第3話 転生マスターの力
青々とした静寂の世界に透明に輝くカーテンが揺らめいている。
実際に見えているわけではないがそんな幻想的な風景が頭に思い浮かぶ。
上を見上げるとまるで天界へと通じているような眩い光が。
下を見下ろすとまるで奈落の底まで通じているような果てしない闇が広がっている。
けれどどこまで進もうと実際は行きつく場所など何処にもない。
そう思えるくらい広大な世界だった。
「………」
人間や動物、それどころか植物すらも見受けられない岩盤と海だけに覆われた世界の中。
僕は太陽の熱い日差しに照らされる美しい海の中をぷかぷかと漂っていた。
シアノバクテリアという地球で最初に誕生した微生物となって。
「ふぅ~、今日も海の中に差し込んでくる太陽の日差しが気持ちいいなぁ~。今日も無事人間にまで転生できるように頑張って光合成しなくちゃ」
僕が【転生マスター】の転生スキルを取得してからの初の転生先に選んだのはまたしても地球だった。
理由はいくら【転生マスター】のスキルを取得できたとはいえ魂Lvが1の状態のままで慣れていない世界への転生は危険だと判断したからだ。
転生先である地球で僕は今シアノバクテリアという地球で最古の微生物に転生している状態だった。
シアノバクテリアは光合成によって酸素を生み出すことのできる地上に他の様々な生き物達が誕生するきっかけとなった生物だ。
どうして僕が人間ではなくシアノバクテリアのような微生物に転生したかについて説明するには前回の僕の地球での転生の履歴を見て貰った方が早いだろう。
・LA7-93の地球での転生記録
1回目 太古代 シアノバクテリア
2回目 古生代 アンモナイト
3回目 中生代 プレシオサウルス
4回目 新生代 クロマニョン人
5回目 古代ギリシア・ヘレニズム時代 ギリシア人(兵士)
6回目 日本・令和時代 日本人(遠野真一)
このように地球の世界では6回の転生先が用意されている。
この6回の転生先の人生を全て合わせて地球においての1回の転生となるわけだ。
けど人間のような高度な知能を有した生命体に転生する為には事前の転生先でより多くの世界への貢献をしなければならない。
【転生マスター】の転生スキルのおかげでシアノバクテリアの状態でもそのことを熟知していた僕はこの世界により多くの酸素を生み出して貢献度を上げる為日々光合成に努めていた。
「それにしてもやっぱりこんな微生物の状態でまとな意識があるなんて新鮮だな。まだ発声する為の器官があるわけじゃないから実際に喋ることはできないけどもしかして同じシアノバクテリアが相手ならテレパシーみたいな感じで会話ができたりするのかな?。ちょっとあそこにいるシアノバクテリア君に話し掛けてみよう」
発声する器官は愚かまだ生物としての器官がほとんど備わっていないこの状態では直接周囲の景色を見ることも音を聞くこともできはしなかった。
それでも僕の魂の意識には漠然とではあるが水面から差し込む光が暗い海中を淡く照らし出す幻想的なイメージが自然と描き出されていく。
その中には僕以外にもこの広大な海の中を漂う他のシアノバクテリアや微生物達が沢山いた。
まだ高度な思考を持たない彼等は皆無心で自らの生命活動に取り組んでいる。
だが例え単純なものであっても生命である以上は僕と同じように意識を持ってこの世に生まれて来ているはずだ。
【転生マスター】の転生スキルの力ならば例え相手が微生物であっても意識を通わせることができるのではないだろうか。
そう考えた僕は近くにいるシアノバクテリアに意識の中でテレパシーを送るように話し掛けてみたのだが……。
「お~いっ!。そんな深いところにいるよりももっと水面に近付いた方が沢山光合成ができるよ~。君や他の皆もこっちに来なよ~」
「………」
「駄目か……」
残念ながら他の微生物達からの返事はなかった。
やはり言葉を使っての会話は相手にも僕と同じレベルの思考がなければ不可能なようだ。
「あれ……?。でもなんだか皆こっちに近づいて来てるぞ」
彼等とは僕と同じように人間の言葉を使って会話ができたわけじゃない。
けれども皆先程の僕の言葉に促されたかのように水面付近を漂っている僕の元へと集まって来る。
どうやら思考の段階に差があるからといって全く意識を通わせることができないということはないようだ。
曖昧ではあるが言葉は交わせずとも僕の思いはきちんと彼等に伝わっている気がする。
その後僕は彼等と共にただひたすらに光合成を続けながら大海原を延々と漂っていった。
「よしっ!。頑張った甲斐あって今回は5回目の転生にしてゲームがプレイできる時代に生まれることができたぞ。これなら今まで以上にゲーム廃人としての人生に勤しむことができそうだ」
【転生マスター】のスキルのおかげでより世界への貢献度を稼ぐことに注力できた僕は5回目の転生にして西暦1942年に日本人として誕生することができていた。
この時代の人間の寿命を考えれば今回の人生からゲームをプレイできる環境に行きつくことができる。
更にまだ6回目の転生が残されていることを考えるとこれまでの倍近くゲームをプレイする時間を確保することができそうだ。
そう浮かれて1980年代になってゲームをプレイする合間にTVを見ていると僕は【転生マスター】のスキルの更なる真価を見出せる場面に遭遇した。
「見てくださいっ!。彼が中華鍋を振るっている下で燃え盛るコンロの炎が明らかに不自然と思える光を発していますっ!。まるで炎に聖なる力が宿っているようだっ!。言っておきますがコンロに何の仕掛けもされていないことは我々によって確認済みですっ!」
その時偶然TVに映っていた番組では『コンロに聖なる炎を灯す中華料理人』という特集をやっていた。
なる程、確かに彼の振るう中華鍋の下のコンロには赤く揺らめいているようなものではなく光そのものが炎の形を模ったものが燃え盛っている。
普通の人がこの映像を見れば本当はコンロに何かしらの仕掛けがしてあるか、もしくは本当に奇跡のような現象が起きていると思うかのどちらかだろう。
だが【転生マスター】のスキルにより魂の記憶を有している僕の感想はそのどちらでもなかった。
「あれは多分【
今回の転生に入る前に隠しページの話をした時にも出てきたチラっと名前を出した【
そのスキルにはその名の通り転生先で聖なる炎を扱えるようになるという効果が備わっていた。
本来は魔法の存在するような世界でその真価を発揮するスキルだけでも意外にも料理を行うコンロの火が光を帯びるという形でその効果が現れていたようだ。
この他にも落雷の直撃を受けて死亡するどころか身体に何の影響も受けなかったという人は高い【雷術師】系統の転生スキルを取得しているのだろうとか、陸上競技で優勝するような人達は魂Lvを上昇させた際に生命力の値を重点的に成長させているのだろうとか魂の記憶を有しているからこその考察を色々とすることができた。
この魂の記憶と思考能力を高めていけばどのような世界でも最高に効率の良い人生を送ることができるだろう。
数ある隠しページのスキルの中から【転生マスター】のスキルを選択したことはやはり間違いではなかった。
そう確信しながら僕は引き継ぎ地球での人生を過ごしていき、その後の6回目の転生先においても無事ゲーム廃人としての人生を送った後霊界へと帰還して行く。
帰還して行く途中で僕は次はいよいよ地球以外の世界に転生してみようと考えていた。
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