69話 遊園地
朝7:00になると、彰の部屋ではアラームが鳴り響いた。
少し眠たかったが、彰は眠気を押し殺しベッドから起き上がった。
なんといっても、今日は八重樫との遊園地デートなのだ。
そう思っただけで、気分が少し晴れ、興奮気味に支度をした。
彰はシャワーを浴び、私服に着替えた。
今日は、ネイビーのトレンチコートにローゲージのホワイトニットをあわせたコーデだ。インナーには、ギンガムチェックシャツをあわせ、なかなかおしゃれだ。パンツは、黒のスキニーを履いた。
7:50になると、部屋のインターホンがなった。
ドアの前には八重樫が立っていた。
「おはよ、彰。」
「おはよ~、美咲。」
今日の八重樫は、紺のニットワンピースに、チェスターコートを羽織っていた。
靴は、茶系のスニーカーを履いていた。
私服の美咲はかわいいな~、なんて心の中で思っていると、
「さぁいくわよ!」
と、ずいぶん張り切った様子で八重樫は彰の手を引っ張った。
彰は部屋の鍵を閉め、八重樫と手を繋ぎながらアパートを出た。
・・・
電車に乗っている間、八重樫はずっとうれしそうに彰に話しかけていた。
いつもはクールな八重樫が、これだけ無邪気にしているので、彰は少し顔を赤くしてしまった。
・・・
ネズミーランドには1時間ほどで着いた。
チケットはオンライン上で買っていたので、二人は入場ゲートに並んだ。
二人が並びだしたタイミングで入場ゲートは開いた。
興奮する八重樫に手を引かれながら、彰もついて行く。
今日は思う存分八重樫に付き合う。どんなわがままも聞く。その覚悟で来ていた。
入場すると、八重樫と屋外の一番大きなジェットコースターの列に並んだ。
実は彰は絶叫系はあまり得意ではない。
しかし、八重樫が乗りたいというからには、苦手だということも隠した。
順番が来るまで、一緒にできるスマホゲームをプレイしたり、それぞれ自分がプレイするゲームの周回をし、時間を潰した。
それぞれ違うゲームをプレイするあたり、やはり二人がゲーム会社の社員だからだろう。
順番が来ると、彰は顔を引きつりながら、八重樫の隣に座った。
ガタガタ音を立てながらジェットコースターは走り出した。
長い坂を上っていく。
ジェットコースターは上っているときが一番怖い。
これはあくまで彰の意見だ。
頂上まで登ると、ジェットコースターは下り始め、一気にスピードを上げて駆け抜けていく。
彰は顔を下に向け、前の手すりを力一杯握っている。
一方の八重樫は、両手を高々にあげはしゃいでいる。
ゴール地点に着くと、楽しそうにしている八重樫とは裏腹に、彰は疲れ切った表情を浮かべていた。
「彰、大丈夫?」
「あ、あぁ。」
「ジェットコースター苦手だった?」
「ううん。これくらい大丈夫...」
「そう、じゃあ次また別の行くわよ!!」
「うん...」
彰は八重樫に引っ張られるまま、この後も様々なアトラクションに乗った。
お昼は、ピークの過ぎた14:00頃にレストランに入って食事を済ませた。
ご飯を済ませた後もアトラクションに乗ったり、パレードを見て楽しんだ。
日が暮れるまで、二人は満喫した。
あたりが暗くなってくるのとともに、二人は帰宅することにした。
帰宅する最中、八重樫は終始満面の笑みを浮かべていた。
久しぶりに見る八重樫の笑顔。
この笑顔を見ると自分への罪悪感と、これからは絶対に守りたいという意識が彰の中に芽生えた。
帰りも、1時間ほど電車に揺られ、アパートに帰った。
「今日はほんとにありがと!!」
「いえいえ!楽しかったならよかったよ!」
「ねぇ、彰...」
「どうした?」
「もうちょっとだけ、一緒にいたいな...」
「う、うん。いいよ。俺の部屋来るじゃあ?」
「いいの?」
「うん。」
二人は彰の部屋に行った。
「なにする?」
「えーっと、スマブラ!」
「あぁー。スマブラね。久しぶりにやろっか。」
以前、二人がスマブラをしたときには、お互いが負けず嫌いということから、なかなか終わらなかった。
今日も同様、二人のバトルは徐々に燃えていく。
何度も勝ち負けを繰り替えし、気付いたらあっという間に1時間経っていた。
「次がラストね。」
「わかったわよ。絶対負けないわ。」
結局、最後の勝負は彰が自爆したこともあり、八重樫が勝った。
「なんか腑に落ちないけどまぁいいわ。勝ちは勝ちだし。」
「ちっ、悔しいな~。まぁ今日は俺の負けだな。」
勝負を終えると、八重樫はコントローラーをテーブルに置き、彰に顔を近づけた。
「ねぇ、彰。私のこと好き?」
「どうしたの、そんな甘えだして?」
「質問に答えて。」
「うん... 愛してるよ。」
「ほんとに?」
もう言葉でなにを言っても無駄だと思った彰は、目の前にある八重樫の顔にキスをした。
そのまま、八重樫は彰に腕を絡ませた。
・・・
少しして、時計を見ると、もういい時間になっていた。
「明日も仕事だし、私部屋戻るね。」
「うん。わかった。」
「今日もほんとに楽しかった。また明日から仕事頑張れる。」
「俺もだよ。」
八重樫は部屋を出て行った。
彰も、シャワーを浴び、歯磨きをして明日から再び始まる激務に備えた。
・・・
・・・
・・・
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