Vigilante.No.ⅱ【厄災】

玉遊びの勝金を路地裏の窓口でで換金すると財布を忘れて来た事に気づく。

いつもなら出かける時に忍か地味な心咲が声を掛けるか慌てて財布を握って

追いかけ走ってくるからだ。

今日はタイミングが悪かったらしい。客の元へと皆が出払い。

革張りのソファでTVの昼ドラを横目にポテチの袋をからのに熱中する静流梅

しかいなかった。

「あいつは俺に興味ないしな」なんとなくもそれが解ってしまうと心が濁る。

他の3人が過剰なまでに壱兵衛に愛情を注ぐからだろう。平坦な態度が余計に

鼻に付く。

壱兵衛自身も最近は最低限の言葉をかけなく成ってきてるし。

シノギとしての売上も良くはない。

それはそうだろう。静流梅は壱兵衛だけではなく客の名前も呼ばず求める事を

断固断る事も辞さない。

そう躾られ言いつけられているのだから仮の主人でしかない壱兵衛に諌める事は

出来なかった。


「まぁどうでも良いか?惜しいけど諦めるかぁ~~~。他にもいるんだし」

壱兵衛は極端でもある。自分の中でそれと決めれば切り離しが出来た。

好きな物には極端に執着するが。一度切り捨てるとばっさりと切り捨てる。

自分の思いと心内を切り離してきっぱりと区別が出来た。

思いかけず手にしたあぶく銭をジーンズのポケットに無理に詰め込め高い背を

丸め商店街をぶらつけば七と八歩くらいの前を歩きその肩に揺れる黒艶の

髪の女性にふと気づく。

後ろ姿だけなのに妙に艶っぽく色気の香りを漂わせ壱兵衛の前を歩く。

自分のアジトに変えれば好きなだけ人形を抱ける。一人と言わず二人でも。

今さっきだって午後に学園帰りの萌奏を制服のまま犯して白濁を無理に

呑ませもしてる。

それなのに壱兵衛の一物にゾワゾワと血流が溜り猛ろと疼き出す。

(後ろ背だけでこんなに猛るなら・・・)悪い癖と知っても辞められない。

今すぐにでも後ろから手を伸ばし膨らみ揺れる乳房を嬲りたい。

湧き上がる衝動に興奮しつつも。相手は素人衆と自分に言い聞かせて黙る。


代わりに信号で止まった女の脇にそれとなく並び立ち。横目で容姿を盗み観る。

年の頃は三十の半ばへと脚を踏み入れる頃か?それでも端正な顔つきで美人だ。

厚ぼったいその唇が自分の一物を咥える様を思い描くのを我慢できない。

それと知ってか知らぬのか・・・。

青く信号が変わる瞬間に濃茶色の皮鞄を持ち替え細い指で髪を鋤きサラリと

風に流して歩き出す。

一歩遅れるも早足で追いかけ更に前へと歩き追い越す瞬間に女の体を視姦する。

夫がいるのは間違いない。指に光る銀色の煌めきがそれと知らせる。

一際大きな乳房は急ぎ歩く勢いで揺れる。

キュッとしまった腰の先で膨らむ薄花柄のロングスカートの中で尻が大きく揺れる。

隠す四肢には張りがありコツコツと叩くヒールの音さえも音の欲を誘う。

観れば女の後ろを歩く中年サラリーマンが揺れる尻に見とれ。

向こうの若者はあからさまに指を指す。

此処で黙れば懶怠者としても漢なりとも。

この女は俺の物だとばかりに左手を宙に掲げ。パチンと音を立てて弾いて魅せる。

突然。響き渡る指音に気づき驚き我に帰った下賤な輩は気まずく視線を反らしそそくさと散っていく。

(まぁこんなものだろう。所詮は交わらぬ。素人衆と懶怠者だからな。

縁も縁えんもゆかりもないと知る)

既に横断歩道を渡りきる壱兵衛も足早に手近な屋台へと体を向けて

夕方の商店街へと姿が溶けていく。


「忍姉さん・・・。無視されたの。私に興味ないの。あの人」

言いつけられた仕事を終わらせ帰宅した忍の元にソファから1段飛びで跳ね飛んだ

静流梅が詰め寄る。

「ど。どうしたって言うの?静流梅ちゃん。つっけんどんなのは最近いつも

でしょ?」

「違うの。私待ってたの。今日はみんなお仕事だったでしょ?だ

からチャンスだと思って

私、ノースリーブでわざと生乳で待ってたの。なのに。なのに。

ちょっと横乳視ただけでプイって

横向いちゃって。さっさとでかけちゃったの。その前には萌奏に呑ませてるし」

「気のせいじゃないの?アピールが足りないとか?」

詰め寄る静流梅の体を押し返しながら告げる。

「そんな事ない。昨夜だっておにゅうのキャミソールでポテチ食べでたし。

わざと見えるように薄手のバスタオルだけで前を横ぎったのよ?

なのにあの人って素通りよ?

