第19話 細胞に転生した魂の力

 「それで……僕達に力を貸してくれるって言ってたけど一体どんなことをしてくれるの?」


 「(アルは冒険者になりたいんだよねなの~)」

 

 「(なりたいんだよねなの~)」


 「うん……。でも今の僕の実力……っというか魂の成長度ではどれだけ頑張ったところで冒険者になるのは無理そうだしもう無茶はしないで大人しく父さんの店を継いで慎ましく生きていこうと考えてたところだったんだ。その方がライセンスも無しにダンジョンに挑んで無駄死にするよりもよっぽどソウル・ポイントを稼げるだろうし冒険者になるのはもっと魂を成長させてからの方が良いと思って……」


 「(う~ん。まぁ、賢明な判断なの~)」


 「(判断なの~)」


 「(だけど僕達なら今のアルの魂の成長度でも冒険者にさせてあげることができるかもしれないの~)」


 「(できるかもしれないの~)」


 「ほ……本当っ!。でも一体どうやって……」


 「(僕達は今この『ソード&マジック』の世界に人間として転生したアルが持つ1200兆の細胞の内の1つにそれぞれ転生しているなの~。僕達の転生した細胞は他の細胞と違って独自の細胞へと進化を遂げることができるのなの~。それによってアルの生物としてのスペックを細胞レベルで底上げすることが可能なの~)」


 「こ……この世界の人間は1200兆個も細胞を持ってるのっ!。『地球』の世界の人間の持つ細胞の数は確か37兆個とか言われてたのような……。これまでの話を聞く限り僕の体の中には君達の転生した細胞が2つあるってことだけど……。全部で1200兆個ある細胞の内の2つにしか過ぎない君達に本当に僕の体を細胞レベルでパワーアップさせることなんて可能なの?」


 僕の体の中の細胞に転生したというBELL-55とBELL-56の名の2つの魂達。


 彼等は僕の生物としてのスペックを細胞レベルでパワーアップさせることが可能だと言った。


 だけど1200兆個ある細胞の内のたった2つにしか過ぎないのに本当に僕の体にそれだけの影響を与えることができるのだろうか。


 細胞について詳しい知識があるわけじゃないけど1つの細胞が僕の体に及ぼす影響なんて微々たるものどころか全く無いに等しいもののはずだ。


 独自の進化を遂げることが可能だと言っていたが、もし本当にそれだけの影響を及ぼすことが可能になるというならもうこの世界の人間が持つ細胞の域を完全を超えてしまっているということになる。


 それくらいでなければわざわざ細胞に転生する意味がないともいえるが……。


 「(普通に細胞に転生するだけならそんなことできるわけないなの~。だけど僕達の転生している細胞は僕達が取得している転生スキルの効果によって進化能力や増殖能力、更には他の細胞に干渉する能力が飛躍的に向上しているのなの~。それだけじゃなく【転生マスター】である僕達は他の細胞達のように能動的な運動をするだけじゃなく自分達の意思に従って行動することにより全く別の……。普通ならこの世界に存在しないような細胞にまで進化することが可能なの~)」


 「(可能なの~)」


 「よ……良く分かんないけどとにかく本来僕が持つはずだった細胞の域を完全に超えた物凄い細胞に転生してるってこと?」


 「(そういうことなの~。最初僕達はアルの心臓を構成する心筋細胞の1つとして転生していたんだけど、ここまでアルが成長すると共に僕達もかなりの進化を遂げてようやく本格的に活動を開始しようとしていたところなの~。冒険者となるだけの実力もきっと身につけてあげられるだろうからこれから少し僕達の言う通りにしてみて欲しいなの~)」


 「(欲しいなの~)」


 「ふむぅ……」


 「どう致しますか、マスター」


 「まだ完全に信用できたわけじゃないけど一先ず彼等の言うことを聞いてみようと思う。もし本当にそんな凄い細胞が僕の体に中に転生していて力を貸してくれるっていうならそれ程心強いことはないし……。でもできれば先に本当に僕の体の細胞に転生したって証拠を何か見せて貰いたいんだけど……」


