第100話 説明責任は大事です

結局、シーラちゃんは俺の部屋へと荷物を運ぶ。

そして、荷物をドンと床に下ろすと、徐に右手を差し出してくる。


「ん?」


俺は一瞬首を傾げた。

しかし、直ぐに思い出す。他の女子に指輪を嵌めた事を。

俺は慌ててポケットから指輪を取り出すと、シーラちゃんの薬指に嵌めた。


「旦那様、ありがとうございます。」


頬を赤く染め、薬指の指輪を眺めつつそう言うシーラちゃん。

か、可愛い。俺は思わず抱き締めようと手を伸ばす。いや、いかんいかん。ここで手を出したらダメな事くらい俺にも分かる。延ばし掛けた手をグッと抑える。

すると、俺の頭の中に幻聴が聞こえて来る。


『もうその子は、君のものだ。だから抱き締めちゃいなよ。なんなら、押倒しちゃえば?』


耳元で囁くその声に、俺は「それもそうか。抱き締めても問題は無いよな。」と納得し手を伸ばす。

すると今度は


『ダメダメ!まだその子は成人して無いんだよ?そんな女の子に手をだしちゃダメに決まってる!』


その声で我に返った俺は、伸ばし掛けた手を引っ込める。


『もう両親からも許可が出たんだ。手を出しても問題は無いよ?』

『いくら許可が出たからと言っても、まだ未成熟の女の子に手を出しちゃダメだよ

!』

『未成熟だからダメというルールは無い。さあ、押倒してしまえ!』

『絶対にダメだからね!』


声が聞こえる度に、手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す。

声の主は、多分愉快犯たるあいつだろう。


『お前、煩いんだよ!』

『煩いって言うな!ダメなものはダメなの!』


俺の頭の中で幻聴がヤイノヤイノと喧嘩をしている。

鬱陶しい。

手を前に出したり、引っ込めたりと変な動きをしていたからか、シーラちゃんは首を傾げて俺をマジマジと見ている。

そして、何度目かの変な動きをした時だ。

突然、シーラちゃんが俺の手を握ると、そのまま自分の身体を俺へと預けた。

俺は思わず抱き留める。

そして、タイミングが悪く「拓哉君居る?」と、春香が部屋へと入って来る。

俺的には、倒れ込んで来たシーラちゃんを受け止めたとしか思っていないが、傍から見ると俺がシーラちゃんを抱き締めている様に見える。


「な、な、何してるの!?」


右手で俺の方を指差し、左手は口元を抑えた春香が、ワナワナと震えながらそう叫ぶ。

すると、見計らったかのように他の女子達——涼子、美奈子、加奈子、裕美、イシュカ、エヴァ、ロラさんが集まって来る。

お前ら、部屋の前で待機してたのかよ!と思うぐらい素早く集まった。


「ちょ、こ、これは・・・違うんだ!」


どもる俺。

しかし、そのどもりがますます怪しい雰囲気を醸し出す。


「あー!シーラちゃん、抜け駆けズル~い!」

「あ!ほんとだ!」


ワラワラと部屋に入って来た8人に、腕を引っ張られ抱き締められながら揉みくちゃにされる俺。

ロラさんなんて窒息するんじゃないかと思うくらい、その豊満な胸に顔を埋もれさせて貰った。

ちょっと役得。

暫くの間揉みくちゃにされた俺は、解放された後に説明責任を突き付けられた。


「・・・と、言う訳なんです。はい。」


あの後、アランさんとアグネスさんと話した内容を、洗いざらい吐かせて貰いました。はい。

すると、春香が「こうなったら、部屋を改装するわよ!」と言って全員を連れて部屋を出て行く。

何をどうするのやら。


二日後。

俺の向かいの部屋。倉庫に使っていた部屋だな。

ここに工事が入った。と言うより、三階の右側全部の工事だ。


ここでお浚いをしておこう。

元々、三階の右側は通路を挟んで左側に三部屋続きの俺の部屋が。右側に二部屋の倉庫があった。

改装後、右側の通路が無くなり扉が付いた。

扉を開けると、目の前には広々としたプライベートリビングが。

そのリビングの左側。元々俺の寝室があった場所は、何とお風呂に早変わり!しかも、大・浴・場!これなら、9人の奥さん達とも、一緒に入れるね!

入るかボケッ!

そして、リビング右側は、広々とした寝室に変わった。

ただ、ベッドが特注になるらしく、現在寸法を測っている最中だ。


「ちょ、ちょっと待って!」


作業している人の手を止め、全員部屋から出す。

そして、ストレージからエンペラーサイズベッドを取り出し、据えてみると


「ピッタリじゃねえか!つか、なんでサイズが分かってんだよ!」


部屋の端から端までを埋め尽くす超大型ベッド。

謀ったかのように寸法がピッタリと収まる。

もう、ぐうの音も出んよ。

俺のツッコミが聞こえたのか、彼女達が慌てて中へと入って来る。


「「「「うわ~ぁ」」」」


揃って上げる感嘆の声。

出したベッドと言うのは、天蓋付きの所謂お姫様ベッドのデカい版だ。

これだけを見れば、何処かの宮殿にでも置いてありそうな高級そうな物だ。

そして、春香が「あ、もうベッドはいいので。」と職人さん達を帰らせる。

言い方が軽い。


「何でこんなベッドを持ってるのか説明して貰えるよね?」


それから一時間にも及ぶ、説明責任partⅡが開催されたのは言うまでも無いだろう。

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