嫌われたのよ。絶対。私捨てられるんだ・・・。グスン

」激しい剣幕で喚くと思えばくるりと表情を変えて泣き出し忍の胸に顔を

埋める静流梅。

「困った子だわねぇ~~~。ともあれ御主人様の心内だしなんとも・・・」

「意地悪。意地悪。忍姉さんの意地悪ぅ~~~。帝國湾に身投げしてやるぅ。

泳げげちゃうけど。得意だし・・・」

泣いて止まないポンポンと頭を撫でて慰めるとドアがバタンと弾かれ壱兵衛が

帰宅する。

「今日は臨時収入があったからすき焼きにしようぜ。材料買っていたから。

仕込んでくれ。忍」

飲めないくせに多少の酒をも飲んだのだろう。ほろ酔い気分で声を壱兵衛。

壱兵衛がドアを開けた途端に又一度跳ねソファの上に飛んでいき興味なさげに

子供用のアニメを見入る静流梅。

「やれやれ。意地らしい人形心と天然懶怠者漢の恋路って厄介で御座います」

多少なりとも自分に責任もあると言うのを忍は棚に上げ台所へと脚を運んでいく。


週に二度。壱兵衛には素っ気得なく客受けも平凡な静流梅に贔屓が注文が入る。

結構互い時間なのに料金は注文時に電子金で払われるから壱兵衛も文句は

言わない。

事が終わりアジトでシャワーを浴びる静流梅の背肌に紅く筋の跡が残っていても

壱兵衛は眉一つ動かさない。

朝食や夕食はみんなで食事するから顔は合わせる。かと言って自室にも籠もらない。

リビングで壱兵衛が他の人形を抱いているときでも空気の様に只TVの前で

ポテチを漁る。

以前にもまして互いの距離をが離れているのに互いがそれで良いのだろうと

捨てて置く。

距離も心も離れたと知っているのに心に穴も空きもせず、

すれ違いも互いに良しとしてるのだろう。

一度離れた心と縁が交わることはないと良くも悪くも悟っているが溝を埋める互いに成す事はないとも知れていた。


「なぁ~~~。人形の仮登録って解除出来るのか?」

今となっては日課と成る学園から帰ったばかりの萌奏の股を大きく開かせぐちゃりと一物を突っ込んで聞く。

「あん。御兄様たら。今日もいきなりなんて・・・仮登録の解除はできますよ。

んん・・・静流梅さんですか?」

「まぁ~~~。そうだな。あいつは俺に興味ないしな。ちゃんとした主人が

いるのなら。それが良いだろ?」

「あん。お、奥に当たるの。あたっちゃうの。御兄様の長いの・・・」

ぐちゃぐちゃと一物に突き上げられ旨く頭が回らないのだろう

「それで御兄様が良いのなら。でも寂しがるかもですよ。・・・

もっと突いて。御兄様」

「そんな事ないさ。あいつは俺より誰かが良いんだよ。・・・此処が良いか?」

「そ、そこ。もっと。もっと。あん・・・」酔いしれ喘ぐ萌奏の中に吐き出しても

気分も晴れない壱兵衛でもある。


「女の事で悩むのは良くて悪くても煩わしくても、それは贅沢で或る」

元は拳闘士で背も高い壱兵衛を見上げて若頭が言い捨てる。

「半分は仕事ですよ?税金(上納金)も上がりそうですし・・・」

サラリと嫌味を言ってやる。

「まっ。そんな事はどうでもいい。人形の件だ。御前に忍を取られたからな。

あの尻はたまらん・・・いや。そうじゃなくって。彼奴等のシノギは上場だからな。

規模を大きくしようと思ってる。何人か増やして別の奴に任せようとな。

ついでに俺の分もな。それで色々手はずも整えて置きたい。御前、下見して来い」

「えっ、俺がですか?これから直ぐですか?違いますよね?

