70話 タイトル
八重樫との遊園地デートを終え、今日からはまたいつも通り仕事漬けの日々が始まった。
朝の朝礼に始まり、ゲームの調整を永遠に繰り返す作業。
こんな日々がしばらく繰り返していた。
完成目前となったゲームをプレイしていると、彰は向こうの世界で過ごした日々を思い出す。
ストーリーは、みみっく先生こと高梨がオリジナルに書いている部分も多いので、彰が実際に経験したこととは異なる部分もあるものの、倒してきたモンスター、分岐点であるエマの死はゲームのなかでもしっかりと描かれていた。キャラクターや、モンスターのデザインも、ほとんど彰が体験したものとそっくりとなっており、バグ修正には疲れ果てていたものの、ゲームをプレイすることはとても楽しんでいた。
ファイナル版をくぐり抜けただけあって、このゲームは、マップも広い上に、自由度が高く、操作性もかなり洗練されていた。キャラの動きに関しては、モーション班の本田が本当によく頑張ってくれた。
こうして、このゲームは完成目前という立ち位置まで来ていた。
もうすぐ完成だ、と彰は気を抜いていると、一点、忘れていたことに気付いた。それは、このゲームにタイトルがまだ付いていないということだ。
今まで、街中の広告も、タイトルを出さずに、KEPT 15th Anniversary!新作Coming Soon!とだけ記していたため、実はタイトルは決まっていなかった。
急いで上層部と掛け合い、タイトル審査会の日程を調整し、2/2(水)に決まった。
それまでに、彰と八重樫はいくつかの候補を考えた。
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2/2までに、彰と八重樫はそれぞれ2つずつタイトルを考えて、審査会に臨んだ。
「本日はお忙しい中、ご参加いただきありがとうございます。それでは、早速ですが、候補のタイトル名を挙げさせていただきたいと思います。」
KEPT社のタイトル審査会では、挙げられた候補の中から、投票によって決めるシステムがとられてきた。今回も同様のやり方でタイトルを決めることにした。
「まず、一つ目ですが、Vertical Memoriesです。これは、主人公が異世界転生という、横軸の時間ではなく、縦軸の時間の中の記憶の話ということで、名付けてみました。」
一つ目を彰が言い終えると、会議室内では、もうそれでいい、むしろそれがいい。といった声が多く飛び交っていた。
すると、機転を利かせた八重樫が、急遽多数決を取り始めた。
「えーっと。皆さん、お疲れ様です。山城君が考えたこのタイトルに賛同する声が多く聞こえたので、いきなりではありますが、一度多数決してみませんか?」
「いいだろう。」
社長は首を縦に振りながらそう言った。
「では、多数決を取らせていただきます。山城君のVertical Memoriesがいいと思う方は挙手してください。」
すると、会議室にいる人間全員が手をさっと挙げた。
「山城君。これで決まりね。」
「ありがとうございます!」
彰は感謝の言葉を述べながら、会議室内にいる人に頭を下げた。
こうして、タイトルは決まった。
“Vertical Memories”だ。
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