37話 長く短い夜①

アパートに着き、二人は八重樫の部屋へと入っていった。


彰が部屋に入ってまず思ったことは、とにかく清潔感があると感じた。

女性の部屋に入るのはいつぶりか忘れてしまったくらいに久しぶりだったため少し緊張していた。


「彰、今から準備するからちょっとそこのソファー座って待ってて!」

「了解でーす。」


彰はソファーに座り勝手にテレビをつけて見始めた。


八重樫はというと、キッチンへ行き、作り置きしていた鍋に火を通し始めた。

実を言うと、八重樫は朝二度寝していた訳ではなかったのだ。

朝起きて、自分の支度を済ませてから、彰を誘うつもりで、カレーの仕込みをしていて遅れたのであった。

それを最初から彰に伝えるのもなんとなく嫌で、電話で嘘をついたのであった。


カレーを煮込んでいると、炊飯器のタイマーが鳴った。

これも家を出る前にタイマーをセットしていたので、ちょうどいいタイミングでお米が炊けた。


あとは、冷蔵庫から野菜を取り出し、サラダを作っていく。


こうして、手際よく料理を作り上げ、彰の近くにあるローテーブルに運んだ。


「うわ!カレーじゃないですか!!僕カレー大好きなんですよ!!」

「あら、そう。それはよかったわ。」

「それに、サラダの盛り付けも店のやつみたいっす!」

「そんなに褒めないでよ。恥ずかしいじゃない。」

「いやいや、それにしてもめっちゃうまそうです!」

「うまそうじゃなくておいしいのよ。」

「じゃあ早速いただきます。」


彰はスプーンでカレーをすくい、口へ運んだ。


「やばい、まじでうまいっす。」

「よかった。」


安堵の表情を浮かべながら、八重樫もカレーを食べ始めた。


「意外とと料理上手なんですね!」

「あんた失礼ね。」

「ごめんなさい(笑)」

「まぁいいわ。それよりさ...」

「どうしました?」

「今日まだ全然名前で呼んでくれてない...」


思い返すと、彰は確かに八重樫の名前をほとんど呼ばずに会話していた。


「言われてみればそうでしたね。」

「ねぇ、名前で呼んで...」

「なんかそう言われると緊張します...」

「まぁそうよね。」

「八重樫さん。」

「違う。」

「あっ、美咲さん?」

「それも違う。」

「美咲?」

「うん。そう呼んで...」

「わかりました。」

「あと会社以外ではため口でいいわよ。」

「そうですか... 最初は慣れないかもしれないけどそうしてみます。」

「ほら、もうすでに敬語じゃない(笑)」

「そうだね(笑)。」


二人はゲラゲラ笑いながらご飯を食べた。


・・・


ご飯を食べ終え、食器を洗う。

八重樫が最初は一人で洗っていたが、彰も八重樫の隣に立ち、皿洗いを手伝った。


食器を洗い終え、八重樫からゲームをしないかと言われ彰はそれにのった。


八重樫はリモコンを二つ取り出し、一つを彰へ渡した。


「何のゲームやる?」

「うーん、じゃあソフト見せて?」

「はい。この中なら何でもいいわよ。」

「あっ、じゃあスマブラで!」

「いいわね。私負けないわよ。」

「望むところだ。」


スマブラとはスマッシュブラザーズという格闘ゲームで、様々なゲームのキャラクターを操作できるシンプル故に奥が深いゲームである。


最初の試合は、八重樫が彰を圧倒した。


「あんた、全然強くないじゃない。」

「いやいや、俺まだ本気じゃないから。」

「あらそう、じゃあ次は勝てるといいわね。」


八重樫はニヤニヤしながら軽く彰を煽った。


次の試合は彰が八重樫に勝った。


「あれ~、さっきあんなに煽ったのに負けちゃったっすね。」

「あぁーー、悔しい!もう一回!!」

「はいはい。やりますか。」


お互い負けず嫌いな二人の対決はなかなか終焉を迎えない。

気付いた時には、時計の針は23:30を指していた。


「あら、もうこんな時間だったのね...」

「なんかごめん、こんな時間まで...」

「全然いいのよ、私は。」

「ならいいですけど...」

「ねぇ彰... 明日なんか予定ある?」

「特にはないけど...」

「じゃあ私の部屋に今晩泊まってかない?」

「えっ...」


・・・

・・・

・・・

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