オタクな神様はお友達 ~二回目の人生はスローライフで~

野良・犬

プロローグ


 その日は、雲一つない晴天で、まるで門出を祝うかのように、燦々と眩しくも綺麗な日差しを降り注がれていた。

 平日の真っ昼間だというのに、誰一人仕事をする人はおらず、皆が皆、各々の欲望のままに生を実感している。



 みんな…そうみんなだ。



 この日、仕事をしている人がいるというのなら、ソレは物好きか、それか病気の類だろう。

 人として、知性を持っているのなら、今日…この日に、いったい誰が仕事をしようと思うのか。

 そんなの、モノ好きでも病気でもないのなら、それはなにも知らぬ赤子や獣だ。


 いるはずがない。


 そう男は自分に言い聞かせ、ジュージューと鍋の中で油と共に踊る唐揚げへと目を落とす。



『こっちの準備は終わったよ。

 あっちゃん、そっちの具合はどうだい?』



 そんな男に、サラダ等野菜系の料理を作っていた初老を間近に控えていた男性が、優しい微笑みを浮かべながら問いかける。

 自身よりも一回り分程大きい彼を見上げ、男は頷く。



「大丈夫、もう出来るよ」


「そうか。

 じゃあ、私はできたモノを部屋にもっていくよ。

 火傷、気を付けてね」


「大丈夫、そんなヘマはしない」



 男性は苦笑を浮かべながらも、お盆に乗った料理を運んでいく。

 そうそんなヘマはしない。


 男は、高校卒業後、大学へと通う為に上京し、一人暮らしを始めて、そんな生活を10年はしてきたのだ。

 今はシェアハウスという形で、一人暮らしとは違う生活をしているが、この家に住み始めて2年、料理をする事からほんの少し離れた生活をしていたが、その10年の経験は裏切る事はなく、その経験が、今日を境に意味を無くすと思うと、ほんの少し寂しく感じなくもなくもなかった。

 一種の趣味みたいなモノになりかけているから、そう感じるのかもしれない。


 趣味はいいものだ。

 己の隙を突き詰められる。

 料理をする事も、ゲームをする事も、知り合いと呑みに行って、無駄話世間話…他愛ない話で時間を潰すのも、皆趣味だ。


 揚げ終わった唐揚げを、1つ1つ丁寧に油をきって、お皿へと移していく。

 最後の1つを移し終えた所で、男性が戻って来た。

 次に取り出すのは、冷蔵庫にしまってあったお酒の数々だ。



「いや~イイものだねぇ。

 この二週間、何回もお日様が高い内から吞んでいたけど、何とも言えない背徳感がある」


「そうですね。

 まぁ今となっては皆が皆同じ事を思ってるでしょうけど」


「はははっ、違いない」



 男性は笑う。

 楽しそうに見えて、どこか寂し気で…。

 彼は男にとって、このシェアハウスの家主であり、友人であり、親子ほどの歳の差を考えれば、ある意味で、第二の父親と言うべき存在だ。



「じゃあ行こうか、あの女性陣を怒らせると、末恐ろしいから」



 なお笑う男性は、両脇に酒瓶を抱え、両手にはビニール袋に入った酒缶を持って部屋を出て行った。



『おせぇ~よ、あっちゃんッ!』



 目的の部屋に入ると、真っ先に飛び込んできたのは、自身を急かす声だった。

 半袖半ズボンを着こみ、おおよそ女性らしさの欠片もない同い年の女性…男の幼馴染は、長髪と耳に付けた多めのピアスやらイヤリングやらを光らせながら、ズカズカとこちらへと歩み寄ってくる。

