布マスク

 巷ではマスク不足が叫ばれている。手作りのマスクが推奨されているらしい。どうせ私は出かけることはほとんどないし、まだ紙のマスクがあるからいいけれど、ふとあの人たちはどうしているのかと疑問に思った。

 中学生の時、私は冬、インフルエンザ予防のために布マスクをつけていた。理由は親が「紙マスクは高いから」と言って作ったからであったが、可愛いガーゼで作ってあったので、それなりに気に入っていた。

 だが、次第に私は追い詰められていった。段々と厳しくなる中学校のマスクに対する決まり。柄付きはダメ、色付きはダメ……。それに伴い、周りからの視線が冷たくなっていく。

「なんであの子は」

「色も柄もついているじゃない?」

 耐えきれず、それでも私は親に本当の理由を言うことはできずに適当な理由をつけて真っ白な紙マスクを着用するようになった。私にとってそれは降参の白だった。

 基準なんてあっという間に変わるんだ。私は時代の先端を行き過ぎていただけ。私は昨今の布マスクブームの状況をテレビやインターネットで見ながら思う。

 あの人たちはどうせ忘れているだろう。どうでも良いような基準を厳しくしていって、私を追い詰めた中学校の先生たち。冷たい視線で見てきた同級生。

 今もあの人たちが白い紙マスクをつけているかどうかは定かではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る