09.魔獣との対決
魔獣は真っすぐに突進してきた。
コイツは何十人もの武家の男達が戦っても勝てない相手と聞いている。
実際に体格、速度、力強さ等々、あらゆる面で圧倒している存在らしい。その圧倒的な力で命を刈り取る事だけを考えている魔獣だ。
多分だけど多数の武家の戦士全員で取り囲んで同時に攻めかかる方法しかないのかもしれない。
これは僕の推測だ。今も魔獣と対峙している僕の推測は間違ってないと思う。何より速い。
あと、多分体が硬いのかもしれない。物凄い硬いものが体に当たったから。僕が無事なのが信じられないくらいだもの。
余程の攻撃力が無いと通らないのかもしれない。
武家の男達は大きな岩をも砕く力を持っているのを僕はこの目で見た。信じられない馬鹿力だよ。それでも攻撃が通らないとなると。僕の力では無理。絶対無理。
つまり僕が普通に攻撃しても全く意味が無い。
結局、弱点を見つけ的確に攻撃するしか方法はないのだろうな。逃げられるのが一番なのは当然だけど。
目の前の魔獣は狼に似ている感じか。狼や四つ足生物の弱点はなんだっけ?
単純に顔と尻尾の付け根、足裏か。他にもあるかもしれないけど顔を狙うしかない。
幸いにも口を開けて真っすぐに突っ込んできている。口の中は外の毛皮より弱いだろう。
うん?なんでそんな事は覚えているんだ?僕の頭の中は一体どうなっているんだ?
いや、これを考えるのは今じゃない。目の前の魔獣の対処に注力しないと。
魔獣の弱点を仮定したとしても実行は難しい。対峙しているだけでも相応の負傷は覚悟しないといけない。今の僕の治癒力は凄いのは身をもって感じている。多少は噛みつかれても治癒しそうだとは思う。
でも即死は治癒できないだろう。ひとつ対応を間違えて即死に等しい怪我をしたら流石に死んでしまうだろう。
そこは注意だな。
僕は見知らぬ女性によって何か凄い状態にされているみたい。みたいとしか思う事ができない。なんか怖いんだよね。
これも完全に推測だけど色々な事を一瞬で思考できているようなのだ。
その証拠に魔獣はまだ数歩しか僕のほうに迫っていない。しかもその動きはゆっくりだ。
その間に僕は色々な事を考える事ができている。且つ僕の体は既に元の位置から五メートルは右に移動できている。
どうも時間感覚が遅くなっているみたい。目の前の状況がとても気持ち悪い。見慣れない。
僕の一分が魔獣の一秒に相当するかのようだ。とにかく感覚が全く違う。だけど、これが大きなアドバンテージになる。
こんな便利さにも代償があるようだ。僕自身が速く動けば動くほど体にはダメージが入るようだ。速く動く都度、筋肉がブチブチと裂ける感触が伝わる。これかなり痛い。
痛いのだけど、これまた素晴らしい?事に・・・治癒能力が全開で働いているみたい。これもあの女性の仕業か。不思議な能力をつけてくれたようだ
とんでもない能力をあの女性は与えてくれたようだ。
その能力の効果がいつまで継続するか分からない。早期決着。最低限魔獣の無力化。
魔獣は僕が横に移動した事を今認識したようだ。音なのか匂いなのかは分からないけど。僕が移動した場所へ向けてターンしてきた。
唯一の武器とも呼べるナイフに近い短剣を腰から抜く。アイナさんがくれたものだ。
今出せる最大の瞬発力で魔獣に向かう。相手は体勢を崩している。僕の速度に対応できないと思いたい。
スローな動きの魔獣の目に向かってナイフを突き込む。
ぐにゅりとした感触が手に伝わってくる。素早く抜いてもう一つの目を貫こうとしたけど手元が狂って表面を薙ぐだけになってしまった。
意外と最大瞬発力での動きは僕も制御が難しい。
体のあちこちの筋肉が裂けているから精密な動きが難しいんだ。それに体が痛い。ほんと痛い。治癒できると分かっているから耐えられるけど。なかったら痛みで転がっていると思う。本当に痛い。
力の使い方の加減を考えないといけない。これでは痛みでまともに戦えない。
でも魔獣に対しての加減が分からない。今は全力を使って対応するしかない。
加減が分からない僕は魔獣の横を通りすぎる。
一連の流れで背後から回り込む。魔獣の動きは緩慢だ。何をされたのかまだ知覚できていないかもしれない。
勢いのままに魔獣の背中に乗る。
首に腕を回して魔獣の鼻にナイフを思いっきり突き込む。こちらはあまり魔獣に刺さらない。
ある程度は刺さるようだ。とりあえずめった刺しにする。
この時点で魔獣が咆哮する。
のけ反ってきたようだ。これは痛みへの反応か、僕が上に乗っている反応か分からない。
振り落とされるのはまずいから魔獣の背中から降りる。その際に片耳にナイフを突き込む。なんでもやってやる。
視覚、嗅覚、聴覚等感覚をできる範囲で遮断する。僕等を捕捉できなければ逃げるのが容易になる。
急所への攻撃でも分かった。今の僕の力とこのナイフでは即死級の攻撃は無理。
やはり逃げるしかないか。
それに僕も痛みが堪えられない。痛みを感じながら動くのはかなり根性がいる。今も・・そろそろ無理。
魔獣の背後に回りこみ十分な距離を取る。自分の痛んだ体の治癒にあてる時間が欲しい。ちょっとだけでもいい。
治癒時間中の僅かな時間で周囲を観察。
目の前の魔獣は十メートルは離れている。多分怒り狂っているようだ。動きが緩慢だからわからない。
謎の女性は僕の斜め後ろ五メートルか。こちらはフードに顔が隠れているので表情は見えない。
初手は僕が優位に進められた。思ったよりも戦えた事に実は安堵している。
問題は謎の女性が与えてくれた能力がいつまでもつのか?だな。
やはり動けるうちに決着をつけるしかない。
油断は禁物だ。
異世界異能忌憚 ~Eri kyky~ ナギサ コウガ @ngskgsn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界異能忌憚 ~Eri kyky~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます