04.不思議で興味が尽きない男性 ~A's
A's eyes
私はクルタくんを寝床にゆっくりと寝かせる。叔父のエスコが乱暴な事をするから気を失ってしまったみたい。よく見れば包帯に血が滲んでいる。酷い。折角治ってきているのに。
ライラがどう反応するが不安だけど叔父だけが相手であれば大丈夫かな。
仮に”家”を追放されても二回目だ。紋が戻っていない私には何も怖いものは無い。寧ろクルタくんと一緒に行動してやるんだ。どのみち私の将来はこの”家”では真っ暗だもの。お父様が帰ってくればまた違うのだろうけど。
「叔父さん。どんな事があっても怪我人は安静にさせるべきよ。何故そんなに乱暴にするの?彼が何をしたのよ?」
「アイナ。何故お前は分からないんだ?こいつには邑紋も奴隷紋も無い。どうみてもこいつは子供でも無い。さっきは間者と言ったが何かの罪を犯して邑を追放されたに違いない」
「追放されたなら咎人の文様が出ているはずよ。クルタくんにはそれが無いわ。彼には記憶が無いから経緯を確認する事もできない。この”家”で保護するべきじゃないの?彼はきっとこの”家”の役にたつと思うわ」
「どこにそんな保証がある!?見たところ腕力も無い。俺でもこいつが無能である事は分かる。”家”に置くメリットが全くない。ある程度治ったら追放でいい!今ならそれだけで済む。こいつは厄介事を運ぶ禍者だ!」
取り付く島もない。どうしてここまで拒絶するのかしら?お父様なら絶対しない判断だもの。どうしてこんな叔父が家長代行になったのかしら。何故ライラは抵抗しなかったの?未だにその疑問は解消していない。
ライラもライラよ。私が外に出ている間にすっかり変わってしまったし。クルタくんを助けたのはいつものライラだけど。その後の態度がまるで変わってしまった。一体何があったのか。
どう話したらクルタくんを保護する流れになるのかしら?どうにも叔父がクルタくんに乱暴をしたから冷静になれない。本当にモノのように扱うのだもの。紋が無いけど彼は人間よ。
「姉さん。逆に聞きたい。なぜクルタ・・か。彼に固執するの?くどいけど彼には邑紋が無いのは分かっているよね?」
またこの繰り返しね。もう何度繰り返すのかしら。
「確かに右の手首に邑紋は無かったわ。奴隷紋や咎人の印も顔には無かったし。でも、それは少なくてもこの近辺の邑の出身では無いという事だけよね?遠い邑には別の方法で邑紋があるかもしれないわよ」
「過去に邑紋を持たない訪問者はいなかった。それは長老にも確認している。姉さんが言うように、仮にはるか遠い邑には紋が無い習慣があるかもしれない。でもそんな遠くから来たという事例もまた無い。そもそも私達の狩場に突然いた事自体がおかしいのは分かるよね?」
「う・・・」
そこを突かれると返答に困るのよね。ソリヤ家が所有している狩場には簡単に入れない結界がある。狩場はソリヤ家に所属していないと入れない聖域とも呼べる森。
そこにぐったりとしたクルタくんがいたらしい。近くにはこれまたぐったりとしたシッカがいたそうだ。クルタくんとシッカはなんらかの衝突があったとライラは推測している。状況的には頷けるのよね。
でも、クルタくんにはシッカと遭遇した記憶もなかったみたい。
この森にいた事が考えられないのは私にも納得ができる。
クルタくんは不思議な人なのだ。
身長はこの近辺の男達より高いと思う。だけど体がとても細い。この辺の邑の男とは明らかに筋肉量が違う。でも治療をした私には分かる。無駄な贅肉がない引き締まった筋肉の塊のような体。怪我が治ったら弾力のある柔軟な筋肉が細身だけど十分な力を持っている事が想像できる。
この付近では珍しい黒い髪と黒い目。顔は私達女より小さいかもしれないくらい小さい。顔が小さいからか首と肩の筋肉の凄さがこれまた凄いのよね。
・・・いい男なのよ。
それに二人はまだ気づいていない事があるの。
クルタくん本人も分からないと思うけど彼は私達と同じ異能持ちだ。そう、クルタくんには異能の紋があったんだ。それも三つも。
例外を除いて異能は一人一つしか持てない。それが三つもあるというのがいかに異常な事。それを二人は知らない。教えてないからね。多分これを教えたら今の二人の行動方針だとクルタくんを即殺すと思う。
何しろどのような異能を持っているのかわからないから。とんでも無い異能であれば万が一があった場合には”家”が無くなってしまう可能性もある。記憶が無いクルタくんに異能を制御する事は難しいと私も思うもの。
だからクルタくん本人にも伝える事ができないの。これについては慎重に対応しないと。
「更に本当に記憶が無いのかも分からない。叔父が言っている通りだ。素性の分からない者をソリヤ家に、この邑に受け入れる訳にはいかない。そもそも邑長も治療が済み次第邑から出すようにと言っている。姉さん、もう覆らないんだよ」
クルタくんの治療をしている間に話を進めたのね。ライラは邑長に会えないから叔父の差し金ね。本当に他者を受け入れない人だ。
・・・・でもライラの話が真実ならば。クルタくんはこの邑には残れないわ。
どうしよう。
もう異能の話をするしかないのかしら。
いいえ、ダメだわ。クルタくんがどのような異能を持っているか思い出して貰わないと説得は難しい。
だって彼の異能紋の一つは明らかに特殊だもの。異能紋の階級は私が知る限り四種類。
特級。上級。中級。通常。この四つ。
それぞれに対応した形状の紋が所持者に現れるのだけど。クルタくんの一つは明らかに違うのよ。それとも異能紋じゃないのかしら?でもあれ程鮮やかな青い紋は異能紋の証だし。
迷うわ。
治療という理由で今はクルタくんと一緒にいる時間は多いわ。その間にクルタくんに思い出して貰うしかないかも。
いざとなったら私も彼と一緒に邑を出ていこう。彼を失ってはいけない。それに・・・。
ううん。とにかく彼を助けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます