第17話 細胞に転生する転生マスター

 パッ!っと手の平を合わせて両手を地面へとやる。


 『地球』の世界の漫画で見た錬金術の真似事だ。


 その漫画の主人公はそれだけで地面の物質を素材とした錬金術で即座に剣や槍なんかの武器を造り出していた。


 『ソード&マジック』の世界で絶賛錬金術の修行中の僕はその漫画の主人公のように格好良く武器を錬成してみようと試していたのだけれど……。


 「よしっ!」


 「お見事ですっ!、マスターっ!」


 修行の甲斐あって僕の手元には地面からニョキニョキと樹が生えて来るように錬成されたとても強そうに見える見事な造形の槍が握られていた。


 その光景を見たアイシアが心から感嘆した表情を浮かべて賞賛の言葉を掛けてくれる。


 けれどもその錬成した槍を実際に振るってみようとした次の瞬間……。


 「あっ……」


 「………」


 武器を振るう動作をするどころかほんの少し動かしただけで僕の錬成した槍は瞬く間にボロボロと崩れ去ってしまい砂となって地面へと還っていってしまった。


 やはりこんな簡略された術式の錬金術、更には地面にある素材だけでまともな強度を誇る武器を錬成するのは不可能だったようだ。


 崩れ去ってしまった槍の姿を見て先程までの明るい表情が一気に落胆したものへと変わってしまい僕とアイシアの間に気まずい雰囲気が流れる。


 5回目の転生で人間として生まれてからもう13年になるというのにこんな調子じゃあ今年も冒険者ライセンスを取得する為の試験に合格できそうにない。


 これは大人しく父さんの店を継がせて貰ってまっとうな商売人として生きていくしかないか。


 幸い店で提供しているポーション程度ならまともに錬成できるようになったし、経営者になるなら他に錬金術師を雇って仕事を任せてもいい。


 自分の才能の無さにすっかり自信をなくしてしまった僕は完全に逃げ腰の考えへと陥ってしまおうとしていた。


 「はぁ……。やっぱりこんな調子じゃあ今年も冒険者ライセンスの試験には通りそうにないな。もう冒険者になることは諦めて来年からはもう父さんから本格的に店を継ぐ為の修行をつけて貰ったほうがいいかもしれないね」


 「い……いえっ!。今のは武器の構造に必要となる素材が揃っていなかっただけですよっ!。こんな何もない地面ではなくしっかりとした素材を用意して錬成を行えばきっと……」


 「そんな素材を用意して武器を錬成するくらいなら初めから武器屋で買った方が早いよ。例え素材となる物質が乏しい場所であっても状況に応じて必要な武器を造り出せることに意味があるんじゃないか」


 「そ……それは……」


 「やっぱり今の僕達じゃあ冒険者になるには魂の成長度が全然足りないんだ。ここは一つ冷静になって父さんの店を継いで少しでも錬金術の経験を積みつつ堅実にソウル・ポイントを稼ぐ作戦を取った方が……」


 「(ねぇねぇ~。今のってやっぱり『ハ〇レン』の真似なの~)」


 「(真似なの~)」


 ……っ!。


 自信を亡くした僕がアイシアに弱音をぶちまけていると突然何処から子供っぽい口調の声が鳴り響いてきた。


 語尾が木霊しているようにも聞こえたが声が2つ聞こえてきたようにも感じる。


 僕とアイシアが慌てて周囲を見渡すが誰の姿も見えない。


 それに声は外からというよりまるでテレパシーのように僕達の頭の中に直接語り掛けてきたようにも感じられた。


 「マ……マスター……。今の声は一体……」


 「アイシアにも聞こえたんだね。『ハ〇レン』がどうとか言ってたけどそのタイトルを知ってるってことはもしかして……」


 『ハ〇レン』。


 今さっき僕が地面から槍を錬成する真似をしていた主人公が登場する漫画のタイトルだ。


 正式名称は『はがね〇錬金術師』。


 だけどその漫画はあくまで『地球』の世界のものでこの『ソード&マジック』の世界には存在するはずがない。


 その漫画のタイトルを知ってるってことはつまりこの声の主も僕達と同じ……。


 「(当たり~。僕達も君達と同じ【転生マスター】なの~)」


 「(なの~)」


 ……っ!。


 やっぱり思った通りこの声の主も僕達と同じ【転生マスター】の力を持つ者であるようだった。


 自ら【転生マスター】であるとハッキリ口にしていることからまず間違いないだろう。


 それに僕達と言っていることからあの語尾の木霊はもう1人僕達に話し掛けているものがいるということなのだろう。


 勿論僕以外にもソウル・マネジメントから隠しページを発見し、その中から【転生マスター】の転生スキルを取得している魂もいるであろうことは予想していたけどまさかこんなに早く出会うことになろうとは。

 

 それも霊界ではなく世界に転生している最中で。


 同じ【転生マスター】同士なら互いに正体がバレテも隠しスキルの制約によるデメリットは受けないだろうが一体どういうつもりで僕達に話し掛けてきたのだろう。


 っていうかその前にこの声の主は一体何処にいるんだ。


 「き……君達も僕達と同じ【転生マスター】……」


 「(そうだよなの~。君達は自分と同じ【転生マスター】に出会うのは初めてなの~)」


 「(初めてなの~)」


 「ま……まぁね。それで一体君達は何処から僕達に話し掛けているの?。それに君達の声……。なんだか僕達の頭の中に直接鳴り響いて聞こえているように感じるんだけど……」


 「(感じてるだけじゃないくて実際そうなんだよなの~。【転生マスター】同士は近くにいればテレパシーで会話できるの知らないのなの~)」


 「(知らないのなの~)」


 「あっ……」


 そうだった。


 人間に転生してからは普通に言葉を発して会話できるようになってすっかり忘れてたけど最初に何かの微生物に転生してた時なんかはこの声の主と同じようにテレパシーみたいなものでアイシアと会話してたんだった。


 でもそうだとしてもこの声の主がテレパシーを通して僕達に話し掛けてきてるってことはもしかして人間の言葉を話すことができない生物に転生してるってことなのかな。


 例えば今目の前を歩いてるあの猫とか。


 「(ふふふっ、ざんね~ん。僕達が転生しているのはあの猫なんかじゃないよなの~)」


 「(ないよなの~)」


 「それじゃあ君達は一体何に転生して何処から僕達に話し掛けているの?。こっちは不安で仕方ないんだから茶化してないでちゃんと教えてよっ!」


 「(分かったよなの~。今教えてあげるからそんなに怒らないでなの~)」


 「(怒らないでなの~)」


 「………」


 「(実は僕達はアルの体の中から2人に話し掛けてるのなの~)」


 「(話し掛けてるのなの~)」


 「ぼ……僕の体の中だって……。それって一体どういう……」


 2人いると思われる声の主達は僕の体の中から話し掛けていると言った。


 しかしそんな漠然としたことを言われても僕には言葉の意味がてんで分からない。


 2人に詳しい説明を求めると何と返って返事は……。


 「ぼ……僕の体の中の細胞に転生しているだってっ!」


 なんと2人は僕の体内に存在する細胞の1つにそれぞれ転生しているという。


 確かに実際に生命活動を行っている以上は今アル・アルティスとして転生している僕と同じように僕の体を構成している細胞の1つ1つも生命体であると謂えるし誰かの魂が転生していたとしても不思議ではないことだ。


 そもそも僕達の魂が転生する対象となるのは細胞どころか生物、無生物にさえ関わらずその世界に存在するあらゆる物質にまで及ぶと謂われている。


 けれども実際に既に魂が転生した生物の細胞に魂が転生したなんて話は今まで聞いたことがない。


 それにもし本当にこの2人が僕の細胞に転生しているのだとしたら一体今僕の転生しているアル・アルティスとしての存在の定義は一体どうなってしまうんだ。


 それじゃあまるで僕の体なのにその2人の転生している細胞だけが僕の物じゃなくなってしまってるみたいじゃないか。


 これはもう少し……いや。


 納得いく答えが得られるまで2人に詳しく問い質してみないと……。

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