あっ。そうなんですか?」

言うだけ言ってむっと黙り茶封筒を突き出す。

自分の分の人形を下見して来いと暗に言ってるのに壱兵衛は惚けてるのか

馬鹿なのか。

「とりあえず。行って来い。寧ろ行け。さっさと行け。うすらとんかち」

一人で勝手に癇癪を起こす若頭をほっておいて仕方なく壱兵衛は組事務所を

出ていく。


「面倒くさい。用事が或るわけじゃなんだけども・・・」

何か言いたそうであった頭の事を頭から追い出し覗いた茶封筒を除く。

それなりに分厚い札束とメモが入っている。メモには人形を扱う闇業者の

名前と住所が書き込んである。

「行くしかないのかぁ~~~。面倒くさいんだよなぁ~~~。雑用ってぇ~~~」

陀羅しない声を上げるも肩をも落すも書かれたメモの場所を携帯で探す。


胸に閉まった茶封筒の中の札束。

自分のものじゃないから玉遊びに使うわけにも行かない。

余計につまらなく腹が立つとイライラと歩く内に薄暗も妖しい裏路地の更に

面妖な店にたどり着く。

「こんにちは。組の上から頼まれて下調べにきたっす」

いつもの様に軽口を飛ばし古びた地下の扉を開ける。

「いらっしゃい。頓馬さんの組からかい?あの人は注文が多いんだよね」

狭い地下室に雑多に並ぶ部品と道具。返った声の主を探せば顔を上げるのは腰の

曲がった御婆ちゃんだ。

骨が見えそうなくらい細く筋張った手と指。握る手の先は歪に曲がった杖を付く。

腰も曲がり脚も悪いのかもしれない。爺ぃ婆ぁと言うのは容易い。

「大丈夫ですか?御婆様。不自由してるとかないっすか?俺に出来ること

って有るっすか?」

「口先だけなら何でも言えるわい。老い先短い御婆を誂うんじゃないよ。若造め」

「イヤイヤ。俺は違うっすよ。婆ちゃん子だったんで。本気っすよ。

脚揉みますか?」

「その辺にしておくれ。押し付けられる親切ってのは要らない。

ほんとに気持ちが有るなら。偶によって話相手にでもなっておくれ。坊主」

「オッケーっす。出来るだけ顔出すようにするっすよ」と胸をはって頷く。

「何処まで本気なんだろうねぇ~~~。期待しないでおくよ。

どれどれ仕事だね。頓馬の坊やの注文は煩くてね。手付はあるかい?」

骨張った指の婆さんはどうやら人形技師らしい。

長い時間それを生業ともしてるだろう。

壱兵衛から見れば若頭の頓馬も相当なオジサンだ。

婆さんにとって頓馬も自分も同じ坊やらしい。

「手付なら此処に。結構ありますよ?はいこれです」茶封筒を取り出し渡す。

人目も気にせず指を舐め濡らし封筒の中身を確認するが、顔が渋く曇る。

「足りない・・・約束と違うよ。坊や?此処まで手を駆けたんだよ?

こんなの手付と言わないよ。小童の小遣いにも成らないじゃないか?

貴方の組ってのは婆一人の財布も膨らます事出来ないのかい?いい加減におしよ」

機嫌が悪く成った所か壱兵衛を追い出し戸口の前で塩でも撒いて捨てる勢いで

曲がった杖を振り回しポカポカと壱兵衛の頭を殴る。

「婆さん。ちょっとまって。御婆ちゃん。ちがうっすよ。俺は使いですって。

雑用係ですって」

「ふん。どうせ同じ穴の狢だろ。約束一つ守れない懶怠者の癖に」憤慨すれば更に

杖を振り回す。

「解りました。わかりましたって。手付ですよね?手付。お、

俺がなんとかしますから」

「いい加減な事言うんじゃないよ。雑用係なんだろ?そんなに懐が温かい

っていうのかい?

そこまで言うんなら。見せてやろうじゃないか。その奥だよ。覗いてみな」

勢いに任せて言葉形にしてしまったが。そう言っても嘘でもない。

事実。壱兵衛はの仕事は順調で動かせる金もある。

約束の金額がどれくらいは知れぬがなんとか成るだろう。

「まったく。年の割に元気な婆さんだ。どれ・・・?

此処っすか?この向こうっすか?」

振り回わす杖を納め体を預け怖い顔で睨む婆さんに押され示された

扉の取手をつかむ。

覗き込んだドアの先の奥で身を隠す人形を見つめる。

三秒もしない内にパタンと扉を締める壱兵衛。

「婆さん?封筒の中に幾ら入ってました?」

真剣な顔で聞く。渋い顔をしたまま骨張った指が一本立つ。

「十っすか?百っすか?・・・え?まさか?本当に10万なんですか?嘘だろ?

この人形を10万の手付で済まそうっていうんですか?」

壱兵衛は驚愕して体が下がりドアにどんとぶつかる。

闇商売だから商品の金額は水物と言っても良い。時に安く時にべらぼうに高く付く。

それでも相場はあるし口約束でも約束だ。守って当然が悪党稼業の懶怠者の世界だ。

「100万でどうっす?手付け100で」

「悪くない。悪くないけど男気がないね」ニヤリと口元を歪め瞳に光を宿す婆さん

「なんとまぁ。強欲な婆さんだ。300。否・・・500で」

「お前さん。男前だね。私がちょっと若ければ・・・・もう一声」

「強欲婆さんめ。手付なしの1000万。現金で払うっす」

「売った。若いの。イケメンだね。おまえさん。即金ならそれで売ってやるよ」

「漢に二言はないっす。1000万で買うっすよ」売り言葉に買い言葉。

調子に乗ったと言えばそうかもしれない。それでも口に出した約束は

きちんと護る。

それが懶怠者の壱兵衛の心情でもある。

勢いと波にのった壱兵衛はその場ですぐに電話を入れる

たまたま電話を取った静流梅相手に手短に話を伝え現金を夕方までに

届けるように言いつける。

今回はきつく言ったのもあるのか七回の内の一回だったのだろうか。

静流梅は「はい」と素直に頷く。


「人形一人に1000万。それって高いのか安いのかわからないな」

二日前の出来事を頭の中で繰り返す

実際にそうである。人形一人の正規の値段など一回の懶怠者に知れるはずもなく。

闇取引の相場も壱兵衛が計り知る事もない。只。約束は約束であり自分は守る。それもまた心情ある。

とはえ。まだ人形は若干調整中となるから引き渡すのは後日となるよ。

と骨指の婆さんは嘲笑っていた。

それでかわまないからきちんと仕上げてくれと言い残し後は良い付けた瑠璃梅が

現金を届けるだけだ。

もしかして気分でも悪くするかと思うがどんなに美しくてもあれは組の

若頭のものだから

まぁ~~~気にする事もないだろう。と軽く流す。

「あら。この間の御兄さんですね?その説は助かりました」

艷やかに少し上ずった声に我へを引っ張られる。

そこが街角のスタンディングカフェであると思い出す。

「ど。どちらさんで?・・・あっ。横断歩道の・・・」かけらた声の方を反射的

に顔を向ければ一度視た顔が瞳に映る。

「あら。覚えていてくださったのね。オバさんなのにでも嬉しいわ」

「オバさんなんて嘘でしょ?綺麗ですよ。とっても」

ガラス窓の向こう街人が歩きすぎていく。

「この間は有難う御座います。助けて頂いて。付きま追われて困っていたのです」

「そうなんですか?それは大変でした。余計な事をしたかと悔やんでも

いましたが・・・」

隣で細く長い綺麗な指でカップを包み微笑むのは数日まえその背をおかけた

黑艶髪の女性だった。


硝子向こうを行き過ぎる人々がいつの間にか傘を手に持つ。

そう言えば今日の天気は下って行くとも頭の何処かで囁いていた。

軽く言葉を交わした後。壱兵衛と黒艶髪の女の間に会話はない。

しとしとと目に前の硝子を叩くだけを漢と女は只見つめてる。


「行きましょうか・・・?」

「はい。」

空になった紙コップをくしゃっと手の中で潰し席を立つ壱兵衛。

淑やかな仕草でテーブルの隅に手を付き立ち上がると距離を取らずにすぐ続く。

カフェを出る時に人妻らしく気を使い少し大きな茶の鞄から傘を取り出し開くと

背の高い壱兵衛に寄り添い濡ないように高く掲げる。


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ガツンと頭の中に火花が飛んだ。

人は殴られた時に目に星が跳ぶとも言われるが実際はそんな事はない。

只、衝撃が奔ってそのまま意識が溶けて消える。

それは壱兵衛の全てを打ち消して行く現象でもあった。


「遅い・・・。あの人。遅い・・・」

もはや我が家となって久しいアジトのマンション。

それまで視線を決して外さなかった夕方のTVニュース番組のチャンネルを変えて

静流梅が吐く。

「今日は確かに遅いね。御主人様。いつもの後出かけちゃったけど。

玉遊びじゃない?」

「その遅いじゃないわ。萌奏。本当に遅いって奴よ」

帝國国民が愛してやまない昔からの定番フェミリーアニメを観ながら静流は愚痴る。

「初めてじゃないでしょ?何より気ままな御主人様なんだし」

「そうじゃないの。解ってない。みんな解ってない。

あの人は・・・私に興味が無くてもちゃんと連絡してくるの。

勿論、みんなにも心配駆けないように。・・・外で女を抱いても連絡はよこすの。

・・・・六時間四十五分三十七秒・五八。

