ソーシャルディスタンス
私はこっそりとため息をついた。何も、サークル活動が解禁されて早々飲み会をやることないじゃない。でも、仕方がない。お世話になった2つ上の先輩方のお別れ会だ。
このコロナの状況で、大学もサークルも活動できない状態が続いていた。親は仕事に行っているのにずっと家にいなければいけない焦燥感を感じつつ迎えた二月。兼サーしているため、こちらのサークルではない憧れの先輩はもう会うことなく卒業してしまうのだろう。
「こんばんは」
「久しぶりー」
集合場所には、大学で集まれなかったのが嘘のように、マスクをつけた何人もが集まって密な状態になっている。その中にここにはいないはずの顔を見つけた。え、なんでいるのだろう?いや、実は少し前からその人がいることには気がついていた。突っ込んで良いのかわからず、私は曖昧に会釈をする。
「さなちゃん、この人と知り合いなんでしょ?」
「はい……」
副代表だった女の先輩に問われ、私は戸惑いながら答える。向こうのサークルのことは何も話していないのに、なぜ知っているのだろう。
「後輩のことと、この人の知っている子について話していたら一致して」
そっか。忘れかけていたが、元副代表と憧れの先輩は二人とも同じ学部学科だ。知り合いだったのか。
「最後にひと目会いたいんでしょ、ほら!」
元副代表に背中を叩かれて一歩先輩はこちらに足を踏み出してきた。ただでさえ表情の乏しい先輩の顔はマスクで隠れて感情が読めない。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
スッと差し出された手。私はどうするのが正解か図れず、ただじっと見つめる。
「これから二人で、ご飯に行かない?」
どういう意味?私はともすると動揺してしまいそうな感情をマスクをつけていることをいいことに押し殺す。これが二人きりだったら思わず涙していたかもしれないが、サークルのみんなの前だ。
「弄ばないでください。もう、会えないと思っていて、それだったら諦めがついたかもしれないのに……」
口から出てきた言葉は我ながら可愛げのない言葉。だが、先輩はその言葉を聞いて私の手を取った。
「ソーシャルディスタンス、気にしなくても良い?」
私は自然に目元が下がり、項垂れる。軽くうなずいた。
「じゃあ、行こう」
「えっ⁈サークルは……」
元副代表は笑顔でこちらに向かって行ってくる。
「大丈夫。最初からさなちゃんの分は抜いて予約していたから」
なんだろう、このはめられた感じは。
そのまま先輩は歩き出した。私はどこに行くかもわからずついていく。
人気の少ない通りに来た時、やっと先輩は立ち止まった。手を離し、マスクを外した先輩を見て私は意を決してマスクを外した。
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