第111話 第一回異世界人全体会議②
拓哉が語った「俺は、元の世界へと戻る。ただし、『最終的には』と後ろに付くが。」と言う言葉に、意味が分からないとばかりに全員が首を傾げる。
そんな全員の行動を見た拓哉は、「まあ、そうだろうな」と思い苦笑しつつ、理由を話し始める。
「せっかくイシュカに子供が出来たんだ。俺はイシュカと共にその子供を育てたい。それに、一応は避妊をしているが、今回の件で避妊具を使ったとしても絶対に大丈夫だと言えない事が分かった。そうなると、いずれ春香、涼子、美奈子、加奈子、裕美、エヴァ、ロラ、シーラも妊娠してしまう可能性が高い。つかぶっちゃけ、もう子供作ってもいいかって思ってる。涼子達が望んでる訳だし、みんなとの子供が欲しいなと思ってる。そうなると、確実に元の世界には戻れないだろう。しかし、そうは言っても、元の世界にも未練はある。」
凄く矛盾している。
子供は作る、だが戻りたい。そう言っているのだ。
「だから俺は、俺の命が尽きるその瞬間まで、この世界で家族と共に生きようと思う。俺の寿命が付きかけたその時、まだ元の世界に戻りたいと思っていれば、戻る選択をすればいいかと思ってる。そもそも、冒頭の龍平の言葉ではないが、戻った時の年齢はこっちに来た時の年齢に戻るのか、それともその時点での年齢なのか。この世界での記憶は残るのか、それとも残らないのか。それが全く分からない。クリア後の事だって、一人一人に選択権があるのか、それとも一蓮托生で俺の端末で選択しないといけないのかすら分からない。」
異世界脱出のススメには、そこら辺の事は一切書かれていないのだ。
愉快犯である例の声が教えてくれればいいのにと思うが、多分教えてくれることは無いだろう。
となれば憶測で考えるしかない。
歳を取り、それでも戻りたいと思った時。元の年齢で戻る事が出来れば、それ以降の人生を18歳と言う年齢から普通に歩んで行けばいい。歩めるのかどうかは別として。
しかし、ミッションクリア後―――早くて二年から三年後―――若しくは、戻ろうと決めた時点の年齢で戻るのであれば、世界の時間軸の差があったところで自分たちは既に死んだことになっている筈である。そうなれば住む家も無く、身分証明も無く、健康保険証だって無論無いだろう。そもそも、死んでいるのだから、戸籍からも除籍されている可能性が高い。
確実に元の世界には自分達の居場所は無いのだ。いや、存在自体が抹消されているのだ。
ならば、この世界に腰を下ろし、死ぬまでどうするか悩めばいいと思った。
いずれ確実に死んでしまうのだから、戻りたければその時に戻れば良くないかと。
戻ろうと思った時点で、既に死にかけているのだ。年齢が戻ればラッキー。戻らなければ残念と思えばいい。人知れず死んだところで悔いは無い。
今までは、戻りたい気持ちが大きかった。しかし、こっちの世界の女の子と。イシュカとの間に子供を授かったのだ。
ならばいっその事、この世界を満足するまでエンジョイした後に、元の世界に戻ればいいや。拓哉はそう考えたのだ。
それに付き合わされる事になるかもしれないであろう、女子には申し訳ないが。
「と言う訳だ。不確定要素が多すぎる現状で、仮に元世界に戻った所でその後の人生が上手く行くとは限らない。そもそも一人頭1000億稼いだ金が、どうなるのかすら明確にされてはいないしな。ならば、現状上手く行っているこの世界に腰を据えて、人生を終えるその時に戻るかどうかを考えればいいかな。俺はそう思った。」
拓哉の言葉に、全員が納得し頷く。
最後に「まあ、俺が肩代わりしてる女子には申し訳ないけどな。」と拓哉が裕子、百合、智世を見ると、見られた三人は、「気にしなくていい」と言わんばかりに首を横に振る。
