第136話 国王の陰謀

拓哉は、急ぎダレグへと戻る。

ギリギリ間に合うとは言え、なるべく早く王都へと戻らなければならない。

その理由は、国王の暴走にある。


あの後、粗方の内容が決まり、さて応接室を出ようかと思った拓哉を国王が引き留めた。


「お主、店舗などの建物は見て行かんのか?」


「そう言われても、そんなに急には用立て出来ないのでは?」


「何を言うか。それくらい直ぐだ。ちと待っておれ。」


国王はテーブルの上の呼び鈴を鳴らす。

すると、一秒も掛からない内に応接室の扉が開き、執事が中へと入って来る。


「お呼びで御座いますでしょうか?」


「ああ、王都にある国所有の建物のリストを持って来てくれ。」


「畏まりました。」


執事はそう言うと、扉を閉めて何処かへと向かった。

その数分後。執事が分厚い羊皮紙の束を持ってくる。


「ああ、すまぬな。ふむふむ。ほれ、こことか、ここなどいいと思うのだがな?それとも、ここはどうかな?」


そう言って見せられたのは、先ず王城の周囲にある貴族の別邸だ。

更に、その別邸から近い場所にある一般区の、何故かだだっ広い敷地の建物。更には、古物件などの不良債権となっていそうな古い建物など、どれもこれも王城と目と鼻の先ばかりだった。


「えっと・・・陛下?何か企んでます?」


「ん?そんな事は無いぞ?近いと、何かと便利であろう?無論、私も便利だからだが。はっはっは。」


拓哉は内心、「企んでんじゃねえか!」と叫んだ。


で、ここからだった。

国王クリストフェル・ランデウ十一世は一枚の羊皮紙を見つけると、何かを思い出したかのようにそれを拓哉に見せてこう言った。


「ここは敷地は広いが建物が古い故、館は建て替えなければならぬ。通りに面した方へ食堂と孤児院用の建物を建て、奥にお主の館を建てれば良かろう。服を作る建物や、従業員用の建物も建てることが出来るくらいの敷地があるのだ。いい物件だと思うがな?どうだ、ここにせんか?いや、ここにしろ。今直ぐ、お主に渡そう。いいな?拒否は出来んからな?後、建て替えなどの手配に関しては私に任せとけ。何、悪いようにはせん。あ、金だけはお主持ちだからな?土地の費用はタダなのだ、問題無かろう?なぁに、ざっと白金貨100枚もあれば、立派な物が建つだろう。よし決まりだ。ならば、今からすぐに手配しよう。」


マシンガンのように喋繰り倒し、拓哉が口を出せぬまま、あれよあれよと言う間に決まってしまう。その後国王は、「はっはっは」と笑いながら羊皮紙を持って応接室から出て行った。

取り残された拓哉は、開いた口が塞がらずその場に放置。

暫くしてやってきたメイドに呼ばれ、ようやく意識を取り戻した。

ちなみに、国王が指定した場所と言うのは、王城を出て少し左側へと行った先にある、貴族街と一般区の丁度中間にある物件だ。しかも、ほぼ王城の真横。

歳を取り、早々に隠居した国王の祖父———前々国王———が住んでいたと言う場所だ。

元々は別々の敷地だったらしいが、先々代が住む事になった際に、ニコイチでくっつけたそうで結構な広さがある。

店舗と孤児院を一般区の通り側に。拓哉の屋敷を貴族区側に建てれば良いのでは?と国王は言うが、物を見ていないので全く分からない。

しかし、既に工事の手配を始めた国王。

全て国王に任せてしまうと、何をされるか分かったものじゃない。

だからと言って、このまま王都に居る訳にもいかない。

ダレグの孤児院が取り壊される前に戻り、王都へと連れて来なければならないのだ。

なので、急いでダレグに戻っているのだ。


行きと同じく二日半でダレグへと戻る。

ダレグに到着するや否や、拓哉は孤児院へと駆け込み、アンリ―――最初に話したシスター―――に事情を説明。即刻旅立つ準備をしてくれと急がせた。

翌日、孤児院に集まったのは、孤児院の子供が38名。更に、シスターアンリが探し出した、スラム落ちしかけていた孤児院出身者が14名。アンリを含めたシスター4名の計56名だった。


「こ、これは・・・」


流石の拓哉も頭を抱えた。

まさかこれ程までとは思っておらず、集まった人数が余りにも多すぎたのだ。

一応、拓哉の馬車には、キツキツで乗れば最大で25名は乗れる―――床に座る事になるが―――馬車が二台あるので、50人は乗る事が出来る。しかし、拓哉達の方も六人いるのだ。総勢62名となると、ちょっと厳しい。

まあ、最悪御者台に二人乗れば58名となるので、多少。本当に多少は変わるが。


「なら、ガチャれば?」


涼子がまた適当な事を言って来る。

確かにガチャをすれば馬車が出るかもしれない。

だが、それはそれで確率の問題と言う問題もある。

絶対に出るとは限らないのだ。


「・・・俺、運無いぞ?」


「あ~、私もシャファちゃん程の強運は無いかな。」


「言い出しっぺの涼子。引け。」


「え~!」


結果、涼子が引く事に。

ちなみに、拓哉が意識を失っていた頃辺りから、ガチャ商品の保存先が選べるようになっている。なので現在拓哉のスマホは、涼子預かりの涼子ストレージとなっている。ぶっちゃけ、これを見つけたのは涼子なのだが。

ただ、魔石換金の時だけは、拓哉が操作している。


それはともかくとして、久々に見るガチャの画面。

相変わらずの昔懐かしガチャマシーンが、揺れに揺れてカプセルを排出する。

そして出て来た物を見て、拓哉が頭を抱える。


「おい、観光バス出ても使えないだろ!」


そう、某東京で観光ツアーをやっている、あの黄色いバスが出たのだった。

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