VIGILANTE.NO.Ⅳ【人形恋慕】
長い講釈を端折って口にすればこの世界の中で存在する人形達を
倭ノ帝國における世情常識に照らし合わせて呼べば一々式精錬人形と成る。
言わずもがな軍属・權田一々大佐が若い頃に書き殴った論文を元に
試験的に制作された
一々式基幹回路を軸として作られた戦さ用の戦闘兵で有る。
後に帝国覇商琴刎財閥・当主琴刎重山が自分も子を愛でたいとの我儘が爆発し
渋々と權田氏が折れ少女型の潜入型精錬人形を原型と新たに制作した機体・規格を
もつ人形が今と成ってはヒトノイドと呼ばれる新しい人形たちで或る。
留意すべき点は製造元が上記に絡んでなく他社であっても一定の機能水準と
ヒトノイドの規格を満たしそれまでにはなかった特有の機能を持つ人形で有れば
ヒトノイドと名を冠する事が出来る。
權田一々氏がはじめてその基幹回路を形にしたのは第一次世界大戦半ばで或る。
倭ノ國の帝國に置いて勿論それ以前にも戦兵といての兵機人形はあったし。
それは帝國だけではなく。大陸覇はもとより離島小国、数知れす人形の
それは存在した。
問題格差が或るのならそれはやはり技術の差であり。大国であれば質は良くなり
資金の乏しい國ではそれなりの物でしかないという事だろう。
金と技術が世界を覇する。それは六つと重なる鏡の世界。その何処でも同じだろう。
台椀朧蝋月の國。
開国歴史の其の頃から他国の属州支配に明け暮れる台椀朧蝋月の國の人形技術は
独自の進歩を遂げる。
それは國と国民性に色濃く影響を受けてもいる。
まずは自分。他人は二の次。三の次。家族親類は大事とするが。
まずは自分の利益が一番大事。
そのような国民性と思想と移り変わる世界情勢により安易に他人を蔑む事が難しく
成ると人々はその矛先を人形達に向ける。所詮はつくられた命と体。
痛む心もないだろう。
それが加速して蔑み差別の対象となる。とは言えそれは必要である。
自分達の優位な立場を維持するためには蔑む対象がいる。
戦争に相手が必要なのと同じ理屈だ。
画して台椀朧蝋月の國では他国の支配を受ける度にその下で人形技術を学び
覚え時が巡れば革新的な人形達が街に溢れることになる。
人種の欲望と寵愛と差別をその一心に受ける為だけに。
「この國では蝋人って言うんだな。國が違えば呼び名も違う。
大体。なんで!大陸覇語が通じないんだよ!世界基準だろ!基準!」
壱兵衛の体を持つ馬酔木碧空は湿気べとつく街中で一人毒付く。
余りに大きな声であったので三輪バイクに乗った街人が思わず
止まったくらいでもある。
「アハ。気にしないでくれ給え。一人言で或る」パチクリと目を丸くする彼らに
愛想よく手を降って誤魔化す。
再び動き出す世情の情景の中で一人。
ある意味途方にくれる碧空の雑踏の中で良く目立つ。
属する倭ノ帝國でも体の持ち主壱兵衛と言う漢の背は高いとなれば。
それを使う碧空のそれも又高い。
咥えて台椀の國・所謂亜細亜系の種に属する彼らは横に広いが高さはない体型が
多い。
「壱兵衛の奴。本当に役にたたないな。屑漢め。
大体センスないんだよ。見ろ。こんな鯉柄のジャンバー。
こんなの帝國若輩でも着ないぞ。
それにこのサンダルは何だ。此処は熱帯だぞ。一歩街から出ればジャングル何だぞ。
おまけにこの髪型。何がツートップ・テールだ。いい加減いしろ。
一番。気にくわないのは。禁煙主義何だぞ。こいつ。
大好きな煙草すうとむせ返るんだぞ!軟弱者めぇ~~~」
がっくりと肩を落としトボトボと歩く碧空。
壱兵衛が聞けば顔を真っ赤にして怒鳴るだろうが。言ってみれば碧空にも
責任がある。
嗜好品の煙草はともかく。猪突猛進なのは碧空も変わらない。
國渡りする時に余り気を使わなかったのだ。
書類や調べ者に気をとられ。側に尽くす人形・忍が用意した旅鞄をも無碍に断り。
身一つで國渡りした。
つまりは自分自身であるが、どうにもこうにも我慢が出来ない。
それはこの國の湿気と風情も或るだろう。
それに又。課せられた証を立てる為の知識が何もない。将又言葉が通じない。
抜かりがちな土道を成るべく硬そうな場所を選びジーンズのポケットに手を突っ込み
一度は火を付けたもののむせ慌てて消し返、短くなった煙草を口に咥えて歩く碧空。
中身は違うと本人が言い張っても。
雑踏道行く街人の其の目には異国の懶怠者が我らが人形御箱の街にやって来た。
嘸かし大きな厄介事を持ってきたに違いないと遠目に睨んで避けて通る。
「この街は地面が灰皿なんじゃないか?誰か片付けるんだろうな。ちゃんと!」
郷従い地面に投げてて捨ててもよかったが規律好きな碧空は辺りを見渡し
口焼き屋台の側にあった筒灰皿を見つけてそこに吸い殻を捨てる。
当然屋台の親父が睨むから礼儀だろうと指を一本立てて買い求める。
きちんと金札を渡すと代わりにビニール袋が一つ差し出される。
なんとも珍妙な商品である。飲み物であろうか?袋には黄色の液体が詰まってる。
無理に握らせられて袋の口にはカラフルなストローが入ってる。
困惑然りで親父を観ても手を振るだけである。これを飲めというのだろうか?
