第5話 乗り込め、冒険者ギルド! の巻
ロビンとケヴィンを乗せた馬車は、国境付近の町へとやって来た。王都からは馬車で丸3日。途中でキャンプを挟んでの旅は、想像以上に足腰へのダメージが大きいものであった。
「お……お尻……いたたたた……」
「しっかりしてくださいよロビン……。でも、マジで痛い……」
2人揃って尻を押さえながら、ようやっと町の入口へと足を踏み入れる。
国境都市ティンプロー。他国との流通の要であり、貿易の中心地となっている。そのためか、経済の発展は王都よりも進んでいた。王都と比べて貴族は少なく、富裕層は商人を中心としている。また、冒険者という職業が数多くいるのも特徴だろう。
「おおおーーーーーーーー……! 栄えているわね!」
「そりゃ、交易の中心地ですしねえ」
私は思わずテンションが上がっている。今まで、王都からろくに出たことがなかったのだ。せいぜい遠出と言っても王都の周辺の村が関の山で、そんなところには強い魔物もいない。鍛えるにもすぐに相手にならなくなってしまい、今のレベルになるまで10年以上かかってしまった。
「それにしても……さすが冒険者の多い町ね。王都になさそうな建物ばっかりだわ」
ちらちらと見受けられるのは、いわゆる大衆酒場というものだ。王都にあったのはおしゃれなバーばかりで、店先で酒を飲む人々、というのはほとんどいなかった。
「良くも悪くも、王都より栄えていますからねえ。……それで、ロビン。どうするんです? これから」
「無論、冒険者ギルドに行きますわよ!!」
そう。それこそがこの町に来た一番の目的なのだ。冒険者として、第2の人生をスタートする。ゲームの進行にない、全く新しい人生。それこそがロビィナの人生プランなのだ。
「ギルドかぁ……。あんなおっかないところ、行くのどうかと思うんですけどね」
「つべこべ言わないの。ほら、行くわよ」
大体、あなただってこの町だったら十分に強いでしょうに。そう思ったが、それを言うのはなんだか癪なので黙っておく。
そうして、町の人に話を聞きながらやって来たのが、ティンプロー最大の複合施設、ウェストエンド・ビルだ。
ここは世界最大の商会であるウェストエンド商会が取り仕切っており、その規模はここだけは治外法権が成立するとまで言われるほどだ。
冒険者は元々国籍がない者が多く生業とする職業である。であれば、国をまたいで存在するような巨大施設とは協力関係にある、という話らしい。
「……ま、どう考えても癒着ですわよね」
「ギルド本部と商会がつながっているのは、そう言う事ですねえ」
実態は、商会がいいように扱える根無し草たちを囲い込むためのものだ。そのおかげで、ウェストエンド商会はこの世界での経済をほぼほぼ牛耳っている。
……まあ、そんな天上の話は、もうロビンは関係ない。
とにもかくにも、彼女の目的のためには、冒険者として登録することが一番の近道なのだから。
「……行きますわよ。ケヴィン」
「ええ? ……ああ、もう。分かりましたよ」
そうして、意気揚々と、ウェストエンド・ビルの扉を開けた――――――。
*************
「いらっしゃいませ。ウェストエンド・ビルへようこそ!」
キレイな受付嬢が、ぺこりとお辞儀をして迎えてくる。
「ご用件は何でしょう? お買いものでしたら当フロア及び4階まで、ウェストエンド・バンク:個人向け窓口は5階、法人向け及び大型預金窓口は6階。冒険者ギルド登録は7階となっております。その他、ご要望があればお申し付けください!」
すらすらと噛まないで話す受付嬢に私は思わずポカンとしてしまった。これを仕込んでいるとなると、相当厳しい研修をしているんだろうなと、内心そう思う。
「あ、あの。私たち、冒険者ギルドに登録したいんだけど……」
「ギルドですね。それでしたら、7階になります。向かいに階段があるので、そちらをご利用下さい。道がわからない場合は店員に聞くか、上に案内板を用意しておりますので、そちらをご覧ください」
はきはきと喋る受付嬢を後にして、私たちはビル内部へと足を進めていく。
「本当にいろんなものが売っているのね。これ、全部一つの商会が卸しているの?」
「そうなんですよ。トーマスルー王国はもちろん、他の国もウェストエンド商会に経済の首根っこを掴まれていますから。王都の装備も全部、ウェストエンド製なんですよ」
そう話しながら歩くも、道に迷ったりはない。受付嬢が言っていた通り、数多くの人が通る中でも上にある看板のおかげで、階段がどこに在るかはすぐにわかるからだ。
このビルの1階から4階はとにかく物販をしているようで、人の数がすこぶる多い。冒険者用の装備から日用品まで、大体のものが揃っているようだ。客も多種多様であり、結構騒がしい。
それも5階になると、急に静かになる。ウェストエンド・バンクは、厳重なガードマンが常に無法者がいないかを見張っている、緊張感あふれるフロアだ。
ウェストエンド・バンクは世界最大の銀行であり、この銀行のために世界の通貨が共通になっているほど。そんな世界経済の根幹となる銀行には、商会に雇われた屈強な見張りが常に立っているのである。
(……どいつもこいつも、只者じゃないわね)
階段をのぼりながら歩く私の顔にも、冷や汗が浮かぶ。きっと、今のままではここの男たち全員と戦って無事で済む保証はない。
だが、それはもっと伸びしろがあるからこそだ。そう、プラスに考えよう。
そう考えているうちに、とうとう7階の冒険者ギルドのフロアへと到着する。
きれいに装飾されたフロアには多くの冒険者たちが集まり、掲示板や情報交換を行っている。だが……。
「……あんまり騒いでるような人っていないのね」
冒険者ギルドと言えば、ごろつきが多く集まる場所。それなら、命知らずの力自慢がわいわいと騒いでいるものだと、勝手に思い込んでいたのだけど。
「下の階であんなプレッシャーにあてられちゃねえ。よっぽどじゃないと、萎縮もするでしょうよ、そりゃ」
ケヴィンの言葉になるほど、と納得がいく。恐らくギルドが銀行の上にあるのも、そういうことだろう。つまりは、あのガードマンたちは上で騒がせないための牽制の役割も担っているわけだ。
「……しかし、面白くないわね。ケンカを売られて、技を決める、っていうのが、ちょっとイメージであったんだけど」
「ごろつきをまとめる組織には、そういう知恵があるってことですよ」
そうして、ギルドにて冒険者登録を行う。やることはほとんどが書類の作成で、思っていた物とは随分と違っていた。
(なんか、イメージと違うなあ……)
そもそもゲームでは、主人公たちは冒険者ギルドに入らないんだよね。だからギルドに入ることもないし、なんなら敵として出てくるくらいで、血の気が多い奴ばっかり。
だから、こんなに事務的な感じだとは思っていなかった。
そんなわけで波風が立つわけもなく、私たちはあっさりと冒険者として登録できたのだった。
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