03.このままで大丈夫なのだろうか


 僕が覚えている記憶と今までの状況を整理してみよう。もう何が何やら分からなくて混乱しないようにするだけで精一杯なのだけど。

 

 まずは・・・。

 痛みで目が覚めたら森にいた。

 二人の男女に色々あったけど結果として助けられた。

 彼らはどこかの組織に所属している。邑だっけ?

 邑に所属するにはなんらかの資格のようなモノが必要らしい。紋?

 助けてくれた男女の名前はエスコさんとライラさんという二人。なんらかの組織で決定権を持つ人達らしい。

 二人は邑?まで僕を運んでくれた。

 治療、介抱してくれたのはアイナさん。何故か僕に協力的な人。理由は分からない。もっとも前者の二人が僕を嫌っている?理由も分からない。

 今の所、僕は邑に所属する事はできないらしい。エスコさんとライラさんの両名は僕を邑に残すつもりはないようだ。となると放り出されると言う事か。

 

 今後僕はどうしたらよいのか?・・・。

 大雑把に二つの手段があると思う。


 エスコさんとライラさんに願って邑に残れるように処置してもらう。

 言われるままに邑から出て一人でなんとかする。

 

 空っぽの僕には後者の選択肢は無い。前者の選択しかない。だけど彼らを納得させる事はできるのだろうか?今までの感触だと何かメリットを提示できないと無理っぽい。

 でも提示できるモノが全く無い。何ができるのか?と問われて返事をする事ができない。・・・記憶が全く無いもの。あったとしても思い出せない。無理じゃね?

 アイナさんに助けてもらう事も考えられるけど二人の決定を覆す力は無いと言われた。

 ・・・・考えても後者の一択しかない。

 それは無理だろう。何の知識も無い僕が生きていける訳がない。それはアイナさんが言外に言ってくれている。不味いな。

 

 これって詰みじゃないか?

 どうしよう。どうやったら生きていけるだろう。

 


「おい!何無視してんだ!こら!起きているのはアイナから聞いているぞ!目を開けてしゃべりやがれ!」

「痛い!」


 うぅ~。・・・痛いって。

 いきなり胸倉をつかまれた。乱暴に引き起こされる。意識が飛びそうだ。

 またこのパターンか・・・・。

 痛みを堪えて目を開ける。やはり、あの男か・・・エスコさんだ。


「叔父さん、止めて!彼は怪我が酷いのよ!乱暴にしたら治るものも治らないわ!」


 アイナ・・・さん。アイナさんがエスコさんを離そうとその腕を掴むのが見えた。助けてくれるようだ。でもこの力は凄いよ。僕は息を吸うのも辛い。


「ぐぅ・・。アイナてめぇ・・・」


 え?

 細腕のアイナさんが力で勝っているの?筋肉量では遥かにエスコさんの方が多いのだけど。

 僕の拘束が解ける。エスコさんの手が離れた。驚いた。重力に引かれるように落ちる僕。これは怪我が酷くなるかもと他人事のように考えている僕。既に酷いのだからもういいや。投げやりだ。

 ぽふっとした柔らかい感触が僕を受け止める。あれ?衝撃が全く無い。・・・柔らかいよ。

 

「森で彼を見つけた時もそうやって乱暴したそうね。彼は怪我人よ。ライラ、あなたも見ていないでちゃんと止めてよ」


 目を天井に向ける。僕を受け止めてくれたのはアイナさんだ。驚いた。眼前の光景に驚くしかない。

 あの筋肉の塊のエスコさんの太い腕をアイナさんの細い腕が捻じっている。どうやら空いた手で僕を抱えているようだ。凄い力。どういう事?

 本当に信じられない。僕もこのような力が出せるのだろうか?アイナさんはライラさんにエスコさんの行動を止めて欲しかったようだ。そうなるとライラさんも同じような力があるのか?


「私は彼を助ける義務は無い。彼は”家”の者では無い。家法にのっとって助けはしたが生きていけないのならそれまで。姉さんは何故そこまで肩入れするのか不思議だよ」

「・・・ライラ。あなたまでそんな事言うの?父様ならそんな事絶対言わないわよ!」


 アイナさん。きつい目をしているぞ。僕には分からないけど複雑な事情があるみたいだ。これって僕が原因だよね?

 ・・・どことなく居心地が悪い。

 

「それは姉さんの勘違いだ。私は”家”を優先して行動している。彼は相当不審な人物だ。簡単に受け入れる事は難しいと思う」

「クルタくんは記憶がないのでしょ。紋が無いだけで拒絶するのはおかしいわよ」

「何故だ?邑紋や奴隷紋が無い時点で明らかに不審者だろう?私からしたら姉さんがそこまで信じているのか分からない。それよりクルタとはなんだ?まさか彼に名前つけたのか?」

「そうよ。仮の名前よ。記憶が戻るまで名前ないと不便でしょ。クルタくんと話をして決めたのよ。どうせあなた達は要らないというだろうから私達で決めたのよ」


「勝手に名前つけやがって。クルタたぁどういうつもりだ」

「姉さん。まさかその男に騙されてないよね?クルタとつけるなんて。そこまでのめり込んでいるのかい?」


 エスコさんとライラさんは驚いているのかな。クルタという名前が何かインパクトがあるみたい。なんでだ?ちらりとアイナさんを見ると目を伏せている。何やらゴニョニョ呟いているようだけど・・・聞こえない。なんか気になる。けど聞こえない。


「・・な、名前くらいいじゃない。クルタくんは怪我が治るまでは私が面倒を見るわ。だからそれまでは追放云々の話は無しにしてよ」

「・・・・。怪我の治療は仕方ない。家法にも沿っている。だけど普通に生活できるまで治ったら邑から出て行ってもらうのは変わらない」

「そうだ!そいつはどこかの邑か盗賊団の間者かもしれん。紋が無いのがその証拠だ!余計な情報を与えたり一人で出歩かせるなよ。何かあったらアイナに責任を取ってもらうぞ。これは家長代行としての命令だ」


 エスコさんは変わらず喚く。耳が痛い。嫌悪感しか湧かない。命を助けてくれた恩はあるけど。かなり不本意のような感じ丸出しだし。

 ライラさんは醒めた目で僕を見ている。完全に無関係の人間を見る目。興味も無いのだろう。完全にモノ扱い。

 この二人の対応が当たり前の事なのだろうか?

 助けてくれるのはアイナさんだけ。


 目の前が真っ暗になってくる。

 意識としても何も考えたくない。

 痛みが酷くて意識を保てない。

 

 彼らを説得しないといけない。

 意識が千切れていく。

 

 体が痛い、痛い。痛い。

 どうして僕はこんな状態になってしまったのだろう。


 意識が保てない。

 喚き声が聞こえる中で、またもや意識は薄れていく。

 

 ・・・僕は生きていく価値はあるのだろうか?


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