飲み物とはちゃんとした容器に入ってるものである。
しかして持つのはストロー一本入ったビニール袋。
果てと困って周りをみてみれば。若いカップルも三輪バイクに乗ったオジサンも
皆、ビニール袋を持っている。
どうやらこれでもドリンクの一種らしい。
安心しても良いのかと思い屋台親父の顔をみると
手をぐるぐると回しそれから呑む仕草が返ってくる。
「ほうほう。こうやって中身を混ぜて呑むのか・・・どれどれ・・・
あっ。旨っ。これ旨。」
思わず拳丸め親指を立て世界万国共通のジェスチャーをつたえてしまう
言葉がわからなくても仕草で思いが伝わるのだろう。自慢の商品を褒められ云々と
頷く親父。
「親父さん。通訳を探してるんだ。どっかにいないかい?」
掛けた言葉に屋台の親父が指をさし通り向こうでピカピカとやたら点滅する
看板を指差す。
「ありがとう。又来るよ。オジさん」
異国で初めて親しみを覚えた屋台の親父にもう一度指を立てて歩き出す。
甘酸っぱくもとろける香りを口中に残しギイと扉音と立ててはいった店こそ
異世界である。
先ずに後にも・・・
天井から生首が吊るされる。雑多物々転がる床の籠には手肘と足首がゴロリと入る。
女の胴体が壁に縄で括られ、穴が空いた尻に釘が刺さる。
それは屠殺場のそれと成る。
木板のきしむ床には目玉が転がり腸がうねうねと動き捨て置かれる。
もし時代と背景が違う昔人であれば悲鳴をあげて後付ざり逃げ出すだろう。
懶怠者の癖にホラードラマ等全く観ない怖がりな壱兵衛ならきすび返して逃げるに
違いない。
「良くと見れば人形とその部品の品々と見れるな。難のことはない。
店主人は居られるか?異国のもので言葉に難儀してるんだ。
通訳を紹介して貰えないだろうか?」
古びたカウンターの奥影でモソモソと手を動かしていた主人が異国の若者を
じっとも詰める。
言葉が通じてないと知れると口をパクパク動かしそれを指差す。
旨く伝わる良いなと願うばかりであったがそれを観て店主はポンと平手を打つと
人形首のた並ぶ棚から銀色の板を碧空をグイと突き出す。
「ウン?なんだこれ?・・・ああ。なるほど。雷電網の買い物と一緒ね。
こうやって・・・希望の条件を・・・いれて・・・文字読めないんだけど?」
渡された板は表面がスクリーンになっている。画面には色々項目もある。
人物像も判るように其の姿も顔と体の二つがありわかりやすい。
言わば仮想世界の買い物やゲームのキャラクター制作に良くにているし
既存感もある。
「ここは・これで・・こんなかんじで・・・あっ。違うか・・・。」
普段はお固い法規の仕事に身を置けばストレスも多い。其のはけ口と碧空は
ビデオゲームを良く好む。
「それにしても色々ないが人がいるな・・・通訳の仕事って人気あるんだな」
一人悩みながら自分の好みの人物を探す。
多少色欲が交じるのもしょうが無いだろう。
あれこれと悩み画面を弾きよくわからない文字を適当に読み飛ばし。
少なくても昼間の時間は長く一緒に居る事になるし。
それは好みが良いだろうと男性を選ぶ。
趣味趣向を優先させたのは周りに親しくも付きそう人形達がいない事も
影響しただろう。
ちょっとくらい自分の趣向を混ぜても良いはずだ。
「ちょっとわからない事もあるけど。この条件で通訳人を探して下さい。
お願いします」
差し出しそれを受け取る店主の顔がにやりとほくそ笑み碧空を観る。
なんとなく違和感を覚えるがそれは気の所為だろう。
多少ではあるが色欲が混じったとしてもそれは極わずかだ。
男性を求めても所詮は只の通訳である。
店主はカタログ板を覗き見ブツブツと呪詛を唱えながらも去り際に屠殺店の隅の
木椅子を指差す。
そこで待てという事らしい。
「時間掛かるなら連絡先お教えしますよ?」
声を掛けてみるが時遅し木造りの階段を三つ上り後ろ手で引いて大きな鉄扉の
向こう側に消えていく。
「人材派遣って大変なのかな?それとも稀有な仕事なのかな?
あと翌々考えてみると結構こわいな。人形って。」
片目に穴が空いた人形の頭にじっと見つめられる事、十五分。
それが三十分に成り・・・一時間・・・流石に不安になるが勝手に帰るわけにも
行かない。
人に頼み事をしたのだ。好きに勝手に振る舞うわけにはいかない。
弐時間がすぎると流石に飽きる。最初は怖いと思った人形頭に愛嬌さえ感じられる。
そして又時が重なり鉄の扉が開いてないと知ると碧空の瞼は勝手に閉じ微睡む闇が
落ちてくる。
・・・微かに頬を撫でる感触が伝わる。
微睡んでいるのだから良くはわからない。
それは研いだ指先の爪で力を加え押しつけ傷を付けてると言って良い。
研がれた爪が頬をなぞれば肌に筋が通り掠れた傷と成り薄血が滲む。
破れた頬皮膚を生温かい舌が舐め上げる。下から上へ。上から下へと
旅の緊張もあったのだろう。いつの間にか寝入った碧空の胸板を白い指がなでる。
獲物の味を確かめるように頬に付けた傷を舐め。
するりと手が伸びて碧空の股ぐらに触れ蠢く。
「醒来...看到...感觉到...。
(起きて・・・見て・・・感じて)・・・」
甘くも妖艶に餌となる蛙の前で大口を開ける妖蛇の様に・・・
頭の中に声が響き届く。
ベロリと頬を舐められる感覚がぞわりと伝わり。ふと其の気配が消える。
同時にカチャカチャと腰回りで音がすると暖かく濡れる感触が這いずる。
「哦...这是我的。 这是我的。 我的...
(ああ・・・私の物。私の物。私の・・・)」
細くそれでも深く漏れるため息の恨言葉の様に喘ぎが漏れる・・・
「ひゃっほう!!・・・なんだ・・・」
雑多転がり周りにある人形部品のせいだろう。碧空が視た夢は悪夢である。
自分の体が小さくなったのか?将又、まわりが大きくなったのか?
背の丈何杯も生い茂る草むらで一際大きな大蛇が真っ赤な大口を開けて
襲いかかってくる悪夢だ。
「な。何が?起きてるんだ。え?え?え?」
冷や汗が体を濡らし頬にぴりぴりと痛みも疾走る
「很高兴见到你。我亲爱的主人。我是属于你的。但你也是属于我的。
(初めまして。私の愛しい御主人様。私は貴方の物です。でも貴方も私の物です)」
耳に届く声は女性のものである。しかもそれは異様な情景である。
いつの間にか寝入った碧空の脚元に下着だけでうずくまり腰のベルトとジーパンの
チャックを勝手に外しボクサーパンツの上からと言え碧空の一物に
口を付け舐め濡らしている。
まるで当然の事であり自分の権利で或るとばかりに小首を傾け碧空を
まっすぐに見上げる。
「大陸覇語か、倭ノ帝國標準語でた、頼む。望ましいのは後者だ。
出来れば。声を抑えてくれ・・・説明して・・・・貴方は誰?
どうして此処に?・・・」
「我已经被录取了!・声音变化调整・语音质量调整......完成
承りました・音声言変更調整・声質調整・・・済」
「あ。わかった。理解出来た。助かる助かる。さすが通訳者だな」
「私は通訳者では有りません。
台椀朧蝋月の國・人形御箱の街・三体蝋人工房制作・娼婦型蝋人。
登録蝋人名【词语】と名乗ります。所持者は馬酔木碧空で御座います。
チェンジも返却も受け付けられません。
なにせもう。ちょっと味見しちゃったし・・・ムフ」
「なんで蝋人何だよ。僕は通訳を頼んだんだぞ?此処にいるって聞いて。
しかも男性を頼んだんだぞ?そうだよ。僕はゲイ何だよ!
なんで下着姿の女性が出てくるんだよ。」
「・・・色々と誤解があるようですが?碧空様。
此処は情婦の住まう人形御箱の街なのですよ?客は地元のや同国の男達。
碧空様のような異国人はめったに来ません。
偶に観光客が迷いこんでも娼婦遊びか犬の餌にされるだけですよ?
発展的思想のお國では良いかも知れませんが文化遅れのこの地で漢色は
縄で括られ三輪バイクで引き回しの系です」
「そうなのか?それにしてもまだ。わからん。確かに・・・僕は・・・」
「カタログ板で選んだのは男性であったかもしれませんが。
いろいろまちがってましたよ?
男性体で有りながらDカップの乳房がをつけろとか。アレは前後に二本つけろとか?
ちなみに私はEカップです。此処は譲れません。
とにかく悩んだ工房主様が正しく訂正して私の体を作ったのです。
魅惑で御座いましょ」
「確かに・・・あの壱兵衛ならこの場で押し倒してるだろう。しかしこの状況は?」
ゴタゴタと長く説明を求められる間も蝋人・词语は下着の上から碧空の
アレに指を這わす。
「私奴も生まれてはじめての命令が咥えろとはおもいませんでしたの」
真っ直ぐに真剣に碧空を見つめる。
「いや・・・。僕はそんな事一切して・・・・して・・・・
してる・・しちゃってるよ。」
人材斡旋の店主と思っていた店主は正しくは蝋人作りの職人だった。
しかも此処は色恋沙汰の人形御箱の街。
口元をパクパクさせ指差せば。それが通訳をしめすなど発想なくて当たり前だ。
証拠に店棚の奥で様子を伺っていた店主が口をぱくぱくと動かし指を
さしてにこやかに嘲笑い告げる。
「どうだ?良いだろう?逸品であろう。
渾身である。渾心の一作である。ぐふふ。このスケベやろう!と
おっしゃております」
自分の作品の仕上がりに満足してるのだろう。満面の笑みを浮かべ
丸っこい予備でVサインを作って魅せる。
「とほほ・・・なんてこったい」それでもなんとか無理に嘲笑って
親指を立て礼と返す。
「人形って思ったよりも安いのかもしれないな。
それより词语だっけ?もうちょっと大人しい服はないのか?すごく目立つぞ?」
「此処は色街娼婦の街。碧空様に釣り合うとなるとこうするしか有りません。
蝋人の値段は御國とは違います。物価の違いで御座いましょ?
さて。準備できました」
にこやかに微笑むとするりと碧空の腕に手を通して握りしめて並ぶ。
確かにそれは背の高い異国異人に寄り添っても平凡には見えないだろう。
黒く伸ばした髪を後ろに流し前髪はボブにカットし大人の雰囲気となる。
湿気濡れる街風なのに素肌を晒し黑のブラシャー一枚。
かと思えは黑皮輝るコルセットで身を締める。
同じく黑布のパンティーにレースのガーターベルト。
シースルーのストッキングに紅いエナメルのピンヒール。
最後の上に春のは白跳毛の羽で覆ったショートジャケットとなる。
何処からみても。誰かが視姦みても人形御箱の街の情婦。其の一人である。
「少し風も冷たくなって来たかも知れませんね。」
証を立てると言い切って旅に走った碧空事壱兵衛。
未だ戻らずの其の姿を胸に秘めるが体は疼く。
それでも粛々淡々日常は漂っていく。相変わらず薄着のままでTVの前に
陣取る静流梅。
「偶に体を動かしたほうがよろしいのでは?静流梅さん」
「う~~~ん。面倒くさいしぃ~~~。なんか色々つまんない」
「あらあら。御主人様に言われれば喜んで腰ふるくせに」
ちょっと嫌味交えて軽口を叩く。
「複雑なのよ。ちっちゃいから・・・満足できないしさ。
姉さんこそいい人出来たんでしょ?心咲ちゃん服の好みとか変わったし」
「そ、それは言わないで欲しいわ・・・」
心苦しさに暗く視線を堕とす忍の脚元をスルリと何がが通り過ぎる。
「あら?それは・・・何処から入ってきたのかしら?」
【それ】と忍が指して示したのは猫である。黒い猫で有る。
「あ、可愛いぬこちゃん!。でもどっかふてぶてしいかな?」
自分が話題に上がったと知ってるのか忍の顔を見あえげて【にゃぁ~】と鳴く。
「可愛い猫さんね。さっきベランダに出たからその時かしら。」
【にゃお】まるでそうだとばかりに忍の疑問に答えるとぴょんと後ろ脚を
蹴ってソファに昇る。
「サイベリアンじゃないかしら?ロシア生まれよね。」
忍の方を暫く見ていると猫はもそりと動き出し静流梅の太腿を踏んで歩き隣に
陣取り不貞寝する。
「この子?なんか変よ?忍姉さんの顔はみつめた癖に、私は素通りよ?
通り過ぎる時アタシの横乳チラ見したわよ?弐度も?
それに其の場所って壱兵衛の場所よね?壱兵衛そっくり。いけ好かないわ」
「気のせいよ?猫でしょ?でもちょっと雰囲気あるわね?なんとなく・・・」
「ふん。いけ好かないわ。ぬこなんて嫌い」
人形達の会話にも興味なさそうに腹を向けて人様の家で勝手に寛ぐ黒い猫。
「う~~~ん。なんでこいつが此処にいるの?夕食も此処で食べる気なの?
此奴。しかも何で名前がついてるのよ。」
「色々ためしてみたの。マルとかチビとか・・・」
「そうなのです。でも壱兵衛って呼んだら耳がピクリって動いたんです
でもそれじゃ良くないって考え十兵衛って呼んだらちゃんと向くんですよね」
差し出された萌奏の指をザラザラの舌で舐める十兵衛。
「なんかふてぶてしいわぁ~~~。目つきわるいしぃ~~~」
自分も眉をあげて睨む。
「まぁ。いついちゃったのはしょうが無いし暫く飼ってみましょう」
機嫌がいいのだろうか?それともおやつをねだったのだろうか?
【みゃぁ~~】と一つ黒猫十兵衛な特有の声をあげてみせる。
夜へと扉が開いていくと他の土地とは違い人形御箱の街は騒然と人が行き交う。
「宿に帰る前に一度街を見ておきたい。腹も減ったし」
告げる碧空を該当の下に押し止め词语が屋台店に向かう。
街灯の下で人待ちに立っていれば。何処からが視線が飛んでくる。
「そんな街灯の下で立ちんぼしてると情夫と間違われますよ?碧空」
コツコツとヒールの音を鳴らし尻を振って词语が戻ってくる。
其の姿には似合わない茶紙袋を胸に抱く。
「誰が情夫っだって。どう見ても・・・えっ?本当だ?みんな此方見てるし」
慌てる碧空。
「異国の情夫だったら誰れでも食べて見たくなるでしょ?
少しは自覚して下さいな。」
一人だと見えた碧空の側に词语が体を寄せ自分が付けた頬傷をべろりと
舐め上げて魅せつける。
この漢はアタシの物だと宣言したのだ。そうと知れると刺さる視線がぱっと消える。
「ひゃっ。何するんだ。词语。人前でそんな事するな。淑女らしくしたまえ」
「私は情婦ですよ?仁義は守っても淑やかなんて出来ませんよ?
それにアタシが付けた傷ですよ?アタシの物って証ですの。
それでもばい菌履いちゃうのはよくないですしね」悪戯ぽく嘲笑うと
紙袋から絆創膏を取り出す。
「結構痛いぞ?ひりひりするし。痛っ」技と乱暴に大きめの絆創膏を頬に貼り付け
文句を吐く碧空の口に好きな銘柄の煙草を突っ込む。
「これで様に成りましたでしょ?異國人の懶怠者様。
目当ての場所はすぐ其処ですよ」
咥えささた煙草に火を付けなのはそれで咽ると知っての事だろう。
スルリと体を回し腕に手を通すと碧空の体に身を寄せ促し歩き出す。
異國風情の背の高い漢と寄り添う情婦。二人の姿にどっちの尻が好みかと
漢と女が熱を視線を刺していく。
「噺さないといけない事は多々と或る。
それでも大事なのは証を立てる事。それもよくわからないが・・・。
人形御箱の街の女を救えと妾の侍が言い捨てた。
それを成すために僕は此処にきたんだ。」
「妾侍?女ですか?漢ですか?言葉に矛盾がありますね。
証を立てるのと意味は解りますが。この街の女を救うと言うのは無理がありますよ?
よっぽど酔狂な注文で御座います。余計な善意の押し売りは避けたほうが良いかと」
さして寒くもないのにピッタリと体を寄せ尻を振りながら
コツコツとヒールを鳴らす词语。
その白い手が上がって指差す情景。
「其処が人形御箱の街・名物。蝋人御箱の檻橋で御座いますよ。
特とお楽しみあれ。碧空様」
「なっ・・・?」それ以上の言葉を失う。
词语が指差した先の情景は異國に済む碧空にとって異質の世界そのものである。
もともとは街を横切る大きな河であったらしい。
昔人達は当然生活の為に橋を掛ける。其の頃の名前を覚えてい人など。
もういないだろう。
当時から貧しい街人が集まり暮らす地区ではあったが少しづつ商売が始まる。
始めは屋台とか食堂とか。それもすぐに消えると悪党達も寄ってくる。
悪党共が巣食えば商売にも成る。彼奴等は勤勉でもある。勿論営み飯を食うために。
阿片や麻薬が持ち込まれ女達が体を売り始める。其の頃橋の隅に立てられた小屋。
情婦達は小屋の戸口に立って客を引く。
一つ二つと小屋が並べば女が立って体を売る。
いつしか時が流れて現代と成ってもその姿は変わりない。
粗末な小屋がガラス張りの部屋入って客に媚を売る。
橋の此方から向こうまでずらりと並んだガラス張りの部屋と部屋。
情婦達は着飾り綺麗に装飾されたガラス部屋のなかで思い思いにすごして客を待つ。
詰まらさそうにいつまでも携帯を弄って過ごす者もいれば。
辺りの目を気にせず眠る者。
温麺を啜りながら客が前を通ると愛想を振りまき客がそっぽを向くと又麺を啜る。
そのうち何人かは熱心に客の気を引こうと薄い衣服で身をくねらせたり下着の奥に
指まで入れる娘も見て取れる。
「箱の中で客が来るのを待ち。交渉が纏まれば外に出る。
一つ仕事が終われば又、部屋に戻る。
・・・それから熱心に身をくねらせてるのは人形。つまりは蝋人だな」
「ご明答。懶怠者の割には頭が回りますのね。
確かに人種の情婦の方には事情があるやも知れません。
そうは言っても好きでやってるのでしょう。
察しの通り私の姉妹は好きでやってる所か望んでやってるのですよ。
それが主人への愛と奉仕ですから。
其の女達の何を救って証を立てるのです?余計なお世話で御座いませんか?」
不意に词语が咥える煙草に火を灯す。反射的にそして紫煙の味に惹かれて息を
吸い込む。
「げっ。げふ。理由はあれどそれが持ち主。
箱の持ち主。自分の主人への忠義と愛だと言うのか?
そんな・・・主人の為に他の漢に体を預けるのか・・・」」
其処まで言って碧空は口を閉じる。
自分だってそれと同じ事をしている。自分ではないがその体の持ち主壱兵衛が
人形姉妹に客を取らせ
シノギと言って金を作ってる。嫌悪すべき事ではあるが。
自分もそれと同じ狢で有る。
それだけじゃない。それでも忠義と奉仕に答え絆を結び抱いてやる壱兵衛は
自分より遥かに立派な奴だ。
あいつは悪党稼業の懶怠者だがきちんと自分のするべき事をわきまえている。
なのに碧空自身は尽くそうとする忍を邪険にし自分の趣向がゲイだからと
他の者も遠ざけた。
最後には好きに勝手に國を飛び出し絆をも薄め切ろうとしている。
人形も蝋人も主人との絆が薄く遠くへ行ってしまったのならどうなるんだろう?
仕える主人に手が届かず消え行くお想いはどうなるんだろう。
そして・・・証を立てるとは何だろう?女を救えってどうやるんだろう?
「や・・宿へ帰る。腹替減った・・・」
「ハイ。碧空様。ホッカホカの肉汁饅頭と冷めて冷えた青汁野菜饅頭
どっちにします?
ちなみに温か~~い肉汁饅頭は私奴のもので決定ですの。」
屈託のない笑顔で袋から青汁野菜饅頭を無理矢理碧空の口の中に突っ込む词语
「御前。ずるいぞ。主人は・・・モゴモゴ」
「湿気た面なさってるからですよ。異國風情の懶怠者様ぁ~~~」
自分だけ温かい饅頭口に咥え疾走る蝋人词语を慌てて碧空が追いかけていく。
「大きさも形も素敵なのです。特に匂いとか好物で御座います。
しかし。体力とテクニックは花丸赤点。20点で御座います。碧空様」
「無理。無理。もうむり・・・だ・・・」
二つ星ホテルの部屋に返ってきた。蝋人の腕っぷし全開で碧空を词语が襲う。
「大体・・・僕はゲイだぞ。入れる相手も其の逆も漢だぞ?
女性なんてないに等しいだぞ。得意なのは壱兵衛のほうだ」
「経験が少ない?ど・・・ど・・・童貞だったんですか?
私が初めてだったんですか?
最初にそうってくれればもっとたのしめたのに。でもでもこれからですよね。
私が教えてあげます。たっぷりと!」歓喜に顔をぱっと輝かせると词语は
また腰を振る。
新しく買い求めた蝋人词语との初夜のまぐわいが済んだ翌日。
遅くまで寝込んだ碧空はやっと起き出し夕方近くに
蝋人御箱の檻橋の近所の飯屋の椅子に腰を下ろす。
人種のそれも蝋人の娼婦もよく集まり仕事の合間に腹ごしらえにやってくる店で
賑わうが逆に一般の客は脚を運ばない。行ってしまえば娼婦達のたまり場だ。
店の作りは質素だが饂飩と握り飯が旨い。店の名は漢蛇。
なんとなく碧空はそれを気に入った。
「先ず一つ。聞きたい。词语。
あの箱の中で仕事をする女達が事情があっても。
又、大小差異はあっても好きでそこにいるのは理解した。
納得は出来たでないけども。
それでいて。もしその日の稼ぎが少なかったらどうなるんだ?」
「人種も蝋人も情婦でありますよ。結局商売ですから稼ぎが悪かったら
主人・持ち主が怒ります。人種なら魅入りが削られますし
。蝋人なら主人の寵愛が減って行くでしょう。
とても悲しいことですね。」邪魔に成る横髪を手で抑えズルズル
と大きな音を立てて饂飩を啜る词语。
「ぼ・・・僕が彼女等の相手をしたら皆喜ぶか?」
随分と真面目な顔で箸を止めて聞く
「それは私の前で浮気してやると宣言してるのでは?
あとでゆっくり話し合いましょうね。碧空様。
それでも皆は喜ぶとおもいますよ。良い漢だし客が増えれば魅入りも
寵愛も増えるから。
でもでも。碧空さまのテクニックと体力じゃ・・・でも。なんでそんな事?」
「これが答えになんかならないさ。そんな事はよく分かる。
ただ。昨夜の僕は情けなすぎる。修行が必要だ。
良いように扱われてしまうだけは悔しい。
経験不足を打破しないと。女の事を知らずに救えるはずもない。修練が必要なんだ」
懶怠者の風体の癖して根は真面目な碧空の声はよく通る。
それこそ漢蛇の店中に良く響く。
「我是安林。丈夫。 我将是第一个对付你的人。
(私は恩凛。旦那。一番最初は私が相手します)」
店に響いた声に最初に答えたのは少し小柄な蝋人情婦だった。
化粧が濃いのは仕事柄だろう
「言葉は倭ノ帝國噺言葉で頼む。幾らなんだ?」
「はい。旦那さん。お安くしておきます。半分が40玄最後までが90玄。
お代わりが30玄です」
「と・・・とりあえず最後まで。次もあるからお代わりは控える」
印を踏んだ言葉の意味は理解出来ずもなんとなく雰囲気は判る。
「はい。旦那様。行きましょう」
碧空の握る箸を無理に取り上げ強く碧空の腕を引く。
「がんばってぇ~~~。碧空様ぁ~~~」
饂飩具の鰊の半身を咥えながら词语は顔の横で小さく手を振る。
「おっ。おう。行ってくる・・・。」小柄な情婦に手を惹かれ御箱へを向かう碧空。
自分の情事相手が他の女と歩けば気持ちも曇る。
トンと卓の上に小鉢が置かれる。それの中身は词语の好みの蛇華卵の二つが入る。
見上げれば化粧は薄いが胸の谷間を大きく開けた薄黄色に髪を染めた情婦が微笑む。
賄賂である。次は自分を買ってくれるように促して欲しいとの心付けであった。
「むり・・・。こし・・・痛い・・・。二人くらいで収まめようとおもったのに
一人増えた。この後。御前とするとなると気が重い。
・・・休みたい。否。休ませて。词语ちゃん」
「可愛く言っても駄目でございます。何より自分で言い出したんですよ?
修練したいって。あと小鉢とお握りおいしかったので・・・ププのプ」
「お。御前か?御前がふやしたな・・・腰が・・・」
修練と言って女を買ってみたのは良いがやはり基礎体力はあっても経験が
足りないのだろう。
おもったより腰を使いすぎて痛む。
それでも嬉しそうに尽くす蝋人情婦の笑顔が記憶に残る。
これが証には成らないが少しは役にたったのかもしれない。微睡む意識の其の中に
「本番はこれからですよ?碧空様。」
妖蛇の様に词语が嗤い大きく脚を開いて碧空に跨る。
人形御箱の街の夜も深ける。
飲食店の料理煙が大地に漂いしっとりと濡らす。
いつの間にか小雨雫も落ちて居るのだろうか?
妙に夜霧が濃い様で肌にじっとり纏わりつく。
働き口の界隈で最近話題の漢が居る。
この國はで珍しくすらりと背が伸びる異國風情の漢だ。
御国では懶怠者とも呼ばれる悪党野郎と口にするがこの街の悪党比べえば大人しい。
女も殴らず喝上げもせず。もっとも殺生も禁呪と嫌うらしい。
何をするかと思えば夕方に宿から人形御箱の街の漢蛇の食堂に顔を出し。
娼婦達と談笑しながら硝子筒に穴熊蛇の卵を五つと醤油を混ぜて一気に飲み干す。
「精を付けないと体が持たない。あと腰いたい。今日も痛いぞ」
と聞き慣れぬ言葉で叫ぶと
そのままの勢いで女に手を惹かれ檻箱へ歩いて女と楽しむ。
食堂に屯する情婦から常に二人選び。残り二人は橋の上を自分で歩いて選ぶ。
顔と体は良いが情技はいまいちで時間もあまり長くない。
それでも毎夜檻箱の街に通い女と遊ぶ。変わった漢と皆が言う。
情婦達には評判も良い。顔は美形だし優しくもありそして心情を注いでくれる。
いつしか人御箱街の若旦那と人も呼ぶ。
コツン。コツン。と岩床に安物のヒールの足音が割れた。
何処のなく拍子をくずした其の音は一人の蝋人情婦の物だ。それが止まる。
グラリと上半身が揺れドスンと肩が店裏の壁に打つかり寄りかかる。
何か薬でも盛られたのだろか。
ふらふらと泳ぐ目を白い手でゴシゴシ擦り厚ぼったい唇から垂れる涎を拭う。
なんとか腕に力を込めて体を支えて歩き出す。ふらりふらりと・・・。
カチャン・・・。
裏路地で音が弾ける。
少し遠くの場所である。しかもかなり高い位置。
カチカチ・・・。
音を鳴らしてそれは目を覚ました。
流れ込む文字の羅列に興味はない。どうせ位置はすぐ判るから。
ぐるぐると左右の目を別々に動かし欲しい物を探す。
料理屋の煙と霧雫のせいで思ったよりも時間が掛かる。
其の時間を数えるなら0.7秒。
動く目が止まると自動で獲物の弱点が示される。
それもまた無視する。もう何度もやって来てるのだ。
何処をどうすれば壊れるかなんて見なくても判る。
カチャン。
重力に抗い体をビルの壁に留めて置くための指先を無理に引っこ抜く。
途端に重力法則がそいつの体を掴み地上へと堕とす。
一瞬、宙に体が浮く瞬間がそいつは好きだった。二番目に。
ドンっと岩床に穴が空き石板が弾け跳んて辺りに散らばる。
そいつは前に跳ねる。風が鳴く。耳元で風が鳴く。
疾風纏ってそいつが疾走る。
ぐんぐんっと獲物が迫る。視界の中に蝋人情婦の立ち姿が映る。
そいつが握る鐵槌が唸る。円を描いて唸る。
ゴンっと鈍音が響いて情婦の頭が陥没する。弾けた部品が藻屑と散る。
ゴンっと音が成って情婦は壁にその身を打ち付けズルズルと床に崩れ堕ちる。
「こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ」
既に絶命し部品も脳核液も銀血さえも辺りに飛び散ってるのに
なおもそいつは情婦の頭に鐵槌を何度も振り下ろす。
「こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ・こわれろ」
呪詛のそれの様に何度も呪言を繰り返すそいつ。
ギンと紅く目が光を帯びる鐵槌を振り上げる其の姿のピタリと止まる。
紅い光が瞳のなかで消えてなくなる。
何処かで誰かがビルの上でそいつを見つめる。高揚してるのだろうか?
あるいは興奮そのものなのか?
小刻み体を揺らし一度猛ると姿勢を直す。大きくため息を付いたかと思えば
黒革の手袋の携帯画面を指でゆっくりと押す。
出来るだけ時間を掛けてゆっくりと・・・。
ボン。と周囲に炎が弾けそいつの頭が弾けて飛ぶ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます