第5話 新たなる世界

 魂の成長を済ました僕とアイシアは『ソード&マジック』の世界の管理センターへとやって来ていた。


 各世界への転生はそれぞれに設置された管理センターから行われる。


 施設の造形はその転生先となる世界に似つかわしい雰囲気のものとなっているのだが、この『ソード&マジック』の世界の管理センターは僕がよく地球で読んでいた冒険者物の漫画に登場する冒険者ギルドのようだった。


 紅い煉瓦の壁には剣や盾等が飾られていてフローリングの床には高級感溢れる絨毯が敷かれていて、入ってすぐの巨大なホールには木製のテーブルが数多く設置されておりここを訪れた大勢の魂達が如何にも冒険者風の姿になって場を賑わせている。

 

 背中に巨大な剣を携え重厚な鎧に身を包み豪快に酒を飲み干している者、フード付きのローブを着て1人怪しくたたずんでいる者、清廉な衣装に身を包み十字架に祈りを捧げている者等色々といた。


 そんな冒険者達の賑わうホールを僕とアイシアは真っ直ぐ受付に向かって進んで行く。

 

 「いらっしゃいませっ!。『ソード&マジック』の世界へようこそっ!。今回第7兆3102億8762万5567回目の『ソード&マジック』の世界の転生に望まれるのは2名様でよろしいでしょうか?」


 受付へと到着するとこの管理センターの受付嬢と思われる姿をした魂が明るい表情で僕達を出迎えてくれた。


 金髪のロングヘアーにメイド風の衣装を着てとても可愛らしい。


 「あっ、はい。それで2人でソウル・メイトを組んで転生したいんですけど……」


 「畏まりました。ではお2人のソウル・メイトとしての関係性はどのように致しましょうか?」


 「えーっと……。僕が主でアイシアはその従者って形でお願いします」


 ソウル・メイト。


 転生先の世界でもよく聞くことのある言葉だろう。


 ソウル・メイトとは魂を強い絆で結ばれた者同士のことだ。


 転生先の世界では家族や親しい友人、そして運命の相手である恋人のような特別な繋がりを持つ相手として存在しているけど実はそう謂ったソウル・メイトの関係性というのは転生する事前に全て決めておくことができるんだ。


 今僕は受付の女性に主と従者・・・・とお願いしたけどこうして事前にソウル・メイトを組んでおくとそれに近しい関係で世界に転生することができる。


 そうでなくともソウル・メイトを組んでおけばほぼほぼ同じ時代、それも普通に生活しているだけで確実に出会えるような場所へと互いに転生することになるだろう。


 もっと大勢でソウル・メイトのグループを組んで転生することもできるけど取り敢えず今は僕とアイシアの2人だけだ。


 女性の指示に従って僕達には他にも色々と受付に必要な作業を済ませていく。


 「ありがとうございます。以上で受付は完了でございます。あちらの会場から『ソード&マジック』の世界の転生にお臨み下さい……っと言いたいところですが……」


 「……?」


 「パンパカパ~ンっ!。現在『ソード&マジック』の世界では魔法の世界への転生初心者さんの為に転生スキル贈呈の特別キャンペーンを実施中で~すっ!。基本となる6つの属性の魔法の扱いが上達する【炎術師】、【水術師】、【雷術師】、【土術師】、【氷術師】、【風術師】の中からどれか好きなものをお1つお選び下さ~い。但し既に転生スキルのLvが1以上となっているものはお選びできませんのでご注意下さい」


 受付作業が済んだと思ったところで突然受付の女性が甲高い声を上げてとても明るい表情で僕達にそう言い渡してきた。


 贈呈ということはソウル・ポイントを消費せずにそれらの転生スキルをこの場で取得できるということなのだろうか。


 Lvが1以上でないもの。

 

 つまりは現在見取得の状態の転生スキルでないといけないようだがこれはとてもお得なキャンペーンだ。


 女性が言い連ねた転生スキルはLvを1にするだけでもどれも5万ものソウル・ポイントを必要とする。


 普通に考えれば貰い得だけど一体どうすべきか。


 「どういたしますか?、マスター」


 「うーん……」


 女性が言い連ねた転生スキルは転生先の世界おいて各属性の魔法の技量を上昇させる効果があるものだ。


 【炎術師】なら火属性、【水術師】なら水属性といった感じに決められた属性の習得が容易になる。


 Lvが1とはいえ貰い得であることに間違いないないのだが少しだけ懸念しなければならない点がある。


 それは例えばここで【炎術師】の転生スキルを習得してしまった場合、転生先の世界で僕が宿る器に対し僕が自身で取得した【錬金術師】よりもそちらの【炎術師】の効果の方が強く出てしまう可能性があるということだ。