「と言う訳で、俺は死ぬ瞬間までこの世界で過ごす事に決めた。」
拓哉の決意表明だ。
その言葉に触発されたのか、龍平も口を開く。
「拓哉が残るんなら、俺も残ってやんねえとな。公子、悪いが一緒に付き合ってくれるか?」
「ええ。勿論よ。」
公子は龍平の方を向き、笑顔で頷く。
「し、仕方ないですね。それなら、僕も拓哉君に付き合いますよ。」
「お前は、ソニンちゃんと一緒に居たいからだろ?」
本当は好きな子が異世界人だから、残りたい康太。だが、それを拓哉の所為にして残ると言う。
しかし康太のその言葉に、すかさず亮平がツッコミを入れた。
「そ、そ、それはそうだけど、でもさっきのは本心だよ!」
亮平に突っ込まれた康太は、顔を赤らめ慌てふためきながらもそう言う。
結局の所、全員元の世界に戻る事に関しては、当面見送る方針で纏まった。
いずれ戻る可能性はあるとは言え、まだミッションクリアまでの額が額なので、急かした所でどの道今直ぐ戻れる訳では無いのもある。
これが例えば、食事事情が品素だったり、娯楽が全く無く暇を持て余していたりしていれば、また状況は変わっていたのかもしれないが、現状は元の世界の食事を屋敷でも食べる事が出来る上に、金さえ払えば食堂でも食べる事が出来る。娯楽にしても、拓哉が世に出したリバーシーや将棋などで、ある程度暇潰しが出来ている。
里美の漫画がもっと広がれば、こっちの世界でも暇潰しの漫画が読める様にもなるのだ。無論、面白ければと付くが。
高校生だった自分達が、こんな世界に飛ばされてまで仕事をしなければならないと言う不満はある。しかし年齢的には、そろそろ就職活動をしていてもおかしくはない年齢だ。
元の世界で
しかも、以前王都で褒賞として受け取った白金貨は、既に棚芝達五人以外の者へと平等に分配を終えている。
それでも尚、拓哉のストレージには、白金貨で三桁オーバーのお金を持っているのだ。これだけあれば、仕事すらせずに死ぬまで暮らして行けるだろう。
女子達にしても、ある程度自由に使える金を持っているからこそ、全員が現状に満足していた。と言う訳だ。
「他のクラスメイトの事はどうするの?」
ふと気になった涼子が、拓哉にそう聞いて来る。
他のクラスメイトと言うのは、最初の頃から何かと絡んで来る金成達のグループと、亮平が会った言う
後、全く情報の無い
「金成達に関しては、もしまたちょっかいを掛けてきたら、殺してでも排除する。あいつらより、今ここにいるメンバーの方が大切だからな。その他の男子に関しては、俺の知ったこっちゃない。そもそも、学校でも接点無かったしな。」
それを言えば、康太にしろ棚芝にしろ、木田川にしろ接点は無かった。
康太に関しては、最初の内に出会いこちらに対して一応従順に協力してくれたから、現状仲間だと言えている。
しかし棚芝と木田川に関して言えば、未だ以て仲間だとは思っていない。
拓哉の中での彼らの立ち位置は、単なる居候だ。
「いずれにせよ、どうしても助けてやらないといけない状況にならない限り、俺は他の奴らを助けるつもりは無い。ましてや、俺達の生活を脅かそうとする奴ならば、そいつらを殺してでも阻止する。以上だ。」
初めからタクヤと共に行動して来た者は、拓哉の話を聞き大いに頷く。
それは当たり前だ。拓哉のお陰で、
しかし、後発で合流した棚芝、木田川、桂川、横山、五十嵐の五人は、拓哉の話を聞き戦慄を覚えた。
何故なら、今でさえ住む所を拓哉から借り食事にも困らなくなってはいるが、本来彼らは最初に出会った時に拓哉を利用し楽をしようと考えていたから。
「切られる側にならなくて良かった」と、五人はホッと溜息を吐いた。
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