第137話 国王の秘密の抜け道

流石、持ってる女、涼子。

何と、一発で某黄色い観光バスを当てた。

ただ、念の為に言っておくが、拓哉はバスなんて物を運転した事など無い。車の運転さえした事すら・・・まあない事は無いが、観光バスとゾディアックボートや装甲車とはまた運転の仕方が違うだろう。それに、ダンジョンと一般の街道との違いもあるし。

しかも、仮に乗り回す事は出来たとしても、こんなの使った日には間違いなくその後が大変な事になる。

なので、拓哉は却下した。


「もっかい引いてくれ。」


「え~っ。」


それから涼子は5回引き、ようやく馬車が出た。

これで、三台に別れてゆったりと乗る事が出来る訳だ。

御者は、セバスチャン、カルヴィン、ブロルの三人だ。拓哉も御者をすると言い張ったのだが、


「主人に御者などさせるとは、以ての外です」

「主人に御者などさせられるか!」


と言うセバスチャンとカルヴィンの一言で、拓哉は温存と言う名の強制退場にさせられた。


そんな事が有った為、ダレグを出るのが少し遅くなり、昼前に漸く町を出発した。

馬車に乗る事すら初めてで、しかもその初めての馬車が超豪華な馬車と言う事もあり、初めの内はシスターの言う事すら聞かない子供達が騒ぎあげていたのだが、夕方近くになるとその体力も尽き果ておとなしくなっていた。

そんな事がありながらも、ある程度距離を稼ぐと街道を外れる。

そして、これまた久しぶりのマジックキャッスルを取り出すと、ポンと投げて展開させる。

流石に孤児院のメンバーは驚いていたが、最近色々と慣れて来た筈のセバスチャン達も驚いていた。


「タクヤ様の持つ魔導具には、毎度驚かされます。」


「いや、主はどれだけ高級な魔導具を持っているのだ?尊敬するぞ。」


「ベッド、ベッド。」


ブロルは、ベッドで寝れる事に喜びを感じるらしい。

ただ、このキャッスルでも部屋は足りない。

なので、ある程度まとまって寝て貰う事になる。

まあ、テントを建てて寝る訳では無いので、そこは勘弁してほしい所だ。


そんなこんなで、何とか三日掛けて王都に戻った。

往復で約六日半の急ぎ旅だった。

そして、そんな拓哉を待ち受けていたのは、既に出来上がった建物各種だった。


「はぁっ?早くないか!?」


野球場一個分くらいはありそうな敷地に、三階建ての屋敷が二棟。二階建ての作業場と言った感じの建物、二階建ての商店、平屋の食堂、三階建ての孤児院だろう建物が既に出来上がっていた。


拓哉は急ぎ王城へと走った。


「タクヤ・トウジョウだ。急ぎ、陛下にお目通りを。」


衛兵にそう伝え、暫くして中へと通される。

そして、国王クリストフェル・ランデウ十一世との面会の際、その国王がやけに楽しそうに応接室へと入って来る。


「どうだ?気に入ったか?」


「いや、気に行ったかも何も、まだ見てませんし、何より早すぎませんか?」


「何を言う。魔法で建てるのだから、こんなものであろう。それよりも、ちと付き合え。」


国王は拓哉を手招きし、応接間を出て行く。

拓哉は他にも言いたい事が有ったのだが、そこは言える感じでは無い為国王の後について行く。

連れて来られたのは、王城5階の国王の私室だった。

そして国王は、私室の壁に掛けられた鏡の前で立ち止まる。


「さて、行こうではないか。」


拓哉の方を向き、そう言う国王。


「はい?」


訳の分からない拓哉は、素っ頓狂な返事を返す。


「まあ、付いて来れば分かる。」


そう言うと、国王が鏡の中へとスッと消えた。


「はぁ!?」


それに驚く拓哉。

慌てて国王の後に続き、鏡へと触れる。

すると一瞬目の前が暗闇に包まれたと思ったら、先程とはまた別の部屋の中に立っていた。


「ここは?」


周りを見渡すが、全く見覚えの無い部屋だ。


「ここは、王都のお主の館だ。」


拓哉の後ろから、国王の声がした。

拓哉が振り返ると、先程消えた国王が立っているではないか。

しかも、ここが拓哉の例の屋敷の中だと言う。


「え?どう言う事ですか?」


「ん?我が私室と、お主の屋敷を転移鏡で繋げたのよ。この部屋は、私しか使えぬようにもしてあるし、結界などの設備もバッチリだ。こちらに来なさい。」


国王はそう言うと、部屋の扉に手を翳し魔力を流す。すると「カチッ」と言う音がし、扉が開いた。

魔力認証の鍵を掛けているらしい。

そして外に出ると、今度は普通に扉を開けて隣の部屋へと入って行く。


「これがお主の部屋だ。ここに転移鏡がある故、一枚をオルトラークの屋敷へと掛けておくがいい。これで、王都とオルトラークを一々馬車で来ずとも一瞬で来れる様になる。ああ、ただな。なるべく他人には使わせぬようにな。お主やお主の伴侶。仲間内なら構わぬが、流石に従業員辺りは遠慮してくれ。一応これでも国宝だからな。」


そんな国宝を二つも置かないで欲しい。拓哉はそう思った。


「ああ、そうだ。たまにこれを使いオルトラークに行くと思うから、お主の屋敷の合鍵をくれぬか?」


「えっ?はっ?それはどう言う?」


「ん?何故、こんな立地のいい場所を提供したと思っておるのだ?しかも、国宝の転移鏡までお主に使わせて。そんなもの、私が息抜きにオルトラークの海ダンジョンに行く為に決まっておるであろう?国王とて、休暇は必要なのだ。これから子供が生まれれば、尚の事避暑地と言うのは必要になってくるのだ。その度に、数日もかけてオルトラークに行く訳にはいかぬであろう?転移鏡で直ぐに行けるようになれば、たかが二日くらいの休みなどどうにでもなると言う訳だ。いや~、渡りに船とは正にこの事だな。はっはっはっは。」


拓哉はその言葉を聞き、項垂れた。

国王の期待を一身に背負い、これから頑張って孤児院を運営して行こうと思っていたのに、蓋を開ければ国王の企みにまんまと乗せられているではないか。

愕然とした。

そんな拓哉に、トドメの一言が突き付けられる。


「あ、そうそう。ここの建築費だがな。すまぬ、白金貨150枚程掛かってしまった。その代り、設備は最新の物が入っておる。後で請求書を回しておくので、支払いの方頼んだぞ。」


国王はそう言うと、笑いながら王城へと帰って行った。

それを聞き、拓哉がその場に崩れ落ちたのは言うまでもないだろう。

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