第73話 ヒールレスラー

新たなオカマ・・・もとい、仲間。元ギルマスのキャサリンさんを加えた俺達は、再び海ダンジョンへとやって来た。

もうダンジョンの仕様が分かったので、死んだ事にはならないと思う。

あ、そうそう。俺達の死亡届はちゃんと取消された。そして、ギルド登録も復活した。

あのバカンスまでの7日間が、その手続きをしていた期間だ。

なので、現在はちゃんとギルドカードが有効になっている。

しかし、すっかり忘れてて慌てたのが、商業ギルドの方だ。

冒険者ギルドと、商業ギルドは連携していない癖に何故か俺が死んだ事となっており、登録抹消までのカウントダウンが始まっていたのだ。

それに気が付いた俺は、速攻でギルドへと走り生存を告げた。

そしてそこで久しぶりに見たギルドカードの中身を見て驚く。

何と、チェスやらの利鞘で結構なお金が増えていたのだ。

アンナさん曰く「今、ランデウ王国ではこの四つの遊具が大人気なんです!そして以前教えて頂いた、貴族向けの商品が売れに売れていまして。あ、そうそうその辺をお伝えしてませんでしたね。貴族用のチェスとショウギですが、製作費に掛かる費用の2割増しがタクヤさんの発注費になります。さらに、その2割増し分を上乗せしてギルドが買い取ります。ですので、物によっては金貨数十枚がタクヤさんに振り込まれるのです。既に、この国の国王様特注のチェス、ショウギが売れておりますので。」と言われた。


国王は何を素材に作ったんだろ?


まあ、そんな事はどうでもいいとして、五階層から行くものだとばかり思っていた俺だったのだが、シャファとオカマの鶴の一声で一階層から行く事に。

まあ、一度通っているので問題は無いだろう。

先ず一階層は直ぐに終わる。


問題は、二階層だ。ここは多少時間が掛かるが、秋刀魚と鯛、それにカニだからまあ許そう。

島でココイヤを収穫し、祠から三階層へ。


三階層の海賊を蹴散らしながら、空間の歪みに入る。そしてウォータースライダーからのフリーフォール一回目。


四階層。エビとウニを確保しつつ、クジラの口へダイビング。ウォータースライダーからの地底湖に。


五階層。怯える可哀想なシーサーペントを倒して大渦に向かう。グルグルと回りながら船は飲み込まれ、南国リゾートへと到着だ。

この間、七日。

あんまり変わらないな。


「一旦、魔法陣から外に出るわよん。」


「何故?」


俺は意味が分からずそう聞き返す。


「あら、タクちゃんは知らないの?魔法陣を使わずにダンジョンに入ると、転移魔法陣が使えなくなるのよ。だから、一度転移魔法陣を使わないと、次五階層には来れないと言う訳ね。」


マジか!


「知らなかった・・・。」


「だから、一度魔法陣から外に出るわよ。」


そう言う事で、俺達は魔法陣に入り直す。

とは言え、単に魔法陣の上に乗り直すだけなんだが。

ただ、やはりと言うか、ダンジョンに入っていた俺達は実質七日しか夜を迎えてはいないが、外では21日経過していた。

ダンジョンの一日は、外の三日分と言う事が確定した訳だな。


ま、そんな事は置いておいて、改めて海ダンジョンの五階層へと降りて来た俺達は、六階層へと向かうのであろう湖の様な場所から船に乗り込む。

ここは、水深が深いので直でMk.Vが出せる。

全員が乗り込んだのを確認したら、エンジンを掛けて船を前へと進ませる。


暗い穴の中へと入ると、徐々に船体が前へと傾いていく。

そしてその体制のまま、船は流れに沿って走り始める。走り始めると言うか、勝手に流されて行くが正解か。


暫く流されていると、目の前に小さな・が見えてくる。その点は少しずつ大きくなり、次第に明るくなって来る。

そう、出口だ。


「衝撃に備えろよ!」


と俺が叫んだ数秒後。船は空を飛んだ。

そして数秒後、フリーフォールを体験。

船は水飛沫を上げて着水する。


「大丈夫か〜?」


俺はキャビンに向けてそう声を掛ける。

今回は春香もパンチラせずに済んだらしい。

その証拠に、俺が声を掛けた直後にブリッジへと上がって来た。


「んじゃ、早速六階層の探索を開始しますかね。」


俺はエンジンを始動、アクセルを踏み込み羅針盤の示す方向へと進み始める。


船を走らせる事三十分。

索敵に反応が。数は一つだ。


「右後方から、敵だぞ!」


甲板の上の五人に緊張が走る。

そいつは海を高速で泳ぎ、船に近付くと海面から飛び出す。

現れた魔物は、全長3mで前部分はマグロ。しかし、鼻先にはカジキの様な長い針の様な物が生えており、尻尾の方は蛇の様に長いと言う不思議生物だ。

そして、その鋭い鼻先を船の上に居る春香へと向けて突っ込んで来た!


「危ない!」


咄嗟にキャサリンさんが、春香を突き飛ばす。


「キャサリンさん!」


春香は悲鳴にも似た叫び声を上げる。

春香を突き飛ばしたキャサリンは、魔物に背中を向けていた。


「あらん、大丈夫よん。ムンっ!!」


最後の「ムンっ!!」と言う部分はまさに男の声だったが、その掛け声と共に魔物の方を向く。そして、その鍛え上げられた腕の筋肉を隆起させたかと思うと、徐に左手を前に突き出し、マグロ擬の鼻先の針をムンズっと掴むと、今度は右腕をマグロ擬の首に回しホールドスリーパーを掛ける。

体長3mのマグロ擬対体長2mの漢女オネエの戦いの火蓋が切って落とされた!


漢女は、暴れるマグロ擬の首にガッチリと筋肉と言う縄で締め付ける。

マグロ擬は、エラから上を動かす事が出来ず、蛇の様に長い尻尾を必死に動かす。

その尻尾が、バッチン、ビッタンとリングの上で踊る。


「あんら〜、往生際が悪いわねん。さっさと落ちちゃいなさ〜い!」


漢女はそう言うと、暴れる尻尾を足で踏みつける。そしてそのまましゃがみ込み、全体重で押さえ付けに入る。

これには、マグロ擬もタジタジだ!

完全にホールドされ、身動きが取れなくなっている。

あーっと!マグロ擬はあまりの苦しさに、尻尾で漢女の肩を叩いているぞ!

ギブか!ギブなのか!?

しかし、レフリーの春香は目を逸らす!

これはもしや、レフリーとグルなのか!

流石はデスフェイスのキャサリン!

しかし、マグロ擬も耐える!

おっと?ここでマグロ擬がジワジワと這いずり始めた!

そして向かう先は、レフリーの春香だ!

マグロ擬はその鋭い鼻先を何とかレフリーに向け、抗議の一撃を喰らわそうとしている!


ボキッ


しかーし!それに気付いた漢女が、マグロ擬の鼻先の針を根本から折ったぁぁぁ!

流石にこれは痛かったか、更に暴れ回るマグロ擬!つか、折るなら首を折れよ!


「タキュちゃん、さっきから煩いわよ?でも、そうよね。首の骨を折れば良かったわん。」


キャサリンさんはそう言うと、「フンッ!」と力を入れる。「ゴキッ」と言う音と共に、マグロ擬はリングに沈んだ。

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