 転生スキルを取得していたとしても複数の才能を有した状態で転生するのは難しい。


 例えば欲張った今女性の言い連ねて6つの属性の魔法の転生スキルを全て取得してしまったりするとどの属性の魔法に関しても中途半端な才能を持った状態で転生してしまうことになる。


 僕の場合だと目的としている錬金術よりも火属性の魔法を得意とする家系に生まれ落ちてしまうというようなことも考えられるだろう。


 そういった点を踏まえると取得する転生スキルはなるべく同系統のものに絞った方が良い。


 【錬金術師】の転生スキルを取得している僕なら既に取得している武器の錬成が得意となる【武器錬成】やポーションの調合が得意となる【ポーション錬成】等の転生スキルを取得するのが望ましいということだ。


 以上のことから僕は女性の言うキャンペーンの転生スキルを受け取るべきかどうか悩んでいたのだが……。


 「そうだね。折角のキャンペーンだし有難く転生スキルを頂戴しておこう。まだ魂の成長度の低い僕達にとって例えどのような転生スキルであっても貰っておいて損になることはないだろうし。もし不必要な転生スキルだと感じれば後で消去することもできるしね」


 取得した転生スキルはソウル・ポイントを消費することで消去することもできる。


 ただ消去する際に掛かるソウル・ポイントは取得する際よりも大分割高となるので不要な転生スキルはなるべく取得しないに越したことはないだろう。


 だがまだ魂の成長度の低い今の僕達にとっては行く行くは不要になる転生スキルであっても無償で貰えるならば取得しておいた方が良い。


 そう考えた僕はアイシアと共に女性の言ったキャンペーンの中からそれぞれ転生スキルを選んで取得した。


 《ソウルナンバー・LA7-93は【水術師Lv1】のスキルを取得しました》


 【水術師Lv1】

 スキルのLvに応じて転生先の世界での水属性に属する魔法の技量が上昇する。

 

 「マスターが選んだのは【水術師】の転生スキルですか」


 「うん。どれでも良かったんだけど何となく錬金術師と相性が良いのは水属性の魔法かなって。武器の錬成はともかくポーションを調合する時なんかには色んな液体を使ったりしそうだろう」


 「なる程……」


 「アイシアはどの転生スキルにするの?」


 「私は……【氷術師】の転生スキルにします」


 《アイシアは【氷術師Lv1】のスキルを取得しました》


 【氷術師Lv1】

 スキルのLvに応じて転生先の世界での氷属性に属する魔法の技量が上昇する。


 「【氷術師】か。僕もいつも冷静でいてくれるアイシアには氷属性の魔法が一番似合ってると思うよ」


 キャンペーンの中から僕は【水術師】を、アイシアは【氷術師】の転生スキルを選んで取得した。


 地球の世界で水は生物が生命を維持するのに必要不可欠であると共にありとあらゆる分野の活動を行うのに不可欠とされる程重要な物質だった。


 『ソード&マジック』の世界でも錬金術を行う際にも重要な要素となるだろう。


 アイシアの選んだ【氷術師】の転生スキルはアイシアの冷静な雰囲気にとても似合っている。


 それだけなくアイシアの鮮やかな銀色の髪はまるで太陽の光を反射する氷のように透き通っていて美しい。


 その美しい髪を靡かせながら立ちはだかる敵を冷徹な表情で凍てつかせるアイシアの姿が今から目に浮かぶ。


 「よしっ!。ラッキーなキャンペーンで新たな転生スキルもGETしたし早く『ソード&マジック』の世界に転生するぞっ!」

 

 「転生の行われる会場はあちらの扉の奥となっております。転生は他の参加者の魂達と一斉に開始しますので指定の時間になるまでこちらのガイドブックでもご覧になっていて下さい。簡単な内容ではありますが『ソード&マジック』の世界の仕組みや魅力について色々と載せさせて頂いています」


 受付を済ませた僕達は女性から貰ったガイドブックに軽く目を通しながら転生の行われる会場へと向かって行く。


 その会場には僕達と同じ『ソード&マジック』の世界に転生する魂達が他にも大勢集まっていた。


 案内係を務める魂に問い質してみたところ今回の転生の参加者の数はざっと100兆にも及ぶらしい。


 100兆の魂達全員の姿があるわけではないが実際は全員がこの場に集まっている。


 只目に映る風景には差し障りない形となっている魂とはそういう存在だ。


 適当にガイドブックに目を通していたところで会場内にアナウンスがなされいよいよ『ソード&マジック』の世界への転生が開始される。


 ここまでの流れは地球の世界に転生していた時とほとんど変わりない。


 しかしこれから転生する世界には地球のものとは何から何まで違う光景が待ち受けているはずだ。


 一体どのような光景や出来事が待ち受けているのか。


 そんなことを考え胸をワクワクさせながら僕の意識は『ソード&マジック』の世界へと転送されていった。

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