 「(分かったなの~。それじゃあ僕達の力を見せてあげるからちょっとアルの右手の平を開いて見ていて欲しいなの~)」


 「(見ていて欲しいなの~)」


 2人に従って僕は右手の平を開いてアイシアと共にその様子を観察する。


 よく分からないが彼等の力でこれから僕の右手の平に何らかの変化を起こすということなのだろうか。


 「(それじゃあちゃんと見ててなの~)」


 「(見ててなの~)」


 「OK。ちゃんと見てるからいつでも大丈夫だよ」


 「(よし……それじゃあいくよなの~)」


 「(いくよなの~)」


 「こ……これは……」


 「大丈夫ですかっ!、マスターっ!」


 彼等の合図と共に突然僕の右手の平の中央が大きく膨らみ始め卓球バール程の大きさのコブができる。


 特に痛みもなく触ってみるとゼリーのように柔らかい。


 一体僕の右手の平に何が起きたというのだろうか。


 「(ビックリしたなの~。今アルの右手の平で僕達の細胞を増殖して大量の脂肪細胞を作り出したのなの~)」


 「(作り出したのなの~)」


 「し……脂肪細胞……。つまりこのコブは脂肪の塊によってできたものってことなの。通りで柔らかい上に触っても何の感触もないはずだよ」


 「だ……大丈夫なのですかっ!、マスターっ!」


 「うん。本当に只の脂肪の塊みたいだから何ともないよ」


 「(こんな風に僕達は自分達の細胞を分裂させることでアルの体の中に色んな細胞を生み出すことができるなの~。勿論何の条件も無しに生み出すことができるわけじゃないけど、この力を使えばアルの体の中で冒険者となる為に必要な細胞を増殖させてあげることもできるのなの~)」


 「(できるのなの~)」


 僕の右手の平にできたコブは僕の体の内部で2人が脂肪細胞を増殖させたことによってできたもののようだ。


 このように彼等は自身が転生した細胞を特殊に進化させるだけでなく、自分達の意思で好きな細胞を増殖することが可能だという。


 力を貸してくれるというのは主にこの力を使って僕の体の中の冒険者として必要となる細胞を増殖させてくれるということなのだろう。


 場合によって自分達だけでなく他の細胞に対しても変化を促すことが可能なようだ。


 細胞の増殖は主に自分達の細胞を分裂させることによって行っているらしいが普通の細胞がこんな短時間の内に僕の体にコブを生み出す程の速度で分裂を行えるはずがない。


 彼等がこのような真似をすることを可能にしているのは【転生マスター】や【細胞転生】の転生スキルだけでなく……。


 【自己進化能力向上Lv75】

  スキルのLvに応じて転生先の世界において自身の転生した生物の進化能力を向 

  上させる。

 【細胞進化能力向上Lv98】

  スキルのLvに応じて転生先の世界において自身の転生した生物の細胞の進化能 

  力を向上させる。

  細胞自体に転生することでスキルの効果を更に大きく高めることができる。

 【細胞増殖能力向上Lv88】

  スキルのLvに応じて転生先の世界において自身の転生した生物の細胞の増殖能 

  力を向上させる。

  細胞自体に転生することでスキルの効果を更に大きく高めることができる。

 【細胞分裂回数増加Lv77】

  スキルのLvに応じて転生先の世界において自身の転生した生物の細胞の分裂可 

  能回数を増加させる。

  細胞自体に転生することでスキルの効果を更に大きく高めることができる。

 【細胞分裂速度上昇lv64】

  スキルのLvに応じて転生先の世界において自身の転生した生物の細胞の分裂可 

  速度を上昇させる。

  細胞自体に転生することでスキルの効果を更に大きく高めることができる。


 その他色々……。


 この時点で彼等が本当に僕の体の細胞に転生していること、そして通常の細胞を遥かに超えた能力を有していることが確認できた。


 これまでの会話の内容も僕達に対して友好的と思えるものだったし僕は彼等を信用して協力をあおぐことにするのだった。

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