一切の連絡もないまま。これだけ長い間遅れる事はないわ」

判を押したように毎回当たり障りの無いオチを迎えるアニメ番組から目を

そらさず冷たく告げる

本来。所有者登録を完了している萌奏と萌奏とそれをされてない

静流梅の間では本質的に主人を求める想いに差異がある。

当然二人の方が強い。

それなのに心咲と萌奏よりもは静流梅は早く正しく反応して魅せる。


「これは事故よ。厄災にあってるには違いないわ」

そうと言われてしまえば気にならないはずもない。

少し太い眉をひそめて心咲はテーブルの上に置かれた連絡用の携帯に視線を送る。

「反応が薄いの・・・。絆が弱いの・・・」

最初にそれと認めたのは制服姿の萌奏だ。


「緊急事態発生。即対応項目・・アノ人【仮契約済み御主人様。馬稚貝壱兵衛】に

異常発生と認識

総員緊急即応体制に以降。人型抑制機能解除。対人対戦車装備実装及び解除

一尺八寸秘形工房の汎用女性型愛玩人形・俗称・ヒトノイド。

全機能・全武装使用許可・・・申請・・・許可受諾・・・実行。

・・・忍さん。呼び戻して・・・他の漢なんてどうせも良いから」

声質が一変し固い機械音が交じると黒いキャミソールのまま静流梅が跳ねる。

床に着地すると予備動作なくも二度目にはね跳び硬く頑丈な玄関扉に

白肌の脚を揃えぶつけるとバリバリと音が響いて藻屑と化す。

勢いあまって向かいの壁に体がぶつかれば擬体の硬さに人形の跡を壁が崩れる。

「どいてっ~どいてぇ~~。どきなさいってば!」

轟音響いて壁に人の形を残すも体勢を整え床を蹴る。

疾走り進む廊下に立ちすくむ住民と懶怠者を払いのけ一気にマンションの壁を

ぶち抜いて青空に静流梅が跳ぶ。



【馬稚貝壱兵衛・現在地不明・身体形跡確認不可・一般行動予測経路から

推測されたし】

確かに姉と慕う忍の声では有るが人形特有の器械音が交じる。

既に連絡を受け仕事の最中であったためにごねる客漢の尻を蹴飛ばし

ヒトノイド化した忍が音電人形同士の遠距離通信方法飛ばしてくる。

【了・・・保護対象の生活巡回パターン解析を要請・・・】

【受領・返信・・・本日は狩狸と卵料理の日となれば

商店街・二丁目四番地玉遊屋ヒョッコリ瓢箪店。尚、本日の玉数は渋いとの事

同・商店街。スタティングカフェ・妖精の喉奥の店。

保護対象は人妻の尻を愛でてる場所と決めているらしい

移動後・暗転横丁裏通り。

人形職人通称骨指婆さんの人造人形の館。パーツを搾取されないように警戒すべし。

尚。主人は軍事精錬人形の製作者の母君。

生活習慣からの推測場所は以上。こちらでも探索は継続】

【了】

その日。対応が遅れた帝國国営放送等はいざ知らず。

噂好きの人々の目と話の中で一つの都市伝説が生まれる。


その人物は黒い下着姿で街を疾走る。

それは隣を走る車を軽々と追い越し長い髪を風に引いて真っ直ぐ疾走る。

地面に小さい足跡を刻み。それは風と埃を撒いて帝都の街に破壊を齎す。

すれ違い様に携帯電話を奪われ気がつくと100メートル先の道路で粉々で見つかる。

押しのけた漢の代わりに赤信号できちんと足踏みをして止まり

物珍しさに手を振る小学生に笑顔で答え。ナンパを試みる漢の顔に拳一閃。

顔痣を作る。

再び疾走れば玉遊屋のエントランスで怒声を上げ

将又はたまた。コーヒーショップでは探し人の容姿を述べて所在を確かめ丁寧に

頭を下げる。

その後何処へと疾走れば姿が風と夕闇に溶けて消えたと・・・

人呼んで・・・黒い下着の疾風痴女様。

長く尾を引く都市伝説の一つと成る・・・。


欠伸を噛み殺し長い警棒を地面に打ち付け構える中年憲兵隊員が溜まった涙を

拭き取って目を開けると

そこには清楚でそして慄然と背筋を伸ばし手を腰の前で組む女園生がた達すくむ。

「女園生さん?何か御用ですか?」近年稀に観るほど美しい立姿の女園生が

一歩と弐歩と前に出た。

「人を探しておりますの。とても大事な事ですの。」

涼やかに長い睫毛を揺らし顔を寄せる。

「それは難儀ですね。勿論お手伝いしますが。少し離れてくれませんか?」

音もなくいつの間にか自分の胸に白い手を添え体を押し付ける女園生に憲兵は

戸惑う。

「出来れば警備無線を聞かせて頂きたいのです。少しの間で構いませんから」

「そ、それは出来ません。法規に違反するので。一般の御方に聞かせるわけには

行かないのです」

「そこを何とかして頂けませんか?お願いします」

そっと顔を近づけほくそ笑む女園生

「無理です。ご勘弁を・・・その代わり」むず痒く猛る股間が疼いてしまう。

「・・・その代わり。御褒美を上げますから・・・ねっ。宜しいでしょ?」

