した彼等が持つ能力が一体どんなものなのかまるで想像がつかない。


 とにかく今は引き続き彼等の話を聞いてみるしかないか。


 命を握られている以上なるべく彼等の気に触らないよう注意して話をしないと。

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