第25話 子どもだからできること
俺はピアサを倒し、漁港に向かおうとしたところで、紫苑が未だ別れた先にいることに気づいた。
ピアサの気配は消えてるが、漁港に向かうって話を忘れていんのか?
俺は紫苑の元へと向かう。
着いた先は、ピアサに襲われたであろう村だった。
血の匂いが充満しており、遺体の隣で泣き崩れているものや、埋葬しようと遺体を運んでいるもの達がいた。
紫苑が着いた時点で、もう襲われた後だったんだろう。
あいつが来ているのにこうなることは、まずありえない。
「紫苑」
「ハク。終わったのか」
紫苑を見つけ声をかければ、誰かを埋葬していたのか、墓を立てていた。
その近くには、光のない目をしたアドルフォぐらいの赤髪のちびっこが座り込んでいる。
「あぁ。…‥どうした、そのちびっこ」
「この村の生き残りだ。坊主以外の家族は死んじまった」
「……そうか。怪我は、なさそうだな」
服は血だらけだが、見たところ怪我をしているような様子はない。
俺が来ても何の反応もなく、一点を見つめている。
昔の俺もこんなだったのだろうか。
俺と同じ状態なら、誰がどんな声をかけようと、おそらく聞こえていない。
「誰の墓だ?」
「この坊主の妹と祖父さんだ。一緒に逃げようとしたみたいだが、ダメだった」
「何があった」
「あの大人たちの話じゃ、異人教信者が薬を持っているのを、この村の人間が気づいて問い詰めたら、薬飲んでピアサになったらしい」
胸糞悪い話だ。
巻き込まれた人間は、たまったもんじゃない
ちびっこに何と声をかけようかと後ろ頭をかきながら悩むも、出てこない。
紫苑を見るが、紫苑も出てこないのかなんとも言えない顔をして首を横に振った。
「このちびっこ、どうすんだ」
「孤児になっちまったからな。その上、誰も声をかけてこない」
紫苑の言葉にあたりを見回すも、俺たちをチラチラ見ている連中はいるが、このちびっこに声をかけるやつはいない。
仲のいいやつなら俺たちがいようと、無事だったのかの一言くらい言ってきそうなもんだが、もしかすると、知り合いも全員死んじまったのかもしれない。
「……ちびっこ、ひとまず連れて帰るか」
「そうだな。坊主、一旦俺たちについてきてくれるか。ここにいても、しょうがないからな」
そう紫苑が声をかけるも、聞こえているのかいないのか。
紫苑が、ちびっこを抱き上げる。
抵抗も何もなく、紫苑にされるがままなちびっこ。
俺たちは、そのまま3人で漁港に向かった。
◇
禅たちの方も片付いていたようで、陸軍に引き渡している最中だった。
「終わったか?」
「おう」
「こっちも終わったぜ。タイミングよく出港前で、すーぐ片付いた」
どうやら、漁港に到着したタイミングで薬が船に運び込まれていたらしく、どの漁船か調べる必要もなく見つかったらしい。
「そのガキはどうした」
「ピアサに襲われた村の生き残りだ」
「……連れて帰るのか」
紫苑の言葉で察したのか、風の国まで連れて帰るのか聞く禅。
「そりゃ、坊主次第だな」
今ちびっこに意思を問うことは難しいとは思うが、このままの状態で連れて帰るのも確かに良くない。
ちびっこの人生だ。ちびっこが選択する必要がある。
「陸軍の話じゃ、火の国の方も片付いたらしい」
「そうか。なら、火の国戻るか。坊主のことは、火の国で考えよう。ここに置いていくわけにもいかん。火の国なら、ここに戻ってくることもできる」
「そうだな」
桜たちの方も片付いたようだ。
怪我してないだろうか。
笛は吹かれないから平気か?や、でもな……大丈夫だ。大丈夫。
俺たちがそう話している間も紫苑に抱かれたままのちびっこは、何の反応もない。
何とかしてやりたいが、その術が思いつかない。
ジジイが俺にしたように喝を入れるべきなのか、寄り添ってやるべきなのか……。
人の心を救うのは難しい。
死んだような顔をしているちびっこを連れ、俺たちは火の国へと帰還した。
◇
火の国についてすぐ、桜が俺たちを迎えてくれた。
「桜!」
「元気?」
「俺は元気だ」
よかった。見たところ何も問題はなさそうだ。何やら棒付きの飴をたべている。
桜を抱え安堵していれば、桜が紫苑に手を引かれて歩いているちびっこの存在に気がついた。
血だらけの服でいるわけにもいかないので、向こうの国でドジュンが子どもの服を買い着替えさせたが、目は死んだままだ。
「村をピアサに襲われちまったんだ」
「あぁ…」
簡単に伝えれば、痛そうな顔をする桜。
「降りる」
「あ?降りるのか?」
桜は少し考えるそぶりをしたあと、俺の手を叩きそういった。
早くないか、俺は降ろしたくないんだがと思いながらも下に降ろす。
桜はちびっこの前に立ち、ポケットから自分が食べているものと同じ、棒付きの飴を一つ出して、ちびっこに差し出した。
「あげる」
今まで誰が声をかけようと何の反応もなかったちびっこだが、地面だけを見つめていた視線が、桜へと移った。
「美味しいよ。ソーダ味の飴」
ちびっこは、ただただ桜を見つめる。
そんなちびっこを見て、桜はちびっこの手を取り、飴を握らせた。
「……飴?」
ちびっこは、握らされたものを見て、また桜を見たあと、そう呟いた。
どうやら棒付きの飴は初めてみたらしい。
「クッキーもあるよ。チョコもある。あ、ラムネ好き?」
「何でそんないっぱい持ってんだ」
「はっはっは!桜のポッケからはいろんなのが出てくるな!」
何やら手品のようにポケットからいろんなお菓子を出す桜。
それを見て笑う紫苑。
チョコとラムネはジジイが桜のために常備しているので、よくポッケに入ってるのは知っているが、今日はクッキーと飴までパンパンに入っている。
さっきはそんなに持ってなかったと思うが、誰かからもらったのか?
色んなお菓子を掌の上に乗せられ、その掌と桜を交互に見やるちびっこ。
どうやら、桜なりにちびっこを元気づけようとしているみたいだ。
「……こんなに、食べられないよ」
「大丈夫よ。美味しいから」
「そういうことじゃねぇと思うぞ」
両手いっぱいに乗っているお菓子を見てそういうちびっこに、少しズレた回答をする桜。
ちびっこは、お菓子をポケットにしまい、棒付きの飴を袋から出して口に入れた。
「美味しい?」
泣きそうになっているちびっこの顔を覗き込んで聞く桜。
ちびっこは、堪えきれずに流れた涙を拭いながら頷く。
その頭を紫苑がわしゃわしゃと撫でる。
「腹減ったし飯でも食うか」
「いいな!」
「お前らずっとなんか食ってんな」
「そりゃハクもだろ」
紫苑の言葉にドンハンが大賛成し、他のやつらも頷いて賛成する。
「飯屋行くか?」
「うん。お腹すいた」
桜にそう聞けば、ちょうど夕飯の時間だということもあってか、お腹を触ってそういった。
それならいかない理由はないと、俺たちは飯屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます