第24話 決着

 女から男の顔へと変化したピアサだったが、その後も鱗光を壊せば、性別も年齢も関係なく容姿が変わった。

 おそらく変化の異能力だ。

 鱗光の大きさは、5㎝より小さくなることはない。

 こいつ自身の実力と比例しているなら、2級のピアサだ。

 2級だってのに、鱗光の場所がわからないがために手間取っている自分に腹が立ってきた。


「僕は強いでしょう?いい加減お認めになりなさい」


「強くねぇよ。ただ、めんどくせぇ!!」


 壊しても壊しても変化によってまた新たに鱗光が出てくる。

 その上俺に向かってくることはなく、逃げの一手だ。

 全身切り刻もうにも、逃げがうまいのもまた腹が立つ。


「それは僕が強いということを認めていることと同じ」


「ちげぇよ!」


 強くはない。

 俺の強いの定義にこいつは当てはまらない。

 鬼ごっこもいい加減鬱陶しい。


龍馬りゅうば!」


 今度は右足にあった鱗光目掛けて、刀を下から振り上げた。

 鱗光は割れ、青年の顔をしたピアサはそのままの勢いで壁に叩きつけられる。


「何度同じこともしても、無意味ですよ」


 今度は老婆に変わり、左足を淡く光らせているピアサ。

 すぐに立ち上がり、追撃をしようとした俺の頭上を飛び越え、また逃げ回る。


 こいつ本体に鱗光が無いなんてことは、考えられない。

 どこかに本体の鱗光があるはずだ。

 鱗光が壊されると困るのなら、己と鱗光の位置が近い人間に変わることはない。

 何十回と変化した中で、光っていない場所はどこか考える。

 おそらく左側と右下半身、右腕は違う。

 となると、考えられるのは、右側の胴体か、顔。

 ピアサを追いかけ、刀を振るいながら、気になっていたことを聞く。


「もう一度聞くが!お前にレッド渡したやつは誰だ!」


「あなたには、関係のないことです」


「はっ、お前以上に弱い雑魚だから守ってんのか?」


 そう煽れば、ピアサは初めて俺に攻撃を仕掛けてきた。


「X様までも侮辱するなど……!あなたには天罰が降らなければなりません……!」


 ピアサの蹴りを避け、一旦距離を取る。

 X様。

 聞いたことがない。誰だ。


 よほど俺の発言が癪に触ったらしい。

 激昂した様子で、地面を蹴り、俺に向かって上から右足を振り落とす。

 後ろに飛んで避ければ、教会の床に轟音と共に大きな凹みが。


「許しません……!あなたのことは決して許しません……!」


 そう言いながら俺との間合いを詰めるピアサ。

 俺はその場から動かず、一点を狙い、構えた。


牙龍鱗突がりゅうりんとつ……!」


 ピアサが、俺の心臓目掛けて腕を突き刺そうとしているのよりも先に、俺はピアサの額を貫いた。

 ピアサの勢いはそこで止まり、俺は突き刺した刀を引き抜く。

 ピアサは膝から崩れ落ちた。


「どうして……場所が……」


「お前がキレた瞬間見えたんだよ。お前の額が、一瞬だけ光るのが。逃げ回ってたのは、波動を込めりゃ自分の鱗光が光るからか?」


「あなたには……必ず……天罰が……」


ピアサは、最後まで俺を睨みながら、泡になって消えた。



 異人教信者は、全員テロの容疑者として陸軍に連行されていた。

 それを見ながら、水で集めたレッドをどうしようかと悩んでいたら、困ったことになった。

 私は、ハクの言葉を思い出す。


『黒い制服着たやつには気をつけろ。特に女大将』


 どうしよう。


「君、水の異能力者なのかい?」


 黒い制服を着た人たちに囲まれている……!

 私の目の前にいるのは、恐らくハクが言っていた大将さん……!

 異能力だということは今更隠してもバレているので、とりあえず頷こうとして、踏みとどまった。

 女大将さんの異能力が洗脳だとわかってしまっている今、何か反応をした時点で終わりじゃないだろうか。

 どうしよう。

 どうしよう……!!


「私そんな怖いかい?」


「あなたの異能力が洗脳だと気づいているので、反応しないのでは?随分聡い少女のようですね」


 私の身長に合わせて屈んで聞いてくれる大将さんだが、目を合わせることもいけないのでは、と下を向いてビビり倒している私を見て、困った様子の声色で隣の軍人さんに聞いている。

 隣の軍人さんの仰る通りです!


「君、珠蘭ちゃん達といたけどウィスタリアの子かい?それにしては、格好が違うようだけど」


「おい」


 どうしようかと冷や汗垂れ流しながら考えていれば、仕事を終えたらしいノアさんの声が。

 声がした方を見れば、何かを引きずっている。


「外に逃げたやつらは全員捕らえた。こいつが取り仕切っていた男だ」


「さすが。ご苦労」


 そういい女大将さんの前に、気を失った校長先生(仮)を放り投げるノアさん。

 とても扱いが雑である。


「この子、君たちの仲間なの?」


「あぁ、お頭の娘だ」


「へぇ、それは知らなかった。養子かい?」


「あぁ」


 息を吐くように嘘をつくノアさん。

 ハクの娘ではなく紫苑さんの娘になっているが、その嘘は後々面倒なことになる気がする。とても。


「仕事は終わった。俺たちは帰らせてもらう」


「うん。助かったよ。君の頭領によろしく」


 そう言い、ノアさんは私の手を引いてその場を後にした。

 大将さんは、私たちに向けてニコニコしながら手を振っている。

 振り返したほうがいいのかと、後ろを見れば、ノアさんに止められた。


「洗脳されるぞ」


 手を振りかえしただけで⁈

 洗脳怖い。


 どこに歩いているのかと思ったが、どうやら、陸軍の人と話している珠蘭さんの元に向かっているようだ。


「そういえば、ノアさんはなんの異能力なんですか?」


「……瞬間移動だ」


 気になっていたことをノアさんを見上げながら聞けば、やはり瞬間移動だった。


「すごいですね」


「すごい?」


「私を助けてくれた時も、トんで来てくれたんですか?」


「あぁ」


「おぉ、ありがとうございます。ヒーローみたいでした」


 初めて会ったときに、音もなく降り立ったノアさんは、トんで来ていたのか。

 ハクと逸れたあの状況で、誰かが助けに来てくれるとは、思っていなかったので、正直とてもかっこよかった。

 ヒーローみたいだと思ったことを言えば、ノアさんは私を真顔で見つめて立ち止まってしまった。

 ノアさんにとっては、あまり嬉しくない言葉だったのだろうか。


「桜」


「はい」


「風の大陸に帰るぞ」


「え?……かえ、帰らないです」


 ノアさんはそう言い、また前を向いて歩き出した。

 話の流れを思い返しても、何故そうなったのかはわからないが、また勧誘された。

 心なしか、ノアさんの機嫌が良さそうにもみえる。

 無表情だが。

 さっきの言葉は、嬉しくないわけではなかったのかという少しの安心と、このまま本当に連れて帰られたらどうしよう、という少しの不安の両方を抱えながら、珠蘭さんの元へと向かった。



「あの子何者だろうね」


 そう言いながら、桜を探るような目で見る嶺依。


「調べますか?」


「いや、いいよ。可愛いし。あの子今5歳ぐらいかな? 美人になると思わない? 将来が楽しみだねぇ」


「……指示を」


 ナートの言葉に否定を示し、何やら桜の背中を見ながらニヤニヤしている嶺依。

 女上司の女好きは、幼女にまで及ぶのかと、自身の上司に引くナートだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る