 ムスッとした表情で、怒ったように見えるが、いつもの表情で男の持ったお盆を取り上げた。

 そして、お盆の上に乗った揚げたての唐揚げを見て、間髪入れずに素手で1つ摘まみ上げると、口の中で放り込む。



「お、おい…」



 火傷するぞ…、そう言いかけた時には、時すでに遅し…、口の中一杯に溢れる火傷必至な肉汁の熱を、はふはふと何度も息と共に吐き出して、飲み込むと共に頷いた。



「今日のはまずまずな出来だ。

 褒めてやろう」



 危なっかしく片手でお盆を持ち、ぐりぐりと男の頭を撫でまわす。



「ち…ちょっと…」



 いつもならすぐに払い除ける所だが、その頭に伝わる慣れた感触が、どうにも心地良く感じて、その手を退かす事ができなかった。

 幼馴染も、意外そうに眼を開くが、満足げに長々と男の頭を撫で続ける。



『まーちゃん、あなたも女の子なんだから、もっと女の子らしくしなくちゃ』


『おいこら、イチャイチャすんのも大概にせぇよッ!』



 幼馴染の手が男の頭から、いつまでも離れず、痺れを切らした女性の声が、部屋の中へと響く。

 おしとやかに、どこかおっとりとした声で幼馴染を諭すのは、男性の妻、男にとっての第二の母とも言える女性だ。

 女性は、幼馴染に注意はしても、どこかまんざらでもない表情を浮かべながら、手を振る。

 そしてもう1人の女性の声、その声の主は、この部屋を探してもどこにはいない。


 部屋の壁際に設置された4台のパソコン、その画面には当たり前のようにとあるゲームが映り、5人のキャラクターが大きい家をバックに立っている。

 モニター越しに見えるゲーム内では、映る5人のキャラの内1人が、激しくエモートを繰り返し、荒ぶり怒る猫の如く、動き回っていた。

 それこそ、もう1人の女性、この部屋にいない人物だ。



「この場にいない僕への嫌がらせかッ!

 ヒドイ酷いひどい、何年も一緒のゲームやってたのに、こんな…こんな仕打ちあんまりだぁッ!」



 金髪の獣人女キャラは、慌ただしかったエモートを止め、今度は、シクシクと泣く動きをし始める。

 ゲームならではと言えばいいか、キャラクターの感情表現は、どこまでもオーバーアクションだ。



「わりぃわりぃ、ついつい昔を思い出しちまってな」


「ほ~…、ソレは興味深い、一体昔にどんなくんずほぐれつな事があったのかなぁ~?」



 先ほど声に混ざっていた怒気は消え、獣人はゲーム内の赤髪でガタイのイイ男キャラの肩を叩く。

 幼馴染がゲームで使用しているキャラだ。



「はいはい、そう言うのはご飯を食べながら…ね?」



 いつまでも立ったままな男と幼馴染へ目配せをして、女性は、手をパンパンと叩く。

 勢いに呑まれていた中、我に返る様に、2人はわずかに頬を赤らめながら座る。

 ゲーム用のデスクが壁際に並ぶ中で、部屋の中央には、場に不釣り合いなちゃぶ台が設けられ、その上に、朝早くからせっせと作った料理が並ぶ。

 それを囲うように男女4人が座り、ゲーム画面を出力したタブレットが、ちゃぶ台に立てかけられた。



『ごほんッ!』



 全員が座ったのを見計らって、グラスに注がれたビールを掲げ、男性がわざとらしく咳払いをする。



「では、まだまだお天道様は空高く上り続けている最中ではありますが、明日の事を気にする必要はありません。

 ソレを咎める人もいません。

 大いに食い、大いに飲み、大いにはしゃぎましょう。この素晴らしき仲間たちに・・・乾杯ッ!」


「「「「乾杯ッ!!」」」」



 カンッ!とグラスのぶつかり合う音が響き渡る。


 男性はグラスに注がれたビールを一気に呷り、女性は男性の為に豪華な料理を取り分け、幼馴染は思い思いに目の前に並ぶ好きなモノへと手を伸ばして、男はそんないつも通りであり…かけがえのない光景を目に焼き付けた。


 いつも仕事帰りに、男性と呑む晩酌のビールよりも、美味しさに欠けるように感じながら、楽しそうにワイワイと食事を取り始める皆の顔に、ほんの…ほんの少しだけ影がある様に感じながら、止める事無くビールを呑み、唐揚げを頬張る。

 先ほどよりも、ほんの少し冷めた唐揚げは、その熱さが丁度良く、存分に下味の効いた塩気の肉汁を口いっぱいに広げてくれた。

 しかし、いつもならビールが進む料理の数々なのに、この瞬間だけは進みが遅い。

 まるで作業をするように、唐揚げを口に運び、しっかり咀嚼してからビールで流し込み、ポテトサラダを食べ…、枝豆を食べ…。

 お刺身とか生モノが少ないとはいえ、一般的に考えれば豪華な料理だというのに、部屋の空気はビール瓶が1本2本空になっていく中でも、温まっていく事をしない。


 そんな時、卓上に置かれたタブレットから、ピアノの演奏が始まる。

 ゲーム内で、サーバーを借りれば手に入るパーティ用の家、そこに設置された楽器で、獣人が場の空気を和ませるように引き始めたのだ。

 男は、その曲名を知らない、少なくとも30年という人生の中で、聞いた事のない曲だった。

 でも心が落ち着く、これから来る結末が頭の中から消え去る様に…、心が和らいでいく。



「そう言えばあっちゃん。

 私達は嬉しいけど、親御さんの方で過ごさなくてよかったの?」



 珍しくも、お酒を舐めていた女性が、男に向けて首をかしげる。



「うん、大丈夫。

 先週、たっぷりと「最後の時間」を過ごしたし、2人とも、ワイワイガヤガヤとその時を迎えるより、その瞬間は時が来るまで、仲良く2人で過ごしたいと、むしろ無理矢理追い出された。

 むしろカヨさん達と一緒にいてやれって、説教染みた事も言われたよ」


「まぁ~ッ!

 それはもう、お気遣いありがとうございます…て、今すぐにでも電話でお伝えしたい所ねッ」



 おほほ…と上品に笑う女性は、まんざらでもない表情を浮かべながら、頬に手を当てる。

 酔いも回ってきているのか、その頬はほのかに赤い。

 携帯を取り出し、本気で電話を掛けようとするものだから、隣に座る男性がやんわりと…やめなさい…と制止した。



「それにしても、10年か。

 長いようで、短い日々だったな」



 そう懐かし気に男性がこぼしたのは、このメンバーが集まるきっかけになったゲームの話だ。


 今まさに部屋に設置されたパソコンと、卓上に置かれたタブレットに映し出されているゲームであり、ライトユーザーからヘビーユーザーまで、幅広く楽しめる遊園地…をコンセプトに作られたファンタジーMMORPG「ファンタジー・ラヴァー」、10年以上続く大御所である。


 この集まりは、そのゲームを中心に意気投合した人達の集まりだ。


 ゲーム内で知り合って10年、その世界で紡がれるストーリーを語らい、手に入れた家のリフォームや、カジノ施設に入り浸る男を、無理矢理幼馴染が高難易度ダンジョンに連れ出したり、何万といるプレイヤーの事を考えれば、特に変わり映えのしないゲームライフを満喫し、最終的にはパーティメンバーでシェアハウスをするまでに至った。


 歳の差こそあれど、共に過ごしたゲーム内時間は、そんな差など感じさせない程に育まれ、もはや家族と言っていい程の関係になっている。

 男の両親は、息子から話を聞き、ソレを理解しているからこそ、この場に彼がいる事を願ってくれた。


 男性が懐かしみ始めた事を皮切りに、ゲームでの思い出話に花が咲く。

 ミニゲームでの競い合い、野良プレイヤーを含めないパーティメンバーだけでの高難易度ボスの攻略、景色の良い場所での皆でオシャレをしたスクショ撮影会、獣人が無理をしていたる所の敵のヘイトを稼いでしまったがために倒れ、敵の群れから逃げ惑うメンバー、レベリングでの徹夜マラソン、寝落ちマラソン、etcetcetc・・・。



