ヒトノイド・Vigilante

一黙噛鯣

Vigilante.ⅰ起動

「もっ。もうだめ・・・許して・・・」

「ちっ・・・」

雌犬の様に四つん這いに成り突き出した尻からズルリとそれを引き抜く。

ぬかれた途端。支えていた腕の力が抜け落ちベッドに崩れ堕ちるさゆりの尻を

強く張る

「ひゃっ」油断していた所に刺激が走り思わず体を固くすれば女陰が締まり|注がれたばかりの白濁が滲み出てくる。

「つまらねぇ~~~。つまらねぇんだよ」

存分にさゆりとの情事を楽しんだはずなのに心の中に纏わりつく似がいい思いに|壱兵衛は顔をしかめる。

馬稚貝壱兵衛ばちかいいちべいは好きな時に好きな女を抱く。

好きな時に暴れ好きな時に漢も女も殴る。

仕事だって御天道様に顔を上げ胸を晴れるものじゃない。

懶怠者のその道一本である。

とは言え親父と呼び盃をかわした漢と組みからは三下野郎とも蔑まれている。

少年時代の不幸な環境と粗暴な性格が災いし行くべき道を決める頃には

懶怠者やくざの世界に脚を踏み入れるしかなかった。


馬稚貝壱兵衛

身長182センチ。体重は覚えてない。

懶怠者は喧嘩が命。と強い妄想が或るために飽きっぽいくせに2年だけ

拳闘ジムに通う。

もともと細くしまった体でもあり

「お前は才能がある。真面目に練習すれば帝國チャンピオンにばってなれる」

とトレーナーに惚れ込まれるが結局は飽きっぽいのと懶怠者喧嘩の為

だったから適当にこなす。

一応はジムとトレーナーの顔を立て三試合ほど正式にリングに上がり結果は

弐勝壱負け。

顔には出さなかったが内心はよほど悔しかったのだろう。

相手の祝勝会と称したささやかな宴会場に負けたその脚で殴り込み対戦相手は

もとよりその場にいたボクサーも練習生の五人を殴り倒し病院送りにしてしまう。

殴り倒された殴り倒された相手はその怪我が原因で拳闘人を引退することになる。

勿論、騒ぎを起こした壱兵衛もライセンスを剥奪されるが

当人は寧ろ練習しなくて済むから楽でいいと口走る。

とは言え自分の安アパートから懶怠者事務所までの10キロの道のりを走って

通うのは律儀でもあろう。


「おい?壱兵衛。今日の夜開けとけよ。ブツの搬入あるから」

事務所に上がる階段を箒で履いて掃除してると実力よりもコネでそこまで

のし上がった若頭の漢が言い捨てる。

「夜ですか?ちょっと今日は・・・都合が。それよりブツてしのぎのやつですか?

久しぶりですね。公安の奴ら。見逃してくれるどいいっすけど」

「馬鹿野郎。大声で話すな。お前の声はよく通る。それに合法何だよ|。ギリギリ今回のは」

一々声を荒げるのは懶怠者の癖だ。もっとも壱兵衛より背が低いから迫力に掛ける。

「はぁ~~~。ギリギリ合法ですかぁ~?・・・っとバイト早めに切り上げて|顔だします。ハイ」

戦時復興のあの頃はともかく。昨今の帝國公安憲兵隊は見分けの付きやすい

懶怠者の取締に性を出す。

見分けの付きにくい面妖共とか得たいの知れない衝動的な殺人事件とか陰と裏に|潜むテロの集団よりも姿形で見分けがついて比較的

楽に仕事を終わらせる事出来る懶怠者事の方がやりやすいのだ。

そのための帝國法規案も容易く国会に上がり特に審議もされず正規法規と

成り施行される。

懶怠者。つまりは安易に捕まえられ治安を護る公安憲兵隊と市民に

アピールするには格好の餌である。


一般人が思い描き考えるほど懶怠者の生活は楽でない。

特に常に憲兵隊の眼が鋭い最近は詐欺や強盗はままならない。

以前は楽だったボッタクリも今は陰をひそめる。

そもそも繁華街に人が脚を運ばないのだ。BARやラウンジの店を開けても客が

来ない。

客が来なければ料金を誤魔化す事も脅して高額な料金を支払わせることも出来ない。

懶怠者にとって近年は受難の時代となっている。

それでも組の運営には金がいるし構成員の給料も生活もある。

外からの収益に限界があれば眼を向けるのは当然内側になってしまう。

つまりは上の者の生活を支える為に下の物は上納金を収めなければならない。

組み全体を支えるために支部も上納金を払い支部を支えるために構成員個人|も支払が必要になる。

「お上にも税金取られてるのに組親にも税金収めないとならないんだぞ?