猛り首をもたげようとする物を女園生の指が這いずり回る。

「す、少しだけですよ。お、奥で・・・」

自分の職務と地位をも忘れるも無線機を掴み女園生の腕袖を強く引き奥へと

連れ込んでしまう。


「待て。待て。落ち着け。あいつなんて知らん。最近見かけてもおらんのだ」

事実上は懶怠者壱兵衛の上司に当たる頓馬の前で一見地味で髪をお下げ纏めた

人形が睨む。

以前、贔屓の忍が多忙な時に暇つぶしに相手にもしたことがある。

しっかり料金は取られたが。

その時外見と印象が偽りだとも悟った。地味ではあるが肉付きが良く情事も

激しく自分から求める。

どちらかと言うと従順で有るかに見えて積極的に求めいつの間にか主導権を

握るタイプだ。

「それで?どうしたって言うんですか?何か仕事をさせてるのはないですか?」

地味だからと言って侮れない。一度。ヒトノイド化を成せば制限もない。

主人以外の命令は聞かず。それが居ない今となれば頓馬の言葉など聞くはずもない。

事実。4階建ての猛者が詰める懶怠者の拠点に女一人で上がり込み。

騒ぎ立てる血の気の荒い連中を女の細い腕一本で粉砕している。

文字通り腕を追われて喚く者。曲がっちゃいけない方向に曲がった自分の脚を観て悲鳴を上げる者。腹に一撃貰ってもんどり打ち床に転がり泡を吹く輩。

極めつけはまるで最初からあったように低くはない天井から

ニョッキリ生える漢の体。

何を言ってるのかわからないかも知れないが。

女が部屋に入った途端襲いかかった組一番の武闘派の男はいきなり首を

捕まれ体が中に浮く。

軽く女が腕を振ったとしか見えなかったが。勢いがのった男の体は天井を

突き破って突き刺さる。

「本当に知らないんですか?壱兵衛様が何処にいるのか?」

「知らない。本当に知らない。嘘はつかん」ふるふると壁に背を

付け怯え首を振る。

肉付きも良いむっちりとした体で近寄ると人形は頓馬の手首をグイと掴み豪華な

文卓の上に指を開いて押し付けさせる。

すぐに頭に浮かぶのはナイフ・プレイと言うやつだろう。

卓の上に指を開いて手の平を乗せその間を鋭いナイフで指す芸当遊びだ。

「な・・・何をするっていうんだ?待て待て」慌てふためくが此処にはナイフは

ないと安堵する。

卓の上で開いた頓馬の指の上にそっと白い拳が重なる。冷たい。

まるで体温がないように。

「一本ですか?二本ですか?嘘の数と同じだけ指を砕いて上げますのよ?」

頓馬の指に女が握る拳が触れている。女の言うことはかんたんだった。

もしが嘘を突いているならその数だけ頓馬の指に鉄と化する拳を打ち付け砕くと

言うのだ。

「ご・・・拷問じゃないか?これは・・・待て待て・・・

止めてくれ・・吐く吐くから」

ひらい指に拳を宛てがい嘘の一つでも履けばそのまま固い拳で指が砕ける。

屈辱と恐怖に背筋が強張り思うように言葉が出てこない。


コツコツとローヒールの音を鳴らし。

時として転がる懶怠者の体をま跨ぎ去りゆく地味な

ヒトノイドは仲間に報告を入れる。

憲兵救急隊がビルの四回にたどり着いた時。

既に三本の指を粉砕さえた懶怠者の上頭がのたうち回るも

「一本おまけです・・・」何処か甘い何処か意地悪な声が頓馬の頭浮かび泡を

吹いて失神する。


「い・・・壱兵衛。壱兵衛。」

やっとその姿を見つけた薬屋が看板を掲げる雑居ビルの裏路地。

まるで操る糸を裁ち鋏で断ち切られた人形その物の様に地面の上に壱兵衛が

倒れ込む。

疾走るい勢いを脚を踏ん張り速度を相殺し弐歩と参歩とよろめき地面に

這いずりにじりよる。


「壱兵衛・・・壱兵衛・・・壱兵衛・・・壱兵衛・・・」

力なくされるがままの体を細腕で抱きしめその名を呪詛と綴り繰り返す。

「グズ・・・壱兵衛。起きて。壱兵衛てば。起きなさいよ。起きろ。壱兵衛!」

涙が滲み視界がぼやける。頭を殴られ滴る紅い血が地面に滴る。

抱き締め揺らす静流梅の腕にもヌルリと壱兵衛の血が垂れて纏う。

流れ出る人形の涙と紅くぬめり交じる人の血・・・


力なくだらりと下る壱兵衛の手指を握り頬に握り寄せ涙する静流梅。

一刻・・・一瞬・・・時が流れる度に温かい血が冷めて溶けていく。

人の流す血のその行く先・・・たどり着く数瞬の先にたどり着くは・・・

死一つ。


「・・・壱兵衛」

雷鳴届く事ももなく。雨粒一つ堕ちる事無く。静かに死へを脚を勸める若き

懶怠者壱兵衛


声なく響いて空を貫く一筋の怒声。怒りと悲恋に塗れた天星に届けとばかりに

絶叫が昇天する。

もとより人形姉妹に想い届いても余りに距離が有りすぎる。

聞こえ届いたとしても姿たどり着くとも時間がないと知る。

それでも・・・それでも。


【一尺八寸秘形工房汎用女性型愛玩人形・否。ヒトノイド・静流梅

仮初とは故。我が愛しき主人馬稚貝壱兵衛様。不義の事故により瀕死

意識なし・出血多量状態・死亡絶命時間まで・・・四分二十八秒26

・・・助けて・・・壱兵衛が・・・壱兵衛が死んじゃう・・・

助けて・・・ヒトノイド】


閃光稲妻と疾走る悲痛な叫び。求める願い。天星に放たれるい悲恋。


ただ一つ。だが一つ。

それに答えるものはない。共に過ごす人形姉妹の声は帰れどそれでも想いは

届かない。

距離と時間が届かず間に合わなければ血雫流れ溶けて命消え去く


「壱兵衛ぇぇぇぇぇぇぇ。助けてぇぇぇ。誰か壱兵衛を助けてぇぇぇ~~~」

声に出し吠えて叫べど答える者もないであろう雑居ビル裏で・・・

薄く離れる魂一つ・・・後は流れ消える命一つ。終わりへと向かう。


ひらり。

風なく漂い葉が漂う。

否。それは一枚の白い紙。良くと瞳こらせば一枚の短冊とも見て取れる。

ひらりと舞えば表は白紙で何もなく。

くるりと裏に変えれば極彩色の世界と成る。

そこに描かれるのは紅く塗られた神柱。一脚一つの客椅子と日を避ける大きな

番傘一本。

客椅子の上には今さっきまで啜っていたかのような蕎麦椀と更に乗った串団子。

肝心なのはそれを口に運ぶ人姿だろう。クルクル回る短冊にその姿は遂に見えず。

石と畳みと踏まれその地面に堕ちる表裏の短冊一枚。


溶けて消えれば式紙一人。

最後の一啜りと含んだ蕎麦一口。ゴクリと喉を鳴らして飲み込めば。

それが女性で或るとよく知れる。美しくも背が高いその式紙は極彩色の着物に

身を包む着物の柄は大きな目玉の出目金鯉。水池から跳ねて飛沫を上げる。

帝國華江戸時代の色羽織を肌に乗せ長髪を結い上げ腰に帯びる五尺の刀柄を

拳で握る。

五尺の刀と言えばそう容易く抜ける代物ではありえない。

証拠に式紙成る女性は背が高い。恐らくは地に這い静流梅に抱かれる壱兵衛より

も高いだろう。


「ふぬ。これも又面妖な場所で或ると知る。地面が硬すぎる」

一枚板の高下駄の角でアスファルトを踏んで確かめる。

「所で?お嬢?あとどれくらいで或るのか?」細く整えた眉を上げて問いかけた。

「え?誰?貴方誰?ヒック・・・グズグズ・・・壱兵衛死んじゃう。

・・・・推定残り時間・・壱分五十五秒78。グスン」

「まぁ十分だね。寧ろ多すぎるくらいだよ。こう言うのはギリギリが粋なんだよ。

ギリギリがね」

「はぁ~~~。イキって何?壱兵衛死んじゃう」


高く伸びる背を式紙と知れる妾侍が身をゆっくりと屈める。

「粋って言うのは華だよ。漢と乙女の華さ。それに呼ばれたからには魅せないとね。

私の旦那も面倒な野郎でね。何よりけちでね。

蕎麦一杯喰らうのも駄賃渋るんだよ」

一つの命削り消えるその刻に蕎麦の一杯の噺などそれでも良いだろう。

それともよほど食い意地の張った式紙なのだろうか。

グイと屈む四肢が限界まで縮む。腰に指す五尺の刀柄に指が止まる。


「五つと七つと成りて六つに九つと重なり交じる六鏡世界とやらに

園の一枚が私の虚ろ絵界。縁を結んで夫に尽くし刃を震えば刻に人の形の悲恋に塗れる。

斬って観せよう。五尺の刃柄。握って降れば時と刻など斬って捨てるやる

我が一刃。一閃煌めき。いざ!一閃・・・。」


「斬っ」

居合一閃。輝光が疾走る。時間が切れる。連なる時間が切れてピタリと止まる。

パチンと音を引いて鞘に戻ってもその場の時間の流れは止まる。

世界一つ。三つ目の鏡と陰に呼ばれる世界の流れる時間が止まる。


閃光残る余韻の中で投がれる血を止め離れ去る懶怠者の魂が止まる。

「えっ。えっ?残り時間・・壱分五十五秒78。止まってる。時間が止まってるの?」

「当たり前だよ。誰だと思ってるだよ?式紙・お縫が斬ったんだよ。

あたしに斬れないのも物なんて。夫様のアレくらいだよ。駄賃は蕎麦一杯だらね」

「切れないのは夫のアレって・・・。蕎麦。奢ります。奢ります。」

時間の止まった世界の中で壱兵衛を強く抱きしめコクコクと頷く。


「誰が夫のアレが切れないだ。斬って堕として困るのはお前だろうに」

誰と無く声が届けば姿も見える。先の式紙が美麗な女性で有ればその男の成りは極々普通だろう。

ボサボサの髪を指で掻き上げのそりのそりと歩くと倒れる壱兵衛の顔を覗き見る。

「お嬢ちゃん。こいつが想い人かい?視たところかなりぎりぎりだけど」

「あ・・・貴方達は?何処から?どうやって?助けて下さい」ズズと鼻水を啜り問う

「目刺銛跳鯊。遺憾ながらもそこの妾侍の夫らしい。

何処と言われば此処と同じ帝國であろう。だが少し時間が違う。

それに助けるのは僕じゃない。少々お転婆な子でね・・・」


「どっひゃ~~~~~~。」ドスンと音が響く。

「うぎゃ。噛んだ。舌噛んだ。鬼燈。どっかから出てくるんだよ」

「頭の上なの。父者様の頭の上なの。あとちょっと固いの。頭固いの」

目刺銛跳鯊と名乗った普通のオジサンの上に落下してきたのは幼女である。

黒い帝國風ドレスを着込むが未だ幼く可愛げであるしかし何処ピリピリとした

殺気を肌に押し付ける。

「御前が頭に落ちて来たんだろ?もうちょっと淑女らしくしないとお嫁に

いけないんだそ」

「嫁に行くのは乙女の夢なの。父者様のお嫁さんになるの。鬼燈」

「それは聞き捨てならんぞ。妾は私だぞ?お嬢」

遥か頭上からお縫の声が降ってくる。

「お縫いさんは妾なの。鬼燈が正妻なの。絶対お嫁さんになるの」

頬を膨らませ眉を上げてはるか頭上の式紙を睨む幼女。

「おいおい。その辺にしておきたまえ。淑女達。

時間が塞がる前に紡なねばならないんだ。

茶番はその辺にして置け。何しろお嬢ちゃんの前だ。

仕事と参ろう。推して参るぞ」


腕に抱く壱兵衛の体の温もりが消え行くのは止まらない。

お縫が切った時間でもそれは永遠の刻ではないのだろう。

多少なりとも焦りを隠さない跳鯊

折った膝を伸ばし立ち上がると未だお縫いと睨みあ合う鬼燈。

それを見上げる静流梅の目が涙に濡れる。

人形が止まれば眠ると成る。しかし人が死を迎えればそれは死だ。

森羅万象唯一の約束でもある。覆す事は出来ないはずである。


「貴方は?貴方様は・・・」

掠れる声が答えを求め幼き少女を見上げる


「真打ちなの・・・私が誰よりも一番可愛いの・・・。

刻に歩み並び時に間違い時に人に寄り添い愛していつか捨てさり消えて死す。

その側に日に夜にと想いを綴り主人の愛を求めて生まれ歩む人形達

戦に生きて剣を構え生まれ堕ちて人様に仕え想いを紡いぐ人形達

刻が違えば巡りも合わず場所が違えば姿も見えず。

されども心の叫びは変わらず。心に響く想いは皆同じ。届く心を紡いで見せよう。

權田一々式精錬人形・HELIOTROPE変異体。鬼燈の名において命じる。

森羅万象。去りゆく漢の命一つ。紡げ!留まれ。答えよ。

御前を想う人形の為に。」


鬼燈の小さな手に握られた桃色の系玉がポンと跳ねる。


「推して参る。一々式魂捕縛精錬術・・・糸紡!【結束!】」



跳ねた毛玉が糸を吐きくねり伸びる。

くるりくるりと伸びてのたうち見えぬはずの漢の命玉を優に愛おしくに包みこむ。

静々と絡む糸の方先は倒れる体に届くとスルリと溶ける。

反対に宙に浮く魂が糸にくるまり鬼燈が指を下ろせば動きを追う。

ゆるりゆるりと命玉は糸に引かれやがては懶怠者壱兵衛の体へと溶けて消え

収まる。

「うげっ・・・」静流梅の腕の中重く餌付いて壱兵衛が咳き込む。

「え?壱兵衛。壱兵衛」ありえない事に思わずきつく抱きしめてしまう

「こらこら。お嬢さん。それは首を締めるというのだぞ。

とりあえずなんとか成ったと思うが万全とは言えぬだろうな。

なにせ鬼燈のする事だ。技はすごいが何がを捻じ曲げてるかもだしな。

注意はするんだぞ。気を抜かぬようにな。さて・・・そろそろと参ろうか?」

警告とも取れる言葉を告げると壱兵衛よりは低いがそれでも高いと言える背を

伸ばすと跳鯊。


「初めてなの。初めて必殺技の名前言ったの・・・。父者様。かっこ良かった?

鬼燈かっこ良かった?」

「初めてじゃないだろ?あの技は?ああ。名前か?お前。いま思いついたな?

そうなんだな!全く適当もすぎるぞ。腕は確かな癖に。もうちょっとだな・・・」

「ぶ~~~。お説教は要らないの。プリンが食べたいの。苺カラメルが良いの」

「そうだぞ。ちゃんと仕事は片付けたのだ。蕎麦だ。蕎麦。卵二つだからな」

人の命。一つ救って魅せる後でなんとも面妖な刻渡りの三人組が

戯れ嘲笑えば時が動く。


「ぐふ・・・俺・・・どうして・・・?」

「壱兵衛。壱兵衛。壱兵衛」止まらぬ涙を頬に落しきつく抱いて締める静流梅。

流れとたゆる時が動き出せば憲兵救護車のサイレンが鳴り響き人形姉妹

達が疾走り付く夜も深日に向かう時裏路地で横たわる壱兵衛の脚側に

壱綴の短冊がゆらりと堕ちる。

紙の面は無地で白色。裏に返せば墨文字流れの一文一つ。

余りに達筆となれば人形達にも読みづらいく要約すれば次と成る。


【命救いの御代。蕎麦一杯。近々馳走に成りに推参候。五尺刀お縫】









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