「それでへレズちゃんたら、作る作る…て言って、あっちゃんから貰ったレア素材で武器を作ろうとしてッ」


「あったあった。

 自信満々で言ったくせに、装備を変えるの忘れて、素材をゴミクズに変えたな。あの素材、ギルドマートに流せば700万は行ったんだぞ…」



 シクシクと肩を落とす男、その姿を見た当事者である獣人は、エモートでジャンピング土下座を繰り出して謝罪する。

 その光景は、この面子にとっておなじみなモノであり、別に笑う所ではないはずなのに、クスクスと笑いがこぼれた。


 暗い雰囲気は消え去り、ちゃぶ台に並んだ料理の数々は、すっかり空になって、山とあったお酒も、残す所あとわずかとなる。

 部屋に笑いが満ちている中、その終わりを釘差すように、設定してあったアラームが、ピーッピーッと控えめな音を響かせた。


 心の底から楽しそうな笑いが部屋を満たしていたというのに、ソレがピタッと止まる。

 まるでそんな時間が無かったかのように、さもその静けさが当然であるかのように、アラームの音だけが部屋を支配した。


 男性はゆっくりと立ち上がり、パソコンの横に置かれた時計のアラームを止める。

 重々しい空気が、ドッとその肩にのしかかる。

 男の握り拳が、ギュッと硬くなり、肩が震えた。

 誰もが口を堅く結ぶ中、男性は、ぎこちなくも笑みを浮かべる。

 無理をしている、そう見える笑みでも、肩の重みがほんの少し、軽くなるのを感じた。

 口にしてはいないが、大丈夫だと、安心させるような笑みだ。

 全員が自分の方へと視線を向けたのを確認して、男性は口を開く。



「とうとうこの日が来てしまいました。

 誰もが来てほしくないと望んだ日であり、誰もが悔いが残らないようにと、この一ヶ月を一生懸命に生きたと思います。

 少なくとも、この場にいる者は、全員がそうでありました。…


…今日、「我々は一人残らず死に絶えます」…


…気の利いた事は言えません。

 逃げようのない現実、抗えない事実、どんなに明るい事を話そうとも、その不安…恐怖を覆す言葉を、私は持ち合わせてはいないのです。

 しかし、少しでも、ほんの少しでも、その瞬間を迎える時、心の暗い部分が和らげばと思い、この場を設けさせていただきました。

 この場にいる方達は、私にとって、かけがえのない友人であり、同じ趣味を謳歌する仲間です。

 この最後の時を、その瞬間まで一緒にいられる事を嬉しく思います」



 男性の言葉に、女性は堪えきれず、口元を手で覆いながら、目元から涙を零し始めた。


 そう…、彼らは今日死ぬのだ。

 彼らだけじゃない、その街に住む人々、その国に住む人々、それどころか、その星に住むモノ全てが、今日、後ものの数分で全て死に絶える。

 その人々が生きた証も、何もかもが飲み込まれ、無へと帰する。



『今から一ヶ月後、7月17日、15:40頃、○○地点に、巨大隕石が落下します』



 一ヶ月前、そんな話を、国の代表が口走った。


 自分達が見ていたニュース番組が、お笑い番組が、歌番組が、唐突に会見場の映像へと切り替わって知らされた。

 まるで映画のような展開…出来事に、最初こそ誰も信じなかった。


 当然だ。


 唐突に、全世界の各国のお偉いさんが口を揃えて同じ事を言うのだ。

 我々は死ぬのだ…と。

 信じられるはずがない。


 どんなおとぎ話だ…、映画の見過ぎだ…と、多くの人が口を揃えて、大真面目な会見を笑った。


 しかし、嘘ではなかった。


 日に日にSNSへと上げられる隕石の画像、最初こそ見間違いだ合成だと言われていたそれも、多方面から挙げられる証拠に、徐々に否定の言葉は飲み込まれていった。

 次の日、働いていた人が突然出社しなくなった…、次の日、隣の席の友達が何も言わずに登校しなくなって姿が見えなくなった…、最初は少数で、一週間もしない内に、誰も彼もが義務を果たさなくなった。


 強盗等、ソレに類する事が起きた…と、話が耳へと多く入るようになったが、テレビを付けても情報は入ってこない。

 そもそも放送が行われず、映ったとしても、適当に垂れ流しにされるバラエティ番組の再放送。

 テレビを見ない人も、新聞を見ない人も、ネットを見ない人も、状況を理解した。


 今まで、当たり前として考える事もしなかった秩序そのものが、存在しなくなった。

 まさに世紀末、静かに残りの時間を過ごしたい人もいれば、そこから奪い、好き勝手する者もいる。


 この場にいる者達もまた、最後の瞬間まで楽しもう…そう決めた人々だ。


 人が働かなくなっても、動くモノがある、正確には、しばらくは大丈夫…程度であろうが、その恩恵を得ながら、この瞬間を迎えた。


 電気はまだ生きていたから、冷蔵庫は使えたし、店が開かれず、盗み等で今更手に入るモノは無かったけど、周りが事実を受け入れる前に、色々と買い込んでいたから、困る事もなかった。