結局上の者だけが贅沢しながら暮らすために俺達下っ端は走り回らないと|いけないんだぞ?こんな馬鹿な御時世に態々懶怠者になんて成る奴なんでて居るものか」

一応は礼の黒塗りの高級車に後部座席に身を沈めて愚痴る若頭に

「そおっすよね。若頭が乗ってるこの車も7年型落ちの中古車っすしね」|と嘲笑って返す壱兵衛

「おっ。御前は一言多いんだよ。唐変木の癖に」真顔で声を荒げるが事実

でもあった。


「結構遅れちまったけど・・・怒られるだろうなぁ~~」

もとより気乗りしないが若頭に言われれば後が面倒でもある。

「遅くなりましたぁ~~~。すいませんっす・・・」背の高い壱兵衛が頭を書いて

倉庫前にやってくる。

「バイトは終わったのか?ご苦労さん。取引はあらかたすんでる。

頭も引き上げたしな。

御前の仕事は商品の誘導だ。今夜中に倉庫にしまって奥のが仕事だ。

それから一体は選んで御前が管理しろってさ。ちゃんと責任持って使えってよ

解ったか?確かにつたえたからな?適当になんかするなよ。

必要な物は、その箱だってよじゃ。任せた・・・」

若衆仲間の笹尻は言いたいことを言って公衆電話の向こうへと走っていく。

さして年も変わらないくせに組にはいり盃を交わしたのが壱兵衛より

10日早いだけで先輩面する笹尻もともとは軍兵だったと言うが

その割には壱兵衛よりかなり細い。最近、結婚したらしいが。|姉さん女房らしくかなり体重差もあるらしい。

要は尻に敷かれてるだろう。公衆電話にむかって突進していったのも

定時連絡の為だろう。


「なんか良いように押し付けられた気がする。

・・・それよりブツってなんだ?薬じゃないのか?使えるようにしろって何だ?」

懶怠者のしのぎといえば薬となる。仕入れも扱いも簡単で魅入りも良い。

問題は公安の締め付けが激しい為に所持すら発覚すれば碌な裁判もなしに|戦さ場送り地獄の果の囚人兵部隊に強制入隊と決まっている。勿論。帰ってこれない。

背筋が凍る思い出首をすくめ倉庫に横付けされたトラックに周りこむ。

広い駐車場の倉庫前に止められた極普通のトラック。

既に荷台の扉は開けられ昇降板も地面に降ろされてもいた。

脇には操作ボックスが引力に引かれブラブラと揺れる。

「笹尻の奴。やっぱり仕事を投げ出したな。

自分がいいつけられたんじゃないか?」

壱兵衛が予定より遅れたのだろう。

本来は上の者に笹尻が任された仕事に違いない。

「ちっ。もっと早く抜け出せたならこんな事しなくて・・・うわっ!」


広い駐車場の暗がりに止められたトラックの荷台。

その箱と成る内側によじ登った壱兵衛の眼に入ったのは女の人影

その数四つ。

「おっ。おっ・・・うわっ」あまりに吃驚してバランスを崩し転げ落ちそうに手を

バタバタと振る。

「大丈夫で御座いますか?御若い御方様」

一際涼し気な声が耳に届くとそれより早く大げさに振り回す壱兵衛の腕が

グイと掴まれ引かれる。

身長も高く体重も思いであろう拳闘士崩れの漢の体をグイと引き上げて魅せる

一人の女性。

「あ、有難う。助かったよ。女だてらに。いや。そのいい意味でだけど」

「御人様方のお役に立てれば至極の思いで御座います」

壱兵衛を掴んだ手を静かに離すと女性が告げる。

「これは又、随分とお硬い物言いですね。懶怠者だからって見下してます?

それならそれなりに扱うけど。それより貴方等は何者なんだよ?」

助ける為とは言え。思いの他強く捕まれた腕をさすり訝しげに睨み問う。


「御人様を見下す事等いたしません。落下なさるのをお救いしただけで御座います。

私奴は一尺八寸かまつか秘形工房の汎用女性型愛玩人形で御座います。御人様」

「いっしゃくはっすん?工房?秘形?愛玩?何だそれ?」

「一尺八寸と文字に書いてかまつかと読みます。秘形と言うのは・・・」

「待て待て。自分で調べる。ちょっと不気味なんだ。その話し方。黙ってろ」

懶怠者の道に進めば世情にも疎くなる。壱兵衛の世界に或るのは組の上下と

金だけだ。

暗く光濁るトラックの荷台で棒きれの様に立ち尽くす女四人。

立ち姿こそ美しくも見えるが生気も覇気もない顔で只、宙の一点を見つめ立つ。

「精錬人形?違うな・・・。一尺八寸秘形工房・・・これか?」

世情に疎いのがばれ恥ずかしさを誤魔化そうと意地を張り自分で調べると

携帯の画面を覗き込む。

これで良いのかと画面を確かめて女の方に向けると僅かに瞳を動かし小さく頷く。


一尺八寸秘形工房製汎用女性型愛玩秘形。

壱兵衛が言葉に引っ掛かったのはそ社名であろうその一尺八寸ではなく秘形

という所だ。

「秘形ってなんだ?人形ならそれでいいじゃないか?そうだろう?」

「世間一般の常識として人形とは御人様達の御子様が遊ぶ玩具の名称で御座います。

また同時に倭ノ帝國に置いて人形とは精錬人形の事を示し。特許をも持っています。

後発の制作会社として混同を避けるために一尺八寸秘形工房の担当者は苦肉の策として私奴達の名称を秘形と名付けました。」

今度は最初に壱兵衛を助けた物ではなく隣の女性が勝手に喋る。

「に。人形で良いんだろ?人形で。そうだな」わけが分からなく成りそうで

強く言い切る。

「御人様のご意思であれば、そう呼んで頂いて構いません。」

甘く香る声なのに冷たさと硬さが宿る。

「何なんだ・・・こいつら・・面倒臭い」投げ出しくなってしまいそのまま帰ろうとも頭に浮かぶがそれも出来ない。

仕方なく自分が決めた呼称で呼ぶと決め画面の続きに眼を通す。


汎用女性型愛玩人形・・・。

もともとは帝國陸軍の軍事将校が若い頃に書いた設計図を元に制作した基幹回路を元に人工部品・心核・人工筋肉・人造腸・銀油等を組み込み自動制御の戦兵で或り

精錬人形と呼ばれる。

数は多く制作されるがその目的は戦のみであり一般社会用ではない。

それに対し極最近。ヒトノイドと言う汎用型の製品も帝國財閥から販売・

レンタルされているがこれは幼年の子供を模してある。

戦兵としての自動人形。子供としての人造人形。

それぞれのニーズに答えるが人種がもっとも求める需要には答えない。

市場に需要があれば必ず誰かが商売にする。紆余曲折はあったろう。

時には非合法な事にも手を染めるだろう。

何処までが合法で何処からが非合法かと問う前に形をなして世に躍り出たのが

一尺八寸秘形工房。

漢と雄とを喜ばせるためだけに作られ生まれたのが汎用女性型愛玩人形となる。


「なるほど。お前達は漢を喜ばせる為の人形という事かぁ~~~。

組の上も考えたものだな。確かに生きた女は躾けるも扱うのも面倒だ。

ところがお前たちなら従順だろうから。幾らでも漢の相手をさせられる。

上手いシノギになるってわけだ。」

これは面白くもあり金になりそうだとも壱兵衛は嘲笑う。

今までもこれからも男達に虐げられ搾取され続けていく人形達の目の前で。


「ふむ。なんとなく概略みたいなものは掴んだと思うが・・・。

そういや。つけるようにしておけって言われたっけ。それもそうか。

このままじゃな」

その正体を知識として理解した壱兵衛であるが傍から見れば今の状況は異様である。

単純に言ってしまえば妖しげな駐車場に止まるトラックの荷台の中に女性四人が

突っ立って居るのだ。

そのままにして置くのはかなり不味い。おそらくトラック自体も盗んだものだろう。

そうなるとこのままにして奥にも行かないのは確かだ。

「っと。最初に御前と横の奴。昇降機上げてやるからそこに乗れ」

適当に指差しながら告げる。

コクンと頷き最初に壱兵衛を助けた人形と隣のやつが前に一歩出る。

規定の位置まで持ち上がった昇降機の上に人形二人が脚をすすめる。

慎重にも操作ボタンを操作する壱兵衛は無事に昇降機が降り付く間に彼女らを

品定めしてみる。

組の上役の言葉を心の中に思い出したからだ。

この中の一体は自分で管理して良いと言われてたのだ。

つまりは本当の女と一寸も変わらぬ人形を自分の欲望のままに好きにしても文句は

言われないのだ。


昇降台の上で長く艶の或る女の体つきは細身である。

それで居て胸は大きくも尻は小ぶりだ。二十代後半の女性に見て取れやわらかい

物腰でもある。

思わず喉を鳴らして唾を飲み込んだのを知っての事だろう。

女はわざと視線を外し漢を誘う。

隣に立つのは高校生くらいに見える。制服をきているわけではないがまだ

若い体つきとなる。

恐らくは風営法ギリギリの線を踏まえての事だろう。シノギをさせるなら人気の

出そうな印象である。

次に昇降台に乗ったのは大人の女性という感じの人形だ。

年の頃は30才印象を受けるが人形4人の中で一番豊満な体をしている。

胸も知りも大きく。観られてると自覚してるだろう。

コツンとヒールを鳴らして前に出る立ち姿は壱兵衛のスケベ心をくすぐる。

その後ろの陰に潜む最後の人形はあまり目立たない。

お下げのに髪を結い下を向いてるの姿は地味だ。


「風邪を引く事はないと思うが・・・先に中に入れたほうがいいだろうなぁ~~

トラックは後で片付けるとして・・・付いてこい。お前等」|

気を使わなかったと言えば嘘になる。その反応はともかくも

外見は人と変わらず美しい女性である。

笹尻がそれと示したダンボールの箱を小脇に掛けると向きを変えて倉庫へと歩く。

付いて来いと言われれば盲目と従うのだろう。

人形4人達は壱兵衛の後に直線に並ぶとコツコツと足音を鳴らしついていく。


「正直・・・どう扱っていいかよくわからないんけども。

荷物と同じという理由にもいかないよね。一応。女性に見えるし。

とりあえず此処で適当に休んでくれ」

人形たちの接し方に悩むが当の人形たちは壱兵衛の言葉に従う。

仕草と動きは人のそれであるが感情がない人形そのものである。

命じられる前に倉庫の管理室の簡易応接室の中でソファに腰を下ろす物もいれば

隅の方で佇む者もいる。

やらなければ成らない事と言えばトラックの移動だけだったが眼ただない所へ止め倉庫に戻ろうとした途端小雨が壱兵衛の頭を叩く。

運悪くも結構な距離を走って雨を被ったなのでそれなりにも濡れる。

大した事ないのは確かであるが少し体が冷えたのは変わりない。


「ひゃ~~。こんな時に雨に振られるなんて厄災だな。全く」

濡た頭髪を軽く叩き雨のしずくを弾き部屋に入ると

明るい蛍光灯の部屋の下で一斉に人形達の顔がグルリと周り壱兵衛の方へと動く」

「うぉっ。吃驚するだろ。いくら俺が美男子だからって。

そうがっつくなよ。べっぴんさん達」

若い懶怠者らしく軽口を叩く。人形達の反応と対応はそれぞれちがう。

パタパタと体を叩き雨飛沫を払って居るとTシャツが差し出される。

「風邪を引かれると困るので・・・」

何処からか探してきたのかわからないが壱兵衛の好みに合う意味もなく

派手なTシャツを差し出す。

懶怠者が使う倉庫だからそれなりに色々あるかもしれないがその中で

壱兵衛の好みをちゃんとあわせる。

