08.僕は凄いのか?
溢れんばかりの何かが体の中から湧き上がってくる。
体が軽い。重力がなくなったような感じがする。何をされたんだ?
「もう少し待ってね。・・・今度は治癒力を最大限に上げるからね。くどいけど後が大変になるけど最悪な現状からなんとかして欲しいのよ。理解してね」
おおっ?何を言っているの?治癒とはなんだ?もう訳が分からない。
既に自分の体から白い光のようなものが出ている。これって不味くないか?本当に僕は大丈夫なのか?
おかしな違和感が半端ない。
体がいじられているような・・・。ともかく気持ち悪い。それに体がうまく動かせない。
幸いな事に魔獣はまだ動いていない様だ。様子見をしているのかもしれない。そう理解しよう。今襲われたらこのままだとまずい。
とにかく体がおかしい。
この女性は何をしたんだ?こんな技術があるのか?どうしようもない事態だから受け入れたけど失敗したか?
不安になってきた。
「あの・・・」
「もう少しだからいい子にして。酷いくらいの大怪我なのよ。短時間では無理だから。せいぜい少し左腕が動かせる程度。あまりあてにしないでよ」
有無を言わせない調子だ。背後にピッタリとくっつかれているから全く分からない。相当ボリュームのある体というのだけしか分からない。・・・後ろから抱きつかれているんだよ。仕方ないじゃん。
言葉だけ信じるなら僕のために頑張ってくれているという事なのだろう。でも何をやっているか心配になるのは仕方ないよね。
体は違和感ありまくりでどうにも気持ち悪い。
あ・・・魔獣が動き出した。やばい。まだ動けない。
「魔獣が動き出しました。まだですか?」
「・・・もう少し。もう少しで最大限に上がられるのよ。もう少し待って」
うぐ・・・。これは微妙だ。あの速度で突っ込んで来たらもう間に合わない。僕の後ろにいる女性は大丈夫なの?
焦る。魔獣はだんだん近づいてくる。
あ・・・歩きから早足に変わった。間に合わない。まだなのか?
距離はもう無いに等しい。動けるか分からないけど、もう動くしかない。
「良し!頼んだわ!反応速度上がっているから注意してね!」
背後の声が聞えた瞬間。何かが弾けた。
体が・・・動く。そして魔獣の動きがスローになる。
何が起こったんだ?
これは背後の女性が何かをした結果である事は明白だ。
どうやら僕自身の色々な速度が速くなっているのか。
魔獣の動きもそうだけど背後の女性の動きもスローになっているのが感覚で分かる。
十分に。十分に考える余裕ができた。
それに・・・重症だと思っていた左半身の痛みを殆ど感じない。驚いたことに左腕が動く。もう感覚も無くなっていたというのに。
治癒力を上げたとか言っていたけど上げすぎだろ。こんな短時間で治癒するなんてあり得ない。
・・・色々驚きだ。
だけどチャンスでもある。
これなら勝てなくても逃げる事はできるかもしれない。
魔獣の攻撃を躱してから手段を考えよう。
このままだと女性が魔獣の攻撃を受ける事になる。まずは安全圏に逃げてもらう。できれば先に逃げてもらいたい。
素早く背後の女性を横抱きに抱えてステップを踏む。
急げ!
僕の動きが速くなっても魔獣の速度は変わらない!
精一杯の力で魔獣の攻撃を躱し距離を取る。
上手く躱せた!それに、思った以上に速い!
瞬くままに魔獣との距離を取る事ができた。
女性をゆっくりと地面に降ろす。その時に女性のフードが外れて顔が見えていた。
薄暗いし、ちらりと見ただけだから。それでも美しいと思った。だけどもその美しさを損ねてしまう火傷のような酷い傷跡が顔の左半面を占めていた。多分左目は見えてないと思う。
・・・なんとも痛ましい。
女性を降ろした後素早くフードをかぶせる。今の速度で素早くかぶせたから僕が彼女の顔は見ていないと主張しても大丈夫だろう。僕も忘れる事にする。
もっとも・・・二人とも目の前の魔獣から逃げられたらだけど。
「ここで待っていてください。頑張って行動不能にしてみます」
ゆっくりと女性に話す。今の僕の速度がどれほど上がっているか分からない。話す速度も滅茶苦茶早いかもしれないから。
女性の反応を待つ前に魔獣へ顔を向ける。うぉ・・・魔獣が壁にめり込んでいる。壁がボロボロに崩れている。なんちゅー攻撃だ。僕はあの攻撃をくらっていたのか。よく生きていた。凄いぞ僕。
あの攻撃をさけつつ無力化できるだろうか。腰にさしていた短剣を手に取る。これで魔獣の手足の腱を切断する。無力化できる。
だけど・・・そこまで器用にできるのだろうか?
魔獣はめり込んだ体を引き抜き僕に向かってくる。
ノータイムかよ。
魔獣の攻撃を躱す事はなんとかできるだろう。だけど女性に攻撃の矛先が向いてしまうのは不味い。
どうする?
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