第134話 孤児院の事情

孤児院を訪ね、出てきた女性。

その女性が言うには、この孤児院はあと数日で取り壊されるのだそうだ。

そもそも、このダレグの町。住民が5000人前後の町だ。

にも関わらず、孤児の数が何故か多い。

全盛期と言ってもいいのか分からないが、一番多い時で50人くらい居たのだそうだ。しかも、何故それ程にまで多いのかは、ハッキリとは分かっていない。

どれくらい孤児が多いかと言うと、オルトラークの人口が20万人に対し、孤児院の子供たちの人数が約30名―――現在卒業していない子供―――程度なのだ。そう考えると、割合的にダレグの孤児率が高すぎるのが良くわかる。


そもそも、領主の収入と言うのは、基本、町の住人から徴収する税金だ。人口に対して税が入ってくるのだから、人口5000人から集まる税と20万人から集まる税では領主の収入は雲泥の差だ。

しかも、その入って来る税が少ないにも関わらず、孤児が多すぎる事で必要な援助金が多くなってしまう。そうなるとどうなるのか。

領主は収入が減るので、援助金を渋るようになる。

そして、孤児院は母体である教会からの支援だけでは運営が出来なくなり、税の多い町へと孤児が動かされその町の孤児院は潰されることになる。

これは、母体である教会側も了承済みの事であり、どうしようもなかったのだそうだ。


「しかし、だからと言って隣の町に行けば行ったで、また逼迫してしまい、他の町へと流される可能性もあるのです。ですので、喜ぶベき事かと言われれば、何とも言えないのですが。」


元シスターは、そう言いながら俯く。


「なるほど。ちなみに、現在子供たちはどうしてるんですか?」


「今はまだこの孤児院で過ごしてますよ。ただ、子供達はこの町を去り、ジーハに行かなければならない事に、気を落として部屋で塞ぎ込んでおります。」


拓哉は「あ〜」っと納得する。

理由は、ジーハもダレグとあまり変わらない町だからだ。多少ジーハの方が大きいか?と言う感じだが。いずれ、援助金を渋られ出て行かざるを得なくなるのが目に見えている。

それを聞き、どうしようかと悩む。


「ん〜。まあ、その為に各町を回ってはいるんだが・・・。だからと言って、次に向かう別の町で同じ様なことがあれば、助けるのかと言うと、全ては無理なんだよな〜。」


拓哉は初め、オルトラークに連れて行けばいいのではないかと思ったのだ。

しかし、もし次に同じ様な事があった場合、同じ事が出来るかと言われれば、答えは「No」だ。

いくら拓哉でも、全てを救う事は出来ないのだ。


「ブロル、涼子と春香、セバスチャンとカルヴィンを呼んできて貰えない?馬車は、春香に仕舞って貰って。」


拓哉は、一人では無理だと判断。

ブロルに馬車で待つ四人を呼んで貰う事に。


「分かっただ!」


ブロルは、部屋を出て行く。

そして暫くして、拓弥に呼ばれた四人とブロルが戻って来る。

拓哉は、今聞いた話を四人に伝えた。

そしてそれを聞いたセバスチャンの口から出た答えは「ならば、拓哉様が孤児院を経営されれば如何ですか?」と言う、突拍子もない事だった。


「はぁ?無理、無理無理無理!だって、ここまで中々これないじゃん!」


「いえ、ここでなくとも、オルトラークで宜しいではないですか。現在も、食堂の裏手に孤児院がございますよね?あそこをそのままエリカ様に任せ、拓哉様が運営資金を出せば良いのです。無論、領主からの援助金は打ち切る事にはなりますが、多分拓哉様が出される金額の方が多いので問題は無いと思いますが?もしご心配であれば、国王陛下にお伺いを立ててみられては如何ですか?それこそ、拓哉様が仰られる「役に立つ事」になると思いますが?」


「いや、確かにセバスチャンの言う事には一理あるよ?だけど、勝手には決められないでしょ。せめてエリカさんには、話くらい通してからでないとさ。」


一応、あの孤児院は、教会が運営する孤児院だ。

移転の際も、教会と領主にちゃんとお伺いを立てている。なので、その後孤児院は解体されたが、教会はまだ残っておりシスター達が交代で教会に詰めている。

現在の孤児院の建物は、拓哉に借りている形だ。

とは言え、子供達がお手伝いをした対価が結構な額入るので、実質家賃は無料みたいなものだ。しかも、その残りが収入にもなるので、領主も教会も支援金の額を減らせるとあって一つ返事で許可が出た。

しかし、今回は教会の許可はまだ得ていない。

多分、許可は出るだろうが、それはそうとしてもシスター長であるエリカに話をしていないのだ。

勝手に決めてしまうのも、如何な物かと思う。


「そこに関しては、問題はありませんよ?」


しかし、セバスチャンは問題は無いと言う。

拓哉には、その理由が分からなかった。


「そもそも、拓哉様は貴族ですよね?その貴族が、孤児院に援助すると言っているのです。誰が断れますか?」


「そこかよ!」


要は、貴族特有のアレだ。

貴族の言う事なんだから聞けや!と言う奴である。


「ですので、ご心配ならば国王陛下にお伺いと申したのです。そもそも、拓哉様の「役に立つ事」と言うのを、後押ししてらっしゃるのは国王陛下ですよ?であれば、孤児院の運営如き一つ返事でご許可を出されると思いますが?逆に、全ての町を回るよりかは、その方がより大きな役割を担えると私は思います。」


確かにその通りだと思う。

あの国王なら、即OKするだろう。


「それに、無論寄付は素晴らしい事だとは思います。しかし、単にお金を渡せばいい、と言う訳ではありませんからね。今行っている寄付は、その場限りの一時的な物。継続的に寄付をしてこそ、その意味が出てくるのではないでしょうか?ならば、継続して資金援助の出来る環境を作るのも、一つの寄付ではありませんでしょうかね?」


拓哉は、その言葉を聞き納得した。

確かに、寄付をすればいいと簡単に思っていた。

しかし、そのお金がある内はいいが、無くなってしまばまた元の生活に戻ってしまう。

そうなったら、また寄付をするのか?と言われれば、それは違う気がする。

ならば、今、正にオルトラークでやっている、孤児を自活出来る様に育て、一人前の働き手として世に送り出すのが町にとっても国にとっても、本当に役に立つ事なのだ。

最初だけ手を差し伸べるだけではダメなのだ。やるなら最後まで面倒を見なければ、何の意味もないのだ。

拓哉はセバスチャンの言い分に納得し、直ぐに行動に移す。


「よし!それじゃあ、急いで王都に向かうぞ!」

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