第72話 俺の精神が削られる

翌日、物の見事に全員が二日酔いに。

朝飯を作ったのは、何と怪ぶ・・・ゲフンゲフン。キャサリンさんだった。

何故作り方を知っている!?と思う程、美味く炊けた白米と味噌汁が食卓に並ぶ。

そして、「二日酔にはこれがいいのよねん」と言いながら、ココイヤの実を解しジュースにしていた。

後ろ姿だけを見れば家庭的な女性って感じがするん・・・いや、やっぱりしねえわ。


そして、全員がある程度動けるようになったのは、昼を過ぎた頃だった。


「さて、そろそろ帰ろうか?」


俺がそう言うと、全員不満そうな顔をするが、いつまでもここにはいられない。


「そうねん。一応確認も出来たし、あたしたちもここから魔法陣で帰ればいつでも来れるしねん。名残惜しいけど、今日はもう帰りましょうか。」


キャサリンさんの一言で、全員が納得する。


「そうだな。また今度、遊びに来よう。次は十階層に行く予定だし、十階層に何かあればまたみんなで行けばいいしな。」


それから三十分後、俺達は魔法陣に乗り街へと戻った。



海ダンジョンの中継地点でバカンスをした数日後。

俺はギルドへと呼ばれる。

理由は、今まで誰も攻略出来なかった海ダンジョンを5階層まで攻略した功績を称え、報奨が出るからとの事らしい。


そして、ルンルン気分でギルドに向かった俺を待ち受けていたのは、あまりにも残酷な出来事だった。


「って、事でよろしくねん♪」


「いや、よろしくねんと言われても、何でこんなことになってんですか!?」


「そんなもの、決まってるじゃない。ここに街が出来て数百年。誰も攻略できなかった海ダンジョンを攻略できる冒険者が現れた。となると、ギルドとしてもそのダンジョンの調査はやっぱりやらないとね?」


「だからと言って、何でキャサリンさんなんですか?別の人で良くないですか?」


「あら、そんなのも決まってるわよん?私が行きたかったから。ただそれだけよん♪」


このおっさん、腹立つわ~。

で、どう言う事かと言うと、俺はギルドに報奨を貰いに来た。

確かに報奨は貰った。白金貨5枚と言う大金を。しかしだ!おまけに付いて来たのが、キャサリンさんと言う訳だ。

その理由は今の通り。

そもそも、海ダンジョンは誰一人として一階層の攻略すらが出来ていないダンジョンだ。

以前、この街にはダンジョンが6つあると話したが、それはこの街のの事であって、外にはまだ幾つかのダンジョンが存在している。

それらも含め、海と地底ダンジョンだけが未クリアなのだ。

そんな未開領域のダンジョンが5階層までとは言え攻略されたと言うのは、かなりの大ニュースなのだそうだ。

ぶっちゃけ、俺、春香、イーリスの名前は一躍有名となってしまい、ランクも一気にCまで駆け上がってしまった程だ。


そんなダンジョンだからなのかは知らないが、ギルドが本腰を入れて調査に乗り出して来た。

そして、俺達に同行するのが、このオネエなおっさんと言う訳だ。

この事実を知った他の冒険者からは、憐みの目を向けられたのは想像が付くだろう。しかもこのおっさん、ギルマスを退職し冒険者に返り咲きやがったからまた質が悪い。更に俺の知らない所で女子を味方に付け、何故か屋敷に住む事に。

そして、このおっさんが俺達のパーティーに入った事が街中に広まってしまい、更に俺の名前が知られる羽目に。

ふざけんなってえの!


「はぁ。まあ、致し方が無いですね。つか、裏工作するの止めて貰えません?一応、あの屋敷って、俺が家主なんですから。」


「あら、それはごめんちゃいね。でも、こう言うのは早い方がいいでしょ?それに、たまたまお店に行ったらこの話で盛り上がっちゃって。てへっ。」


何が「テヘッ」だよ!おっさんのてへぺろなんて、誰得だよ!


「ま、住むのは構いませんけど、キャサリンさんにも稼いで貰いますからね?」


ただ飯喰らいは許さねえぞ!


「あらタクちゃん、「さん」付けなんて他人行儀過ぎるわん!「キャサリン」って呼んで「キャ・サ・リ・ン」よ!」


キ、キモイ。

そして、言うに事欠きタクちゃんって・・・。


「い、いえ、結構です。今まで通りキャサリンさんと呼びますんで。」


「あら、いけずぅ~。」


はぁ。俺のSAN値がヤバイぞ・・・これ。


その後、新たなギルマスのアラセリさん、34歳家族持ちド・ノーマルと挨拶を交わし、キャサリンさんは惜しまれつつもギルドを後にした。

無論、俺と一緒にだが。

そして、ギルドを出た後にキャサリンさんの顔を見ると、号泣したのか化粧が崩れ怪物が更に酷い怪物に変化していた。


俺はなるべく仲間だと思われないよう、距離を開けて屋敷へと戻ったのだった。

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