32話 始動

彰と、八重樫は、公園を出てオフィスへ向かった。


最初は手を繋いで歩いていた二人だったが、オフィスに近づくにつれ、恥ずかしくなり、自然とその手はほどけた。


オフィスに着くと、ほとんどの社員が出勤していた。


早出出勤する予定だった二人だったが、公園に寄ったこともあり、結局オフィスに着いたのは8:45だった。


7月も、もうすぐ終わりに近づいてきたということもあり、オフィス内は冷房がガンガンにかかっている。


彰と八重樫はそれぞれのデスクに着き、支度を済ませ、朝礼に臨んだ。


「みんな、おはよう。」

「おはようございます。」

「そろそろ、プロト版を完成させないといけないわ。みんな気を引き締めて頑張ってちょうだい。」

「僕からも、連絡なんですけど、プロト版においては、ビジュアルはまだ仮でもかまいません。その代わり、このゲームがどういったところでユーザーにウケるのか、あとは、このゲームのやりがいはどこにあるのか、そういったところを今一度考え直してこのゲームと向き合ってください。」

「よし、じゃあ時間もないから作業に取りかかるわよ。」


八重樫と彰が話を終え、朝礼は終わった。


・・・


作業を進めていると、シナリオライターの高梨が彰に話しかけた。


「お疲れ様です、先輩。」

「お疲れ!どうした?」

「シナリオなんですけど、一応全体はざっくり書き終わりました。一度目を通していただいてもよろしいでしょうか?」

「わかった。」


・・・

・・・


「うん。いい感じで書けてると思うよ!」

「あの~、1個どうしても引っかかる部分があるんですけど...」

「ん、どこどこ?」

「先輩が指定した、ヒロインが殺されちゃうところなんですけど... ほんとにこれでいいんですか?」

「そこは少しこだわりがあってね... やっぱり、ヒロインが殺されちゃうことで、この主人公は、最終的に強くなって魔王を倒すっていう流れにもっていきたいからダメかな?」

「うーん、そう言われたらそうなんですけど... ユーザーの反感かいませんかね?」

「ヒロインと結ばれるだけがハッピーエンドじゃないと僕は思うよ。」

「では、このままで進めて行きます。」

「うん。ありがとう。」


彰と高梨は、ヒロインの生死問題について一通り議論し、それぞれの作業に戻った。


・・・


時間はあっという間に過ぎ、定刻を迎えてしまったが、さすがに作業が終わらないので、ほとんどのメンバーは残業していた。


結局、彰がこの日の作業を終わらせたのは20:00頃だった。


オフィスを出ようとすると、後ろから一人ついてきた。

八重樫だった。


二人はオフィスを出て、いつも八重樫が通ってるラーメン屋に行くことになった。


「へい、らっしゃい!」

「お疲れ、おっちゃん。」

「こんばんは。」

「おぉ八重樫さん!それに隣のは...」

「彼氏よ。なんかある?」


顔を赤くしながら、彰のことを彼氏と言った八重樫に彰自身も恥ずかしくなって顔を下に向ける。


「おぉ~、八重樫さんこの前言ってたのこいつのことか!!」

「そうよ...」

「にーちゃん名前は?」

「山城です。山城彰です。」

「山城君な!よろしく!わしのことはおっちゃんでも、店主でも好きなように読んでくれ!」

「あ、ありがとうございます...」

「なんだ、お前らいつから付き合い始めじめたんや?」

「......」

「おっちゃん、実は...今日から...」

「がっはっはっは!どうりで初々しいわけだ!」

「そうよ。な、なんか悪い??」

「全然そんなことねーよ。おい、じゃあ今日はお前さんたちに一杯ずつサービスしてやんよ。」

「いやいや、申し訳ないっすよ...」

「何言ってんの。これから通ってくれればいいんよ!」


そういって、今日はサービスしてもらえることになった。


ラーメンをすすっていると、店主が八重樫についてペラペラとしゃべり出した。

そして、八重樫は顔を赤くしたまま、それを必死に止めようとしている。


ラーメンを食べ終え、会計を済ませようとすると、本当に今日はサービスしてくれるみたいで、店主は金を受け取らずに、二人を調理場から見送った。


「おいしかったっすここのラーメン!」

「よかったわ。私ここにもう2,3年通ってるのよ。」

「だからあんなに仲よさげだったんですね!」

「だからって、あのおっちゃん、話していいこととダメなことあるでしょ。」

「いいじゃないっすか(笑)。」

「良くない!」


八重樫は少し拗ねていたが、すぐに機嫌を取り戻して、二人仲良くアパートへ戻っていった。


・・・

・・・

・・・




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