魂の色

 朗らかな両親、エネルギッシュな祖母、にぎやかしい親友二人、気になる男子たち。 

 木山祈里の周囲は騒々しくて、喜と楽に満ち溢れていて、視界は明るく広く、大海でのびのびと追い風を受け順風満帆じゅんぷうまんぱんであった。

 彼女の日常は鮮やかにはなやかに色付いていた。


 だから、つまる所、「私」にそれはまぶしすぎた。


 木山祈里を囲む輪の中に、私の居場所はなかった。

 正確には居たいと思わなかった。


 「私」にとっては人付き合いはどうしても苦でしかなく、それを理解しがたい彼女からの怒を向けられて、「私」はおびおそれ、日々疲弊ひへいしていくこととなる。


 私たちは記憶を、記録を、知識を、経験を、確かに共有していた。

 だが、魂の色が狂おしいほどに異なっていた。

 私の赤の中に生まれた、「私」の青は憶病ながらもしっかりと自ら主張し、弱弱しい名乗りを上げた。


 「私」は、ここだ。

 ここにいる。

 ここに生まれた。


 人は生まれた時に死に始めると言う人がいる。

 確かに無意識ながら「私」の産声は、私を殺すぞというときの声に間違いなかった。


 今まで人はどんな感情を持って、殺し殺されてきたのだろう。

 これから人はどのように殺し殺されるのだろう。

 「私」が知ることができるのは、知らなければいけないのは刈る側の獰猛どうもうな感情のみなのだろうか。


 怖かった。

 怖くて仕方なかった。



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