35話 水族館②

「楽しみだね!」

「はい!そうですね!」

「イルカショー見るの多分小学生の時ぶりとかかな?」

「僕もそれくらいだと思います。」


ワクワクした様子で席に座り、イルカショーの開始を待っていた彰と八重樫。


すると二人の隣から慣れ親しんだ声が聞こえてきた。


「本田さん!イルカショーもうすぐで始まりますよ!!」

「わかったわかった!ちょっと落ち着けって笠原。」

「私イルカショーめっちゃ楽しみです~」

「そうだな!」


そう、声の主は本田と笠原だった。


彰は真っ先に気づいたが、他はだれもお互いに気づいていない。


隣にいる二人の存在にまだ気づかない八重樫は彰の腕にベタベタ寄りかかりながら会話を続ける。


この姿を見られては恥ずかしいと思い、すぐに八重樫の耳元で本田と笠原が隣にいることを伝える。


「ちょ、美咲さん、と、となり...」

「なによ~、」

「だから隣に...」


八重樫は隣を向くと、ようやく二人の存在に気付いた。


「あ、ありがと彰... どうする?気付かないふりしとく?」

「うーん... 二人もいい感じなんで向こうが気付くまでは...」


そう言っていた最中だった。


「あれっ!もしかして彰と八重樫さん?!」


バカが先に気付いて大きな声で話しかけてきた。


八重樫が冷静に対処する。


「あら、本田君じゃない。それに笠原さんも。」

「こんにちは~」

「休日に二人で水族館なんてお二人は仲良しね~。」


ニヤニヤしながら笠原に言う。


すると笠原が、

「それ、そのまま先輩方にお返しします~」


八重樫は、慌てて、返答する。


「べ、別にそんなことないわよ。仕事の話とかしたくて、カフェばかりじゃ飽きるから、今日は気分転換に...」

「そうなんですか~」


うれしそうに笠原が答える。

すると割って入るように、本田がしゃべり始める。


「そう、俺と笠原ちゃんは仲がいい!」

「どうしたんだよ、いきなり?」

「彰、俺お前に言わないといけないことがある。」

「なんだなんだ、どうせまたしょうもないことだろ?」

「いや、本気だ。俺と笠原ちゃんは付き合ってるんだ!!!」


・・・


一瞬の沈黙の後に、彰と八重樫は口をそろえて、


「えっーーーーーー!!」


と思わず声に出してしまう。


「笠原ちゃん、だ、大丈夫か?笠原ちゃん本田に脅されたりしてないか?」

「そうよ、弱みでも握られてるんじゃないの?」


「全然そんなことないですよ~。 むしろ告白したの私からですよ~。」


「な、なんてこった...」

「っておい!!さっきから俺ひどい言われ用だな!!」

「いや、そりゃ驚くだろうよ... 会社一バカなお前が笠原ちゃんと付き合ってるなんて知ったら。」

「それは、関係ないだろ!てか、お前と八重樫さんはどういう関係なんだ?!本当に付き合ってないのか?」

「そ、それは...」


彰が困った様子で八重樫にパスを出す。

すると八重樫は、諦めの表情で、


「さっきは嘘言ったわ。本当は私たちも付き合ってるわよ。」

「ひょえーーー!マジすか?!これはビッグニュースっすね!!」

「絶対に社内で言うんじゃないわよ!」

「わかってますって~。」


本田のわかってますほど信用のできないことはないが、とりあえず諦めて本当のことを話した。


あれこれと話していると、ショーは始まった。


曲がかかり、飼育員のお姉さんとともに、イルカが水中を華麗に泳ぎ出す。

観客は曲に合わせ手拍子を始める。

会場の雰囲気に合わせ、4人も手拍子をした。


イルカが高く飛ぶたびに、会場は歓声に包まれる。


イルカはその後も、体を反らしながら泳いだり、高くに設置されたボールに向かって飛び上がったり、フラフープをくちばしでくるくると回したりと様々な技を披露していく。


技を披露するたびに、会場は熱気に包まれていった。


いよいよショーはクライマックスを迎え、3頭のイルカはタイミングを合わせ、空中で前後左右に回転しながら、飛び回る。


そして、ラストのジャンプは、最も高く、観客席に一番近い位置で、行われたため、水しぶきが高々と舞い上がった。


前から3列目に座っていたKEPT社の4人にも、もちろん水しぶきがかかった。


・・・


八重樫と笠原は、それぞれ持っていたハンドタオルを鞄の中から出し、顔を拭いていた。それを借りて、男性陣も顔を拭いた。


「楽しかったわね!!」

「はい!迫力すごかったですね!」


こうして、4人はイルカショーを大満喫したのであった。


・・・

・・・

・・・

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