ただそれだけのこと

 身体が大人になり心が大人に近づき、子供というレッテルが古ぼけて、かさぶたのようにがれ落ちようとするモラトリアムの入口で、成長の最終工程がある。

 少しも特別なことではない。

 人生のただの通過儀礼の内の一つ。


 

 それは人格の入れ替わり。



 おおよそ中学三年生から高校二年生の間に、人間には新しい人格が芽生える。

 一人の人間の中に二人の人格が同居する。


 混在期間は一年から一年半。

 その年月を経て、古い人格は薄まり意志を失い、最期には消失する。

 これが人間の一度目の死。



 新しい人格は肉体を引き継ぎ、いつまで続くかは定かでない二度目の死が訪れるその日まで、生を全うする。

 それは当たり前で誰もが経験して、二つが混ざった心の池は一時いっときひどく波打つが、ちゃんとそのさざ波は収まることを皆が知っている。



 古い一つは暗い水底に沈み、新しい一つが水面で息を揺らす。

 その交代の時が、に訪れた。



 ただ、

 ただ、それだけのこと。




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