第112話 女々しい話

第一回異世界人全体会議が開かれ、全員の意思確認と今後の行動指針を纏めてから一月が経った。

会議をする前までは、「今後どうなるのか」と言う不安に駆られていたメンバーだったが、会議後は不安が完全に無くなった訳では無いが、前よりは安心出来るようになっており各々心の赴くままに自由に行動するようになっていた。

涼子達———元々拓哉の事が好きだと言っていた女性———は除き、未だ彼氏が居ない三宅裕子、花房百合、原田智世、水谷葉子、桂川琉穗、五十嵐佳央理の六人は、休みの日に集まっては自作のスイーツを食べながら駄弁っていた。


「ねえ~。私達に春は来ないのかしら?」


「だよね~。涼子達は、拓哉君と上手い事行ってるみたいだし。私もあの時手を挙げてれば良かったな~。」


「何々?智世は、拓哉君が好きなの?」


唐突に「春が来ない」と言い始めた裕子に、智世が答え百合がツッコむと言う絵だ。


「ん~。好きか嫌いかで言えば、そりゃ好きだよ?だって、盗賊に捕まって危ない所を颯爽と登場して助けてくれたんだから。けどね~、元の世界に戻るんだって思ってたから、それなら元の世界に戻って彼氏探したいな~ってあの時思ったの。だから手を挙げなかったのよね~。」


「あ~、それわかるぅ~。」と百合と裕子の声がシンクロする。

そして、そんな面白い話を聞いた残りの三人が、話しへと入って来る。


「ねえ、そんなにとう・・・拓哉君って、カッコよかったの?」


「見た目は、そこまででも無いと思うけど?」


そう言うのは、桂川琉穗と五十嵐佳央理だ。

この二人は、拓哉の事を全くと言っていい程知らない。接点が無いのだから、当たり前だ。


「カッコよかったよ。私は美奈子と加奈子と一緒に盗賊に捕まってたんだけど、その盗賊を銃で一瞬にして殲滅させたの。」


「私と百合なんて、盗賊のアジトに捕まっていたのを、拓哉君が助けてくれたの。戦ってる姿は見て無いけど、でもあの盗賊の親分を倒してたから強いんだと思うよ。」


「だね。攻略不可能と言われた海ダンジョンも、拓哉君が攻略したしね~。お陰で私達、何不自由なく生活させて貰えてるし。」


三人の拓哉に対する気持ちは、好きと言うより尊敬の念が強いかもしれない。


「なら、なんで彼女に立候補しなかったの?」


「「「それは・・・。」」」


葉子の言葉に、口籠る三人。

結局の所、「元の世界に戻れる」と思っており、「戻ってからもっといい男を捕まえよう!」そう思っていたから手を挙げなかったのだ。

しかし蓋を開ければ、ミッションクリア後も、当分この世界に住むと言う話しになったのだ。「そうなるのが分かっていたら、あの時手を挙げたのに」と思っても、後の祭りである。


「私は、龍平君の二番目の彼女に立候補しようかな。彼には色々と迷惑掛けてるから。」


三人の事を見ながら葉子がそう言う。

葉子の1000億は、龍平に加算されているのだ。迷惑を掛けていると言えば、そうかもしれない。

ただ、それは公子も同じ立場である。

そんな公子が既に龍平といい仲になっている為、「一番になりたい!」とは到底口が裂けても言えない。なので、二番目に甘んじる事で、自らの居場所を確保しようとしているのだ。

それと、いつもは自分の事を「僕」と言っていた葉子だが、最近は「私」と言う様になった。心境の変化かもしれない。


「え~!葉子ちゃん、龍平君と引っ付くの?」


「だって、元の世界じゃ重婚出来ないけど、こっちの世界では重婚OKでしょ?拓哉君にはもう九人もお嫁さん居るんだし、次に狙うは委員長としか付き合ってない龍平君でしょ。」


「あ~、確かに。」と、五人は揃って納得する。


「ねえねえ、この屋敷のアルバロさんやクラースさん、ダリルさんやドグさんはダメなの?」


最近屋敷に頻繁に来るようになり、屋敷の警護をしている男性陣達とも無論顔を会わせている琉穂と佳央理。

その男性陣はどうなのかと琉穗が聞く。


「あ~、アルバロさんは顔はいいけど、年齢がね~。クラースさんがギリギリかな。ダリルさんとドグさんは獣人だから、本音を言うとちょっと怖い。」


アルバロは人族ではあるが、現在38歳だ。

クラースが人族の34歳。

ダリルとドグは獣人族で、二人共29歳だ。

葉子の言う通り、アルバロとはかなり年齢が離れてしまう。クラースでさえ一回りちょい違うのだ。獣人族の二人に関しては、ハナからNo眼中なのだろう。


「あっ!でも、アルバロさんって、確かブリットさんと付き合ってたよね?」


「あ~、あの二人いい感じだもんね~。」


ブリットと言うのは、この町に来てから屋敷に勤める様になった人族の女性だ。

以前、「私達奴隷は結婚を望んでもいいのでしょうか?」と拓哉に聞いて来た女の子である。

ちなみに、以前借金奴隷であった者達は、既にその契約は破棄されて奴隷から解放されている。そりゃそうだろう。拓哉とロラは既に何度も身体を重ねており、シーラもまた、幾度となく身体を重ねている。そんな大切な二人を、いつまでも奴隷のままにしているなんぞ、拓哉が許す訳が無い。既成事実が出来た時点で、速攻で奴隷契約を破棄している。

