第135話 国王の私欲

王都に向かう事が決まったはいいが、ここの孤児院の子供達やシスターをどうするのかは決まっていない。

さて、どうするか。


「まだ取り壊されるのに、数日。正確には、7日はあります。ですので、お待ちするくらいの時間はあります。」


この話にシスターも乗り気ではあるので、ここで拓哉達が戻るのを待つと言う。


「なら、さっさと行って帰って来れば、間に合うか?」


ダレスからは、モートン、アルバダ、クレスと続き、王都となる。

大体、町の間隔としては1日あれば問題ない。

しかし、本来ならば、片道四日。王都滞在を考えても最短九日は掛かる。

しかし、そこは拓哉の所有者する馬車だ。スピードを上げれば、もっと早く着くだろう。


「時間が勿体ない。町には寄らず、馬車を走らせて王都に向かうぞ。」


そう言うと、拓哉達は即町を出た。

ダレス、モートン、アルバダは、田舎の町だ。

周りに山はあるが、街道は平地の一本道。

町を離れると長閑な田園風景とまではいかないが、町の付近は本当に田園風景だ。

小麦畑や野菜畑の間を通り、途中からは草が生える草原を見ながら一路王都を目指す。

本来の目的から言うと、モートンやアルバダの町に立ち寄り、寄付をするつもりだったがここは一旦無視。

町を通り過ぎ、夜ギリギリまで馬車を走らせながら、走る事28時間。

メロスもビックリな二日半と言う短時間で王都へと到着する。

王都へと到着した拓哉は、急いで王城へと向かう。

そして、衛兵に至急の案件で国王に会いたいと伝る。

拓哉の必死の形相に引き気味だった衛兵が説明したからか、拓哉は直ぐに城へと通され、そして現在応接間で国王クリストフェル・ランデウ十一世がやって来るのを待っている。


「待たせたか。」


応接室の扉が開き、国王がそう言いながら入って来る。


「いえ。突然の訪問にも関わらず、お時間を頂きまして誠に恐縮です。」


拓哉は、自分の知りえる全ての丁寧語で、国王に失礼のないようにそう言った。


「うむ。まあ、余とお主の仲だ。そこは如何様にもする故、気にするな。で、至急の要件とは?」


拓哉は安堵した。

ここで怒られたらどうしようかと思っていたから。


「はい。実は、以前お話しした教会への寄付をする旅に出ていたのですが、ダレグの町で・・・」


拓哉は、事の詳細を話した。

その上で、寄付は確かに必要な事かもしれないが、それを継続して行う事こそが国にとっても、強いては町にとっても大切な事だろうと話した。

その理由としても、オルトラークのエリカに聞いた「孤児は手に職が無い為、中々働き口が無く、結果スラムに落ちる子が多い」事を話した。


「なるほどのう。確かに、寄付はその場凌ぎとしては大切ではあるが、それが無くなると結果元に戻る。だからと言って、いつも寄付が多額に貰えるとは限らぬか。」


「はい。私も、寄付だけすればいいと初めは思っていました。しかし、それではダメなのだとダレグで分かりました。であれば、今オルトラークで行っている様に、孤児たちを育て世に出す方がその町にとっても、国にとっても有益な事なのでは無いかと家令に諭されました。」


「ふむ。して?お主は私にどうして欲しいのだ?」


この国王、案外話が早くて助かる。


「先ず、ダレグの孤児並びに、シスターをオルトラークの孤児院に移す事の許可が頂きたいです。それに伴い、教会側、ジーハの町、オルトラークの街の領主へ、その旨を下知して頂きたく思います。オルトラークの孤児院へと移る事を認めていただけるのであれば、その費用は勿論。今後一切の支援金はオルトラーク領主から頂く事はせず、トウジョウ商会が全て賄います。私の我儘で始める事ですので、もし支払うと言われてもお断り致します。教会側からの補助金は、直接孤児院へと支払ってあげて下さい。そして、更に陛下にご許可を頂けるのであれば、この後向かうはずだった町の孤児院への寄付はこれで打ち止めにさせて頂き、孤児院の運営に専念しようかと思います。以上です。」


国王クリストフェル・ランデウ十一世は考えた。

今までは王都としても単に支援金を払うだけだった。本人がそう命じているので、それは知っている。

しかも、そもそも孤児院は教会が運営するボランティア施設だ。国王としても口出しする事はしなかった。

しかし、拓哉が言う事には一理ある。

確かに、孤児院への支援金は法で定められている訳ではなく、領主の裁量で支援するかしないかが決まっている。町の住民の一人として立派に孤児達を育てれば、その町は更なる発展を迎えることが出来るかもしれないが、そんな事を考える領主など微塵も居ない。

自分が如何に贅沢をするかだけが、領主の行動原理だからだ。

今まで通り孤児達をそのまま放っておけば、何の訓練も受けず冒険者となり魔物に殺され死んでしまったり、仕事も出来ず生活すら儘ならなくなりスラムに落ちたりと、若い者が減る一方で増える事は無い。しかし、拓哉の考えだと、孤児達が手に職をを持てば、そこから更に結婚し、子供が産まれ、その子供が更に大人になって結婚しと、人口は増えて行く可能性は高い。

であるならば、するべきは決まってる。

増えた方が町も国も豊かになって行くのだから。


「うむ。お主の言い分は、確かにその通りだな。よし分かった。許可しよう。それに、各関係者に即刻使者を出そう。ただし、それには条件がある。」


「条件ですか?」


「ああ。オルトラークで既に実施されており、成果も出ているのだ。王都でやれ。」


「はぁ?王都でですか!?」


またとんでもない条件を突きつける国王。

ただ、ちゃんとした理由があった。


「ああ、王都でだ。王都の孤児院は、現在そこまで孤児はいないはずだ。多くて10人程度だと聞いておる。そこにダレグの子供達を入れる。そして、この王都にトウジョウ商会の支店を出し、そのトウジョウ商会の名の元で孤児院の運営をする事。これが条件だ。無論、孤児院の建物の改修や店の手配など、私も協力出来る所は協力する。後、オルトラークと王都を行き来する為の魔道具もやろう。どうだ?」


この国王、何をしたいかと言うと、トウジョウ商会の扱う服や食材をこの王都で安価に出回らせたいのだ。

現状出回っていない事は無いが、流石にオルトラークと王都間では往復10日は掛かってしまう為、輸送費が掛かりオルトラークより高値となってしまっている。

例えば、オルトラークでTシャツ擬きが銀貨5枚で売られているが、商業ギルド経由で購入したとしても、王都で売られると銀貨7枚になっているのだ。

それに、珍しい調味料の噂も聞いている。

その珍しい調味料は販売されていない為、食べたければオルトラークに行くしかないのだ。それを是非食べてみたい国王。だが、中々行く事が出来ない。

ならば、許可するから、こっちに店作れ!と言う訳だ。

更に言えば、行き来する為の魔道具。その名を「転移鏡」と言うのだが、全身が写る鏡が二枚一対となっている物で、その二枚間を自由に行き来出来るのだ。一応、国宝である。

ならば、これを拓哉に渡せば、いつでもオルトラークの海ダンジョンへ行く事が出来るようになる。

ぶっちゃけ、国王の私欲の為に許可したようなものだ。

しかし、そんな事とは終ぞ知らぬ拓哉は、「陛下がこんなにも期待してくれている。これは、頑張らなければ。」と、勝手に解釈。

一つ返事で承諾した。

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