「お、御前?地味だけど・・・結構見れるな」

まじまじと壱兵衛に見つめられ地味な人形は下を向く。

地味で目立たない系ではあるが胸も大きく迫力もある。

つまりは外見は地味で目ただないが実は豊満で漢好きがいい感じだ。

「ふ~~~ん。意外と行けるかもだなぁ~~~」

ジロジロ見つめてられ壱兵衛の視線を感じてか地味な人形は部屋の奥へと

足早に逃げる。

「あの子は恥ずかしがり屋ですが気の聞く子なのですよ。可愛がってくださいな」

渡されたTシャツに袖を通してソファにドカリと落す壱兵衛の顔の前に

珈琲カップが現れる。

「あっ。有難う。砂糖は・・・」

「角砂糖二つとミルクの代わりに牛乳ですよね。

此処には粉ミルクしかなかったのでどうか御免しになってくださいませ。御人様」

淑やかな声の主は4人の中で一番豊満な体を持つ人形だ。

珈琲を受け取った壱兵衛の側を離れず、そこに佇むのにも理由がある。

「ついでだから教えてくれよ。

貴方アンタ等には名前が或るのか?それと使えるようにするってのは

どうやるんだ?」

「私奴の名前は忍で御座います。最初に。御人様に触れたのが静流梅。

シャツを渡したのがあいら心咲あいら。一番下の子が萌奏もかな

御座います。どうぞよしなに。

使えるようにという言葉をどう解釈すれば良いか該当するデータが有りません。

ただし。私奴達はきちんと動作するために御人様に御仕えする必要があります。

御仕えする御方。御主人様で御座います。そこまで仰々しいものでは有りません。

登録者とも言えば宜しいでしょう」

「なるほど。人形たちに言うことを聞かせるには御主人様が必要で、

それには登録って言う作業が必要って事か?」

「はい。そうで御座います。御人様」忍と名を冠する人形は優雅にうなずき床下に

捨て置かれた箱から一枚の板を取り出す。

「これが私奴の登録装置で御座います。この場で登録して頂ければば至極の思いで

御座います」

自分の思い通りに言う事を聞かせるには登録が必要と言われればいう事を

聞くしかない。

背筋をピンと伸ばし前で手を組んで忍は真っ直ぐに壱兵衛の側に立つ。

当然。人形として女として自分の体を誇張し誘うのは性である。


人形の登録作業は今どきの若者には馴染みの或るものである。

幾つかの必要事項と上げられた項目にチェックを入れる。

「えっと・・・俺の名前は馬稚貝壱兵衛。今日から御前の主人と成る。

よろしくな」

多少大げさに声を張ったのは登録の最終段階の一つ前。

人形が自分の主人を声紋で認証するためだ。

「馬稚貝壱兵衛で御座いますね。素敵な御名前で御座います。

こちらこそ末永くかわいがってくださいませ。壱兵衛様」

淑やかに微笑むそっと壱兵衛の方に手を乗せて愛しげに微笑む。

壱兵衛の声に忍が答えると握る金属板の画面に文字が浮かぶ。

【忍を貴方の人形として登録しますか?】【はい】【いいえ】と文字浮かぶ。

以外と簡単であるし少し情緒がないなと苦く笑いながらも【はい】を推す。

「有難う御座います。壱兵衛様。忍は貴方の物で御座います。末永くずっと

御使えいたします」

その声は確かに忍の物であったが艶が乗り先程までの機械的な硬さが

溶けて消える。

見事なまでの変化をみせ。端正な顔にはほのかに色香が乗り甘い声でつぶやくと

壱兵衛の頬を両手で包むと愛情を込めて唇を塞ぎ舌を絡め唾液さえ求める。

「んん・・・んん」唐突に唇を奪われ快楽に溺れる事暫し。

つゆと糸を引いて離れる忍の唇は欲に塗れた女の顔を魅せる。

「なるほど。漢を喜ばせるのは得意と見える。じっくり楽しみたいところだけども

次が或るしな」

壱兵衛は好きな食べ物は最後まで取っておくタイプでもある。

それに使えるようにと言うのなら忍一人ではない。当然残りは三人となる。

頭を巡らせ他の人形を見渡す前に目の前に銀色の制御板が突き出される。

「お願いします・・・」制御版を握る指を震わせながらも強請るのはおさげの

地味な人形・心咲。

地味では恥ずかしがり屋であるが結構グイグイと来るタイプらしい。


二度目と成れば操作にも慣れる。携帯の漫画サイトの登録とさして変わりない。

必要事項を入力して人形の名前を心咲と呼べば目を伏せながら頷く。

登録ボタンをポチリと押すと目を輝かせ「宜しくお願いします。壱兵衛様」と小さく声を出し壱兵衛の頬にチュッと唇を押し付けるとパタパタと部屋の隅へ

と走り逃げる。

意外と可愛い奴なのかなと思いながら今度は自分で箱から三枚目の板を

取り出し除く。


都合三回目の登録作業は前回と違い手間と成る。

「これ?登録できないってなってるぞ?どうすれば良いんだ」

答えを求めたのは板と対となる静流梅。

壱兵衛が自分の物にするぞと心に決めた人形で或るが思惑通りには

行かないらしい。

「私は以前の登録者との契約が破棄されてません。可能なのは仮登録です。

仮登録は出来ますが完全な物では有りません。仮登録なさるのでしたら

黄色のボタンです」

必要事項を淡々と告げる静流梅と言う人形。

自分の思惑が外れたと怒りが体を巡り血が騒ぐ。

固く握る拳は拳闘士の拳で怒りを爆発させれば相手を病院に送る。

それでも無理に抑え込んだのは相手が女の姿だからだろう。

「ちっ。つまんねぇ~~~」ぶっきら棒に言い捨てるが指示されたボタンを押し

一応。仮登録は済ます。

上の輩から使えるようにしておけと言い付けられているのも確かだ。

と成れば漢としても懶怠者としても我慢するのも筋である。

「めんどうくさくなった。とは言え後一個残ってるしな」

銀色の制御盤を胸に抱き恐恐と立つ少女型の人形萌奏の登録をぶっきらぼうな

態度ですます。


「これで終わりだ。今日の俺の仕事は終わりっと。じゃ。俺帰るから。

貴方等は適当にやってくれ」

・・・と適当に人形達を置き去りにして深夜遅くに自宅のアパートへ帰る。

途中あまり強くはないが好きではある缶ビールを唐揚げの摘みと買い求め。

適当に食べて飲んだ後は意識がない。

「あん・・・そこはちょっと・・・」

まどろむ意識の中に聞き慣れない声が湧いて届く。

同時にトントンと何かを刻む音。倭ノ帝國人なら朝は必ず食す少し酸味の強い

味噌の香り。

もぞもぞと片目を薄めにあけて目を擦ろうと手を動かせば

何か柔らかい物に当たる。

「あん・・・くすぐったいです。壱兵衛様。出来ればもうちょっと奥の方が

適切な場所です」

「へっ。適切って・・・あれ?御前は・・・えっと地味な心咲。

なんで此処に居る?」

「壱兵衛さんは私達の主人です。主人の居る場所が私達の居場所です」

昨夜は私服だったのだろうか?今朝は制服姿でしかも銀縁眼鏡をかけた

女子高生・萌奏が断言する。

「俺のいる所が居場所って?どうやって?」疑問の答えを求めるのは良いが

少し頭の霧が晴れる。

どうやら下戸に近いくせに煽った酒に酔いつぶれそのまま寝闇に堕ちたのだろう。

気がつくと頭は地味でも肉付きの良い心咲の太腿の上にあった。

枕代わりの膝枕であろう。

目を擦ろと動かした手は多分たまたま両太腿の奥に有り。

適切な場所とはもっと奥の事だろう。

布団と言うほどのものではなく代わりに毛布が二枚と体を覆う。

つまりは倉庫に置いてきたはずの人形共はいつの間にか壱兵衛の居場所を突き止め

更には風邪を引かぬようにと気配りをしたらしい。


「静流梅は鼻が効くのです。主人を思う気持ちが強いのでしょう。

褒めてあげて下さいな」

「誰が鼻が利くって?犬ころみたいに言わないでよ。

最初に握った手の表皮サンプルと体臭。後は計算と予測よ。みんな出来るでしょ?

それに主人じゃないから!仮のだから。飽く迄も仮なの」

柱の一番遠くで静瑠梅が言い捨てる。

「なっ。なるほど。よくわからん。さっぱりわからん。あっうまそうだな」

手際よく人形たちは連携し寡夫暮らしの壱兵衛の部屋をテキパキと

片付けてスペースを作るとささやかでは或るが朝食となる。

何か突然。狐につままれた感は否定できないが何年か振りに誰かと

食べる朝食を壱兵衛自身も心地よく楽しむ。



壱兵衛の乱雑な性格が最初に手違いを生むが彼に取っては良い方向へと

それは転んでいく。

壱兵衛を仮主人としか認めない静流梅。まるで母親の様に振る舞い世話を焼く忍。

地味で恥ずかしがり屋の癖にグイグイと前に出てる心咲。

少し距離を置いて物言いたげにも細かいことにこだわり一挙一動を見逃さない萌奏

個性豊かな人形達に囲まれる生活は慌ただしくもあり忙しい。

初めの三日ほどは壱兵衛の安アパートで過ごすがシノギの事もあればすぐに

狭くなる。

組の新たなシノギ商売として人形達を導入したのだし。

そうなれば稼がせなければ金は生まない。

女の体を模した人形達も自分の役目をよく理解し同時に壱兵衛の言うことを

ちゃんと聞く。


まず。壱兵衛達は安アパートから組の所有する中古マンションに拠点を変える。

心咲と萌奏は共有なるがその他にはきちんと個室が与えられる。

何より客の要望に合せて着替える衣服置き場と小道具箱を収めるスペースが

確保出来たのは大きい。

客からの注文は以外な才能を魅せPCや携帯に詳しい心咲がサイトを作る。

「地味な癖に色々出来るんだな。心咲」最低限の知識しか持たない

壱兵衛は素直に感心する。

「有難うございます。嬉しい・・・」真っ直ぐに顔を見れない癖に代わりにそ

っと壱兵衛の手をにぎる。

客がサイトを覗き込み好みの女を選んで注文を入れる。

幾回かのやり取りを短く繰り返せば

後は注文に合せ衣服を着替え、好みの道具をバックに詰めて客の待つ場所へと

人形達が脚を運ぶ。

女子高生の萌奏はきちんと帝國付属の学院に転校し凛とした姿でクラスの

学級院長として過ごすがその裏で男子も女子も含め彼らの欲望を満たす。


「おい?壱兵衛。忍を俺の女にしたい。譲れ・・・」

背の低い若頭が鼻息を荒く椅子に座り壱兵衛に詰め寄る。

「そうは言っても無理ですって。最初にちょっと手違いがあったのはみとめますよ。

でも、しょうが無いっしょ?取説とかなかったんだから。

詰まるところ人形達の所有権の更新は一年に一回なんです。

そんな怖い顔したって無理です。暫く待てば良いだけの話でしょ?

それに好きな時に抱けるんだからいいじゃないっすか」

自分が有利な立場であると知っていて三下の癖に横柄な態度で答える壱兵衛を

若頭は気に食わない。

確かに壱兵衛が言うことは事実であった。

もとより最初から真っ当な取引でもないのだし壱兵衛を含め自分達の知識が

なかったのも悪かった。

要は後の祭りでもある。確かに好きな時に好きな人形を抱く事は出来るが

料金が発生する。

一回の情事に5万。素人連中と同じ料金を前金で支払わないと忍は近寄らない

どころか指の一本も触れさせない。しかもそれは毎回値段が上がっていく。

「市場価値の変動で御座います。人気商品を買うとなれば当然値段は上がります。

それが資本主義の原則でが御座います」

女の癖にと怒りに任せて襲い掛り無理に犯そうとしても。

姿形は女のそれであっても中身は違う。

「そういうプレイがお好みなら、お付き合いしますが。程々になさって下さいな。

あと割増ですよ?」

さらり平然と言ったついでに若頭が学生大会で取ったブロンズのトロフィーを

握るとギュッと絞って潰して魅せる。

仕方なく言われる通りに金を払い望み通りに欲望を満たしたが心の何処かで心に

靄が蟠る。


「頭や笹尻の言う事も判る。これだけ良い女なら素人衆に回すより自分の物にしたくもなるさ。

最初に決めたルールが単純過ぎたのもある。人形って結構素直だしな。

そう言ってもシノギをやれって言ったのは上役なんだし。此方は儲けた金から

税金上納金収めるんだそ?

結局は上役の懐が温まるだけだぞ。此方は経費が掛かるんだ」

「んん・・・いまは・・・それより・・・」

上役と仲間に文句を言われ苛立つ壱兵衛の股間の上で

おさげ頭の心咲が今日は壱兵衛の好みに髪を結い直し甘えた声で腰をふり一物を|しごき飲み込む。


素人客に人形達を抱かせて金を絞るが同時に組の上役と仲間に回す時も金を取る。

シノギを始める時に決めたルールであるが穴もあった。

抱かれる前に必ず金を受け取れと命じたのが悪かった。

そこに例外を作るのをわすれて壱兵衛のしくじりである。

「でも・・・一年待てば良いのですし・・・んん・・・イイ・・・

それが嫌なら・・・別の子達を・・・あんっ・・・集めれば・・・

それだけでしょ?・・・もっとぉ~~~」

絶頂を欲しがり壱兵衛の胸に手を付き脚を大きく開いて腰を振る心咲。

湧き上がる快楽に身を任せ腰に手を添え力任せに体を揺らす。

「ああ・・・イク・・・イク・・・逝っちゃう・・・いくっぅ~~~」

注ぎ込まれる快楽に心咲は弓なりに体をそらし絶頂に溺れ身を捩る。


結局の所。4人の人形達を自由に出来るのは壱兵衛だけだった。

時に行き過ぎたくらいに愛情を注ぐ人形達をうざいと思う事もある。

壱兵衛は自分が恵まれていると言う事をないがしろに出来る粗暴な漢でもある。

それ故に時に冷たく彼女等に接する事もしばしばであり今もぶらりとアジトを後に

久しく脚を運んでいなかった漢の國南地と言う地方が発祥だと言われる

玉遊び《パチンコ》に興じてる。

銀色の玉がジャラジャラと盤面の中を跳ねるのを興味なさそうにだらし無く|四肢を投げ出し見ているが頭に浮かぶのは自分を取り巻く事柄で唯一旨く

転がらない事である。

忍・静流梅・心咲・萌奏。

どの女も人形も魅力があり好きもあれば気に入らない事もある。

それでも自分に注がれる愛情は過度であっても邪魔には成らない。

しかし。一つ。一人。

静流梅だけは別である。

最初の出会いの印象が強すぎた。一目惚れと言っても良いだろう。

このシノギを任された時。多少の手違いはあったし知識不足もあったが。

あの静流梅を自分の物にしたいと思い。そうすると心に決めたが一時間も

しない内に挫折する。

人形は主人を必要とし愛情を注ぐ。

その過程で登録作業が必要となるが、四人の中で静流梅だけはそれが

出来なかった。

なんとか出来たのは仮登録というものだけだ。

後に忍が教えてくれた知識で補足するならば4人はバラバラの流通経路で

集められた。

その過程で一度人形工房に戻され技師の手で主従関係の情報をリセットされて

いたが、どうやら静瑠璃は工房に戻されぬままに裏取引の業者の所へ

と運ばれたらしい。

「何か事情があったのでしょう?」淡々と告げる忍でもその理由は

わからないらしい。

工房に戻されなかったとなれば、今でも以前の主人に義を尽くし

愛を注ぐと成るらしい。

どんなに壱兵衛が愛情を注ぎ可愛がっても静流梅は壱兵衛を愛さない。

どうやらそう言う事らしい。

言う事は聞く。仮とはいえ登録してある。それでも仮初の主人でしかない。

事実。壱兵衛が強く命令すれば確かに答える。

しかし。それは三回に一回。五回に一回。七回に一回。

数を重ねきつく言いつければ言う事を聞き服を縫いで壱兵衛の一物を咥えもするし

股ぐらに呑み込み腰も振る。快楽に酔いしれ壱兵衛の体を貪り尽くす。

・・・・・・。

覗き込む瞳に確かに壱兵衛の顔を映すが。心は彷徨い誰かの姿を追いかける。

思い当たる節も確信もある。

どんなに強く乳房を嬲ってもどんなに激しく一物をしゃぶらせても情事の最中に

壱兵衛の名を呼ばない。

きつく怒鳴り無理にでも尻穴を犯そうとしても静流梅はそれを許さない。

そこに入れてやろうとしただけで気配を察し喚くと細い手足をばたつかせ暴れ|四つん這いに張っても壱兵衛の側から走り逃げる。

それは完全な拒絶であり。一度そうなると後の数日壱兵衛の側には

全く近寄らない。

おそらくではあるが。前の主人がどういう人物で今がどういう関係であっても。

今も尚、愛情を注ぐ対象は前の主人であり体を許し貪っても決して

兵衛の名を呼ばぬのもその尻穴を許さないのも前の主人の言いつけなのだろう。

今この時でも人形・静流梅は頑なに真の主人の言いつけを固くなに

守っているのだろう。

「つまらねぇ~。つまらねぇんだよ」ぼやいたのはたま遊びの掛けに

負けたからじゃない。

既にその脚元には5つも7つも銀玉がつまった箱が並んでいた。

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