その際に、他の人達の奴隷契約も破棄すると伝えており、破棄されると分かったアルバロ達14名からは「捨てないでくれ」と懇願された。

拓哉としては「ここを離れて自由に生きたい」と言われれば僅かだが退職金を渡しそうさせるつもりだったし、「ここに残りたい」と言われればそのまま仕事をして貰うつもりだった。本人達の自由にさせるつもりだったのだ。

拓哉の真意を聞いた14名は安堵し、改めて屋敷警護や裁縫工場で働く事となったのだ。

結果、ブリットが拓哉に質問した通り、恋愛も結婚も全てにおいて自由に出来るようになった。と言う訳だ。

ぶっちゃけ、ブリットは葉子達と同い年なのだが。


「拓哉君が奴隷契約を破棄してから、結構カップルが出来てるよね。」


「えっ?そうなの?」


「うんうん。みんなここで働いていいお給料貰ってるし、くっつけば結構裕福な生活出来るもんね。」


「食費も家賃も掛からないしね~。」


屋敷事情に詳しい裕子、百合、智世の三人が、現在の屋敷内の恋愛事情を赤裸々に暴露する。葉子はこう言う情報には疎いらしい。

ちなみに、アルバロに言い寄っているのはブリットだけでは無い。ギーラも狙っており、かなり積極的にアプローチしていたりする。

髭を剃ればイケメンで且つ、大人の余裕を醸し出しているアルバロは、現在モテ気が到来しているのだ。

しかも、葉子が知らないだけで、その他にも屋敷の独身男性陣に言い寄る女性は多い。元奴隷同士で。

拓哉の屋敷で働いている男性陣は、奴隷であった女性達からしてみると、意外と優良物件なのだ。それに加え、この世界の女性がそうなのかは知らないが、みな綺麗な顔立ちをしているのだ。男性陣の鼻の下が伸びているのが想像出来る。


「そうなると、残った男性陣が康太君、亮平君くらいしか余って無いのよね~。」


「康太君は、ソニンちゃんにお熱だから、絶対に振り向かないと思うよ?」


「いやいや、彰空君と烈君もいるじゃん。」


「「「「あ~、あの二人は除外ね。」」」」


佳央理の言葉に、葉子、裕子、百合、智世の声がシンクロして否定する。


「「うわぁ~。二人が可哀想だわ。」」


四人の息ピッタリな言葉に、引いてしまう琉穗と佳央理。

二人がどれだけ大変な思いをして来たかを知っているだけに、これでも一応は彰空と烈に対しては感謝をしているのだ。恋愛対象かと言われると、それは別なのだが。

しかし四人は、「絶対に有り得ない」と言う。


「タクヤ君見てるからだと思うよ?」


「そうそう。拓哉君が、私達の為に色々してくれてるからね。」


「だよね~。あ~ぁ。やっぱり今からでも立候補しようかな~。」


「あ~!ズルい!」


女三人集まれば、女々しいとはよく言った物だ。

キャッキャと騒ぐだけ騒ぎ、スイーツを食べ、紅茶を飲み、結局何の進展も無いままお開きとなる。



そんな一部始終を聞いている者達が居た。

この屋敷の家令であり、拓哉が居ない時に全てを任せられる最も信頼する右腕。

そう、セバスチャンだ。

彼は、女子六人がワイキャイしている隣の部屋———応接室で、商業ギルドから来訪していたアンナと打ち合わせをしていたのだ。


「も、申し訳ございません。」


セバスチャンは、「隣の部屋が煩くてすみません」と謝った。


「いえ、大丈夫ですよ。」


アンナは、クスクスっと笑いそう返す。


「若いっていいですね。私ももう少し若ければ、タクヤ様のお嫁さんに立候補しますのに。それはそうと、この内容で最終テストを行う事となっております。こちらが上手く行けば、大量に発注させて頂く事になりますので、その旨タクヤ様にお伝えください。ああ、そうそう。一樽辺りの金額はこちらです。」


「畏まりました。タクヤ様にお伝えしておきます。多分、こちらの条件で問題は無いかと思います。」


「では、よろしくお願い致します。」そう言ってアンナは席を立つと、セバスチャンに見送られて屋敷を後にする。


アンナが戻った後、セバスチャンは溜息を吐く。


「年頃の女性と言うのは、全く以て恐ろしいものですね。」


そう呟きながら。

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