第74話 嫌なフラグ

「マグロ擬対漢女の実況は、みんな大好き拓哉がお送り致しました。」


「何言ってんのかしらん?それよりも、漢女って酷いわん。私は、これでもか弱い乙女なのよん?」


どの口が「か弱い乙女」ってんのか。

「ムンっ」って、めちゃくちゃ男丸出しだったじゃねーか!しかも、3mの魚の首絞めて殺せる乙女が何処にいんだよ!

と、心の中でツッコむ俺。


「ま、まあ、無事倒せて良かった。さて、この魚は何だろ〜?」


キャサリンさんからジト目を向けられている俺は、そう言って目を逸らしながらマグロ擬を鑑定してみる。


「・・・魔物名、ツナーペント。ツナ+サーペントってか?まんまじゃねえか!」


「食べれるの?」


魔物の名前を聞いた春香が、俺にそう聞いて来る。


「ああ、食用は可になってる。」


その言葉に「やった〜!」と飛び跳ねて喜ぶ春香。


「春香って、マグロ好きなのか?」


「うん!マグロ大好き!大トロあるかな〜?」


「あんじゃねえか?一応、マグロみたいだし。」


「ねえ、拓哉君。これ、みんなのお土産にいっぱい取れないかな?」


「そりゃ構わないが、何でだ?」


「え?こないだリゾートに行った時に、女の子達が「マグロ食べたいな〜」って言ってたから?」


ああ、なる。

俺はどちらかと言うと青魚の方が好きだが、やっぱりみんなはマグロとか赤身の方がいいのか。


「ま、現れたのを片っ端から倒して行けばいんじゃ無いか?倒すの、キャサリンさんだけど。」


「任せて頂戴。私が首を締めて捕獲してあげるわん。」


うん、任せておこう。


「んじゃ、次の階層に向かって行くぞ。」


俺はツナーペントを春香に預け、操縦席へと座り船を走らせる。

春香の言葉がフラグになったのかは定かでは無いが、その後もツナーペントが現れ、ヒールレスラーキャサリンにホールドスリーパーで締められていた。

そして七階層に行く場所に到着しないまま、日が暮れる。


「今日の夕飯は、マグロ尽くしだよ!刺身、マグロ納豆、マグロカツね。」


うへ〜。

俺はあまりマグロが好きではないんだが・・・。

しかし、春香がせっかく作った料理だ。

俺はビールで流し込みながら、それらを平らげた。



翌日。

船を走らせていると、早い段階で下に降りる歪みを発見する。

しかし、その歪みのある場所が問題だった。


「何故、空に・・・。」


そう、上空10m程の場所にあるのだ。


「これ、どうやって行くのかしらねん?」


「またクジラさんとか?」


「クジラなら、既に待機してんだろ。」


「じゃあ、突然の海底火山噴火とか?」


春香が恐ろしい事を口にする。


「や、やめてくれ。フラグが立つじゃねえか!」


「二人共、その「フラグ」って良く使ってるけど、何なのかしらん?」


フラグを知らないキャサリンさんが、不思議そうに聞いて来る。

顎の割れ目に指を挟み、首を傾げると言う女子なら可愛いポーズ。しかし、それをおっさんがやっていると言うのはキモ過ぎる。


「フラグと言うのは、それを言う事により、本当に起きてしまうかもしれない状況を作ってしまう言葉ですね。」


キャサリンさんは「へ〜そうなのね〜」と感心している。


「例えば今のケースだと、春香が言った言葉によって本当に海底火山が噴火する状況になる事ですね。ほら、あんな風に。」


と、俺は海面を指差す。

そして、全員が一斉に俺の指差した方を見る。

そこには、湯気を上げながらボコッ、ボコッと弾ける大量の気泡があった。


「ね?春香がフラグを立てたから、海底火山が噴火することになったでしょ?」


俺が冷静にそう言うと、春香もキャサリンさんも、シャファもイーリスも慌てふためく。


「ね?じゃないわよん!?早く逃げないと!」


「逃げる?何処に?七階層への歪みが上なのに?」


俺は冷静だった。

何故なら、どんなフラグが立とうが10m上にある歪みに入らなければ、ダンジョンから出る事すら出来ないからだ。

なので、この海底火山噴火が七階層に降りる為の手段だと確信している。


「とりあえず、全員キャビンに入って衝撃に備えるしかないかな。」


俺のその言葉で、全員慌ててキャビンへと入って行く。


そして海面のボコボコと言う量も音も次第に多くなり、遂に大爆発が起こる。

海面が膨れ上がり弾けた圧力により、船は真上へと噴き上げられる。

そしてそのまま空間の歪みへと吸い込まれた。

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