 それでも、好きなモノを…という訳にもいかず、アレもコレも…とはいかなかったようだが、最後の瞬間まで、困る事もなく、豪華な食事でこの日を迎え、笑い合える。



「こらこら泣かないで。

 せっかく2人が最後に一緒にいてくれるんだ。その瞬間まで笑顔でいようじゃないか。

 なぁ?」



 男性は再び座り、女性の肩を持つ。



「だって…だって…」



 女性は、子供のように泣きじゃくり、そして男性の胸元へと頭を埋める。



「すまないね、まーちゃんにあっちゃん」


「別にオレも気にしねぇよ。

 なぁ、あっちゃん?」


「うんうん」



 幼馴染に肩を叩かれ、彼女の同じ思いである男は強く頷く。



「それは良かった。

 改めて言うのもなんだが、私達は、子供に恵まれなかったからね。

 君達の事を自分の子供のように…、本当の家族のように思っているんだ。

 だから家内も、やっぱりじ~んと来る部分があるようだ。

 もちろん、私もだが」


「もう、やめてください、雄二さん、恥ずかしいからやめてください」



 涙で腫らした目元と同じように、顔を真っ赤にした女性は、バッと顔を上げる。

 そして、男と幼馴染へと視線を向け、まだまだ涙が流れ続けてはいるけれど、その顔に笑みを浮かべた。



「出来る事なら、またみんなで、こうして美味しくご飯が食べたいわね」


「そうだな。

 私もそう思うよ」


「うん」


「そうだなッ!

 そんでこいつの美味しいけど、店の味に一歩及ばない唐揚げを喰うんだッ!」



 幼馴染が、男の頭をガシガシと力任せに撫でる。



「お、おい」


「ふふ、そうね。

 私もまた食べたいわ」


「ああ、私も、また食べたいよ」



 男性も女性も、まんざらでもない顔で頭を撫でられる男を見ながら、くすくすと笑う。



「それにしても、穏やかな時間だ。

 まるで、何事もなく、明日を迎えられるんじゃないかとすら思える程に」


「ええ。

 家族と一緒にご飯を食べるこの時間は、まるで夢のよう。

 穏やかで、とても、とても気分のいい時間だわ。嫌な事を全部忘れてしまうぐらい」



 男は、泣き笑いをする女性の手を取り、その言葉を肯定するように何度も何度も頷く。



「あ~だこ~だ言ってっけど、実はもう隕石問題が解決してるんじゃねぇかってぐらい静かだよな」


「ここは都心からも離れているし、比較的暴徒の被害が少ない地域だからな」


「まぁなんにせよ。

 妻も言ったが、またこうして皆と会いたいな」



 幼馴染は男性の肩に手を乗せ、男の方へ、空いた手を伸ばす。

 男もまた伸ばされた手を取った。



「いっその事…、皆で輪廻転生でもして、本当の家族にでもなる…ぐらいの事、起きてくれないかな」



 男は、涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪えながら、もう無い…先の事を考える。



「それはいいね。

 いっその事、皆でやったファンラヴァのような、ファンタジー世界とか」


「ええ、ええ。

 そこで、またみんなでおしゃべりをしながらダンジョンに潜って」


「でもそうなると、あっちゃんはまた家に籠って、内装をこだわり出しそうだな」


「それは…否定できない…かな…」


「おい、そこは否定しろよ。

 せっかくの本物ファンタジーなんだから」


「あはは…だだだだ…」



 幼馴染に、握った手へと爪を立てられ、男は痛みに悶える。



「ははは、とにかく、皆、今まで、お世話になりました」



 男性が他の4人に顔を見て、深々と頭を下げる。



「はい、お世話になりました」


「おう、今まであんがとな」


「うん。お世話になりま…」



 その瞬間を境に、一瞬の無重力間を覚え、男の意識は途絶えた。

 彼だけじゃない。

 時間の差が…ラグがあれど、そこに生きる者達全ては、その星ごと、消し飛んだ。



…これでおわりなんて、ぜったいにいやだ…



 そんな誰にも届く事が無い言葉を最後に、その1つの星…世界が、